凪くんが収監される


 凪くんが強化合宿に行くことになった。部活の合宿ではなく、日本フットボール協会から招集があったものだ。合宿内容も日程も不明ということでかなり胡散臭いが、御影くんいわく、日本フットボール協会からであることは確かなようだった。
 招集があったのは、凪くんと御影くんだけだ。白宝高校サッカー部に、ではない。元々白宝高校サッカー部は弱小で、ふたりの入部により名前が売れたに等しいので納得である。
 凪くん本人は乗り気ではなかったが、そうは御影くんが卸(おろ)さない。「玲王が言うから行く……」と不服そうだったが招集に応じる構えだった。
 合宿となれば、しばらく凪くんとデートは出来ない。学校の扱いがどうなるかすら不明だ。学校で顔を合わせられたらいいが、どうだろうか。強化合宿というくらいだから、連絡をとるのも難しくなりそうである。

「とても寂しいけど、きっと織姫と彦星よりマシだから大丈夫。もらったぬいぐるみ抱いておく」
「俺も年イチしか自由に出来ないの嫌」
「ううん、織姫と彦星は十四光年離れてるから、光の速さで移動しても片道七年かかるの。往復十四年かかるの」
「十四年も合宿はさすがに無いな」

 そんなやりとりがあって、凪くんは御影くんとともに強化合宿に向かった。
 現地で日程発表とかされているんだろうかと考えていると、凪くんからメッセージが送られてきた。

【荷物丸ごと取り上げられるって。携帯も。しぬ。俺の生存を祈ってて】

 中々過酷な合宿らしい。
 わたしを忘れないでほしいのでメッセージは送りたいが、わたしからのメッセージが溜まっているのもそれはそれで恐怖だろうし、しかしわたしが凪くんを好きだということはちゃんと伝えたい。
 何を送れば恐怖感なく、重さを感じさせず、自分の存在をアピール出来るのか。悩んだ末、毎日一枚ずつ先輩のベストショットを送ることにした。

      *

 先生から、凪くんと御影くんがしばらく公休になると知らされた。学校を休んでまで行う合宿というものに恐怖を覚えるが、それだけ力が入っているのだろう。そこに凪くんと御影くんが参加しているというのは誇らしい。
 また、テレビでもこの合宿が取り上げられていた。<青い監獄計画>と書いて<ブルーロックプロジェクト>。名前の厳つさもさることながら、中々尖った方針の合宿だった。仲間を蹴落とし、エゴを育て、最強のストライカーをつくるというプロジェクト。こわい。案の定世間からは批判が殺到しているが、とてつもなく強い選手がいたら勝てるというのは事実だと思うので、凪くんと御影くんの活躍を楽しみにしておく。
 凪くんからの返信は思いの外早く来た。ブルーロック参加者でチームを作って総当たり戦をしており、獲得ゴール数に応じた報酬の中に携帯返却があったという。プロジェクト内容詳細を追及しなかったのは、凪くんはきっと打つの面倒だろうなと思ったからである。電話は出来ないらしい。

【サッカー楽しくなってきた?】
【全然。なんでこんなに弱くてサッカーやってんだろってヤツばっかり】
【強者だ。いいライバルに出会えるといいね】
【そんなことより、ここ基本屋内だから空見えないよ。試合の時だけ、フィールドの屋根開くけど。空山さんだったら禁断症状出るんじゃない?】
【暴れ狂うかもしれない】

 携帯が手元にあるとはいっても、合宿中なら返信しにくいだろう。しかしわたしの存在は覚えていてほしい。状況はあまり変わらず、わたしは先輩の写真を送り続けた。
 凪くんは、余裕があるときにわたしに返信をくれる。雑談以上でも以下でもない、中身のないやりとりをしていたが、あるとき急に風向きが変わった。

【サッカーって面白いかもしんない】

 無気力な天才が、やる気を見出したらしかった。

      *

 ブルーロックプロジェクト参加者生き残りが、なんとU20(アンダートゥエンティ)日本代表と試合をするらしい。凪くんから直接連絡が来た。
 凪くんと御影くんのふたりともサッカーが上手いということは知っているが素人評なので、全国ではどのくらいの位置になるのかをちゃんと考えていなかった。だから、ふたりが三〇〇人の上位三五人に残っているというのは素直に驚いた。しかも、凪くんに至っては残った三五人の中でも上から六番目だという。
 やる気を出した天才はすごい。
 ブルーロック対U20日本代表の試合は注目度抜群だった。ブルーロック側は無名選手ばかりだが、U20日本代表はそうではない。おまけに、スペインを拠点にしている<日本の至宝>とやらが帰国して参戦するらしい。この日本の至宝さんがサッカー界隈で爆裂な人気を誇っており、ブルーロックの無名ぶりを相殺しているのだそうだ。
 試合会場はブルーロックプロジェクト施設。チケットをとって現地で見たかったが争奪戦に破れた。選手の身内には招待チケットがあるらしいが、悲しいことに<彼女>は他人なのである。
 家族にしつこいほど試合時間を伝え、リビングのテレビを独占する。もちろん録画もしている。スポーツ観戦などどうすればいいか分らないが、ソファに座り、携帯を握りしめ、ぬいぐるみを抱いて、先輩を横に座らせた。


 凪くんがカメラに抜かれる度に心臓が止まる。
 久々に見る凪くんは相変わらず、いや、今まで以上に格好良かった。サッカーを楽しんでいるのが分かる。勝ちたいという気持ちが伝わってくる。ブルーロックプロジェクト参加前には決して見られなかった表情がゴールへの渇望を表していた。
 なにがどうしてそうなったの、と聞きたくなる絶妙なボールコントロールに心臓を撃ち抜かれる。おまけに、凪くんはチーム初得点を決めた。
 こんなにかっこいいなんて聞いていない。


【勝利おめでとう。世界一かっこよかった】

 たくさん伝えたいことはあったのだが、集約するとこれになる。
 試合中継が終わっても、録画を見てまだまだ試合に浸る。今夜は興奮して眠れない気がする。凪くんが映るたびにわたしの挙動が不審になるので、家族には見事彼氏がバレた。
 数え切れないほど凪くんのシュートシーンを見返していると、その凪くんから返信があった。

【ありがと。勝つって気持ちいいって最近知った】

 メッセージに添えられていたのは脱力系謎生物のスタンプと一枚の写真だった。
 角度的に凪くんの自撮りで、後ろにはブルーロックメンバーが写っていた。何人かはカメラ目線でピースをしている。長テーブルにオードブルが並んでおり、豪勢な食事で勝利を祝っているのが分かった。御影くんが凪くんの隣にいないことには違和感を覚えたが、凪くんの交友関係の広がりを感じて嬉しくもなる。
 写真を保存していると、追加でメッセージが送られてきた。

【明日から二週間、オフなんだって。でーとしよ】
【する】

 さて、わたしには凪くんブランクがある。おまけに前より格好良さが増している。果たして生き延びられるだろうか。

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