シェフくりから

 端末に設定したアラーム音で目が覚めた。
 すっかり見慣れた和室だ。移動が多い冒険者のサガか、私物で部屋を飾る習慣がないので殺風景である。
 窓から差し込む朝日に目を細めつつベッドから出た。初期に備えられていたのは布団なのだが、布団で寝ることに慣れず畳の上に置けるベッドを導入したのだった。
 身支度をして、ニワトリの状態になってから部屋を出る。夜警で隣室に控えていた前田藤四郎も姿を見せた。

「主君、おはようございます」
「おはよう、前田。夜警お疲れ様」

 前田が礼儀正しく礼をする。頭を上げるタイミングで軽く撫でると、凛とした表情が幼くなった。
 朝食のため、ふたりで広間に向かう。
 食事は基本的に広間で摂る。出陣や遠征の関係で個々に摂ることもあるが、朝は大抵全員が揃う。わたしがみんなと同じ場で食事をすることやキッチンに入ることに複雑そうな顔をする刀剣男士もいたが、わたしが調理や食事が好きだと分かると納得してくれた。
 刀剣男士が増えるにつれ配膳の手間がかかるということで、今ではバイキング形式をとっている。各々がお盆を持ち、大皿や大鍋から自分の分を取り分けるのだ。
 広間は既にちらほら刀剣男士がいた。挨拶を交わしつつ、前田とお盆を取る。

「卵焼き、今日は甘いのとお出汁のと、両方ありますね」
「本当だ」
「主君は、どちらがお好きなのですか?」
「甲乙つけがたいな。今は甘いほうの気分」
「ふふ、では僕も」

 白米、具沢山の味噌汁、鮭の切り身、卵焼き、白菜の漬物、たくあん、きんぴらごぼう、カットトマト、大根おろし。朝食は和食が多い。
 あっと言う間に平らげると、前田がわたしの分の食器も片づけてくれる。礼を言うと、前田は笑顔で「大倶利伽羅さんが」と広間に入ってきた刀を示した。ああ、と納得して、わたしは大倶利伽羅に自分の居場所を知らせる。

「伽羅、こっち。おはよう」

 大倶利伽羅はのそのそとやって来て、わたしの隣に胡坐をかいた。
 刀が増えてくると料理や馬の世話やら畑仕事やらは当番制になっていく。内番で見込めるステータス上昇が上限になれば、係として専任にする。料理に関しては、本丸発足当初こそわたしが中心だったが、今では刀剣男士に任せつつ手伝いに参加したり、時間があるときに任せてもらったりしている。
 その刀剣男士料理当番の中心が、「慣れ合うつもりはない」が口癖の大倶利伽羅である。こんちゃんいわく、料理に興味のある傾向の強い刀剣もいるらしいのだが、弊本丸には未だ顕現していない。
 大倶利伽羅は慣れ合うつもりがなく料理も特別好きというわけではないが、食べることが好きらしい。わたしが不在のときにわたしの見様見真似で料理をしたり、夜食のために簡単なレシピを覚えたりと、食事好きが高じて料理も上達していったのだ。料理中は料理関係のことでコミュニケーションが取れることもあり「慣れ合うつもりはない」と言いつつ他の刀剣男士からも好かれている。
 大倶利伽羅は料理関係の相談を、よくこうして食後にしにくるのだった。

「あんたに調達してもらう肉の注文がつけにくい。何が何向けなんだ」
「ああ、確かに。メモって渡……しても、わたしの文字は読めないか。わかった、いくつか説明するよ」
「ああ」
「一昨日作った煮物に使ったのはベニツノの笹身。あっさり目だけどボリュームがあって美味しいよ。わたしがグラタンとかキッシュに使うのは、エフトの尾肉が多いかな。これはステーキにしても美味しい。あとは――――」

 エオルゼアで手に入る全種の肉を伝えても混乱するだろうと、今まで本丸で振る舞った料理に使った肉について教える。大倶利伽羅は個刃用携帯端末に入力してメモをとっていた。

「献立教えてもらったらそれに合うものを持ってくることも出来るから、作りたいものが先に決まっていたら教えて。野菜でも何でも。わたしも勝手に持ってきたりするけど」
「分かった。あと持ってくるのは良いが数が多いなら先に言え。場所を食う」
「シャインアップル五〇〇個は多かったな」
「当たり前だ」
「収穫にはさすがに時間がかかったよ」

 採集も趣味なので、時間を忘れて取り続けてしまうのだ。
 話が終わったからと立ち上がりかけていた大倶利伽羅が、片膝を立てたまま停止していた。

「どうかした?」
「店のを買い占めてきたのかと思ったが……あんた農園でも持ってるのか」
「いや、採ってくる。森とか、そういうところから」
「自生……?」
「そう。マーケットで買うこともあるけどね。肉は大抵マーケット」

 大倶利伽羅はそれを聞いて一秒ほど固まり、視線をあらぬ方向へ向けて、ふらりと立ち上がった。そのまま立ち去りそうだったので大倶利伽羅の腕をつかむ。

「その『言いたいことがあったけど喋るのも応答も面倒だからやめておくか』っていうの、やめよう。話してよ」
「……」

 大倶利伽羅はこれ見よがしにため息をつき、顔をしかめつつ腰を下ろしてくれた。「座ったんだから離せ」掴んでいた手をほどかれる。

「逆かと思っていただけだ。動物と戦うことがあると聞いていたから、肉を調達して、野菜を買っているのだと。価格的にも肉のほうが高いんじゃないのか」
「なるほど、確かに逆だね。野菜は群生地が分かっているから調達しやすいんだ。肉のほうが探すのが手間で、マーケットで買い占めている。こっちの世界での肉ほど高くはないよ、みんな出かけながら倒して捌いているだけだから」
「たくましい人間が多いんだな」

 それだけだ、と大倶利伽羅が今度こそ腰を上げる。わたしも食器の片づけに参加するために立ち上がった。大倶利伽羅もキッチンに行くらしく、自然と同じ方向に歩き出す。

「ああ、そうだ、伽羅」
「……まだなんかあるのか」
「今日の朝食もとても美味しかった。ありがとう」

 大倶利伽羅は足を止めずに、わたしを一瞥だけする。また先ほどと同じ、言おうとして止めている気配を感じてチキンヘッドの下から視線を送った。大倶利伽羅が逃れるように早歩きになるものの、行き先が同じなので意味がない。
 キッチンでは、既に下げてある食器の片づけが始まっている。話し声や食器の音や水の音に紛れて、大倶利伽羅がぼそりと呟いた。

「あんたの飯も、いつも美味い」
「あ、」

 りがとう。
 わたしの返答を聞かない内に、大倶利伽羅は冷蔵庫に向かって行った。食材の確認をするのだろう。大きな冷蔵庫を開けたり、常温で置いている野菜を眺めている姿を見ると微笑ましくなる。口下手で大人数は苦手だが、素直で優しい刀なのだ。

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