わらび餅デート2

 本丸へ戻り、加州の部屋に呼ばれる。刀剣男士の私室は顕現順に割り振っており、加州は秋田と相部屋だ。
 加州がネイルポリッシュ――爪紅、と彼は呼ぶらしい――を取り出すのを眺めていたが、ふとわたしは自分の両手を見た。鳥の羽の形。ニワトリの着ぐるみ。あるようでない、衣装の投影(ミラージュプリズム)。わたしが物を扱う分にはわずらさしさは無いのだが、どう頑張っても爪は見えない。
 わたしに向き直った加州もそれに気づいたのだろう、動きが固まった。
 着ぐるみを外すには、別の衣装を投影するのが手っ取り早い。投影を完全に解除するには特定のアイテムが必要であり、今それを所持していないためだ。しかし、衣装の投影は、エオルゼアの特定地域でしか行えない。よって、今本丸で着ぐるみを外すには、着ぐるみが投影されている装備を普通に脱いでいくしかない。

「加州、ちょっと待ってて。コレ脱いでくる」
「え、あ、いいの……?」
「どうして?」
「だって、ずっとそれ着てるでしょ。俺たちに見られるの嫌なのかなって……」
「政府施設で過ごしていたときに顔を出せないから常にこうしていて、そのまま本丸に来てしまっただけなんだ。嫌ではないよ」

 加州は言葉を探すように控えめに問いかけてくる。

「えっと、見た目が……普通じゃないっていう?」
「こっちの世界の人間とは違うな。向こうでの、いくつかある人間の種族のうちの一つなんだ」
「俺が見ても、大丈夫?」
「うん。……でも、今更外して過ごすの恥ずかしいな。爪を塗ってもらったら、またニワトリに戻る」
「あ、じゃあさ、俺が主の部屋に行ってもいい? そうしたら、主はニワトリを外して本丸を歩かなくてもいいわけでしょ」
「確かに、そうしよう」

 加州の提案に乗り、ふたりでわたしの私室へ移動する。
 離れにある審神者の私室には、シャワールームが設けられている。シャワールームの他にも、トイレや簡易的なキッチンもあり、生活が出来るよう備えられている。加州には部屋で待ってもらい、わたしは脱衣所で着替えることにした。
 手が出ていればいいので頭の装備まで取らなくてもいいのだが、頭だけニワトリのままなのは大変おもしろい状態になるのでそれも外した。魔術収納されている装備は、現在全てがニワトリ投影済状態なので、脱衣所に備えていた新品のスウェットを着用した。
 グレーの肌、全身の所々を飾る濃紺の鱗、耳はなく、角と尻尾が生えている。アウラ・ゼラの種族としては大して珍しくないのがわたしの姿だ。こちらのスウェットには尻尾穴がないので、尻尾は右足と一緒に通した。

「加州、お待たせ」
「っうん。…………」

 テーブルに臥せっていた加州が勢いよく体を起こす。その衝撃でネイルポリッシュの入れ物が倒れたが、加州は気付いていないようだった。蓋を開けておらず何よりである。
 加州がわたしを見つめて硬直する。わたしは気まずくなりつつも、加州の前に座って顔の前で手を振った。

「ええっと、変かな……?」
「ソんなことない! とっても、とっても可愛いよ!」

 加州が声を裏返しながら褒めてくれる。そのまま熱に浮かされたような顔で、わたしの頬に手を伸ばしてきた。
 チキンヘッドを被っているときは、決してしなかった仕草だ。したとしても、チキンヘッドが阻んでいたであろうひとの手の平が頬に触れる。わたしの輪郭を覆っている鱗と、頬の皮膚を優しく撫でながら、加州は大層大事なものを見るような目をしていた。

「主は、いつもこんなに真っ直ぐ、俺たちのことを見てくれていたんだね」

 加州の手から、加州の熱が伝染する。ぶわぶわと体が熱を持っているのがわかり、戦闘中以外で滅多に感じることのない血流に加州から目を逸らした。
 加州が小さく笑う。

「目、逸らしちゃうの」
「加州が熱心に見つめてくるから」
「主が綺麗なんだもん」
「やめやめ」

 頬から加州の手が離れる。

「……ニワトリの格好、やっぱりやめたほうがいいかな? 今まで気づかなかったけど、わたしの目線が分からないのって不誠実だよな」
「いつかは外すかもしれないけど、もうしばらくは着ててほしいな。俺だけが知ってるみたいで、特別って感じするから」
「じゃあ、そうしよう」
「よおっし、それじゃあ塗るよ」

 先ほどまでの熱はどこへやら、加州はただ楽しそうにネイルポリッシュのボトルを開ける。わたしは左手で頬杖をついて、右手を差し出した。
 加州が丁寧にわたしの爪を塗るのを眺めながら、ただ穏やかな時間を過ごした。


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