Cross Fate 俊秀の騎士


2019/5/6のスパコミにて書き下ろし収録したものです。タイトル間違えてることに今気付いて辛いです。
手に取っていただいた方、ありがとうございました。





 白竜騎士団の入団試験が終了し、ランスロットは執務室で大きく息を吐いた。
ハプニングはあったものの、応援を頼んでいた騎空団(グランたち)や受験者の協力で、誰一人欠けることはなかった。新たな懸念も生まれたが、一段落と言っていいだろう。
 双剣を置いて席に着くと同時、執務室のドアが三度ノックされる。
ランスロットは軽く頭を振って騎士団長の顔になり、入室を促した。

「ラーンちゃん、お疲れさん」

 ランスロットをそう呼ぶのは、副団長のヴェインだけだ。ヴェインはフランクな調子で部屋に入り、持っていた書類をデスクに置いた。
 ランスロットは気を引き締めたまま、だが幼馴染相手ということでいくらか柔らかい態度で、数枚の書類に目を通す。

「新米騎士の配属提案書、これで良ければ各隊長にも回すな」
「ああ、ありがとう。兵舎の案内は終わったのか?」
「おう。あ、そういえば、グランが騎士団の修練場に入ってもいいかって」

 グランは国王や重鎮とも面識があるので食事に招かれている日もあるが、ランスロットが修練場に呼び出した覚えはない。
 ランスロットに咎める意思はなく、純粋に疑問だった。ただ体を動かしたいのならば森に行けばいい。魔物が出ても、グランたちならば何の心配もいらないのだ。

「なんでまた?」
「新入りたちにすっげー懐かれたみたいでさ」
「はは、なるほどな」

 グランの騎空団は実力が非常に高い。ランスロットのように某騎士団団長という騎空士もいるが、そういった肩書きがなくとも、一流の剣士や弓兵や魔導士等々が揃っている。おまけに、団風が気さくでフレンドリーだ。強さを求める騎士見習いが憧れるのも頷ける。
 白竜騎士団の実力が劣っているとは決して思わない。だが、国と民を守る騎士団は、島々を移動して星晶獣と渡り合うことがまずない。騎空士の話は魅力的だろう。
 上司として少々悔しいが、騎空団にいた者としては誇らしい。

「特別講師として、依頼してみようか。新入りたちは、一度故郷に戻る者が多いだろうが……今日中にまとまれば知らせられる」
「じゃ、俺が調整してくるぜ」
「よろしく頼む。先ほど解散はしたが、グランはまだ近くに?」
「怪我人の救護にあたってる団員がいるから、そっちの様子見に行くって。……で、あのさ」

 ヴェインが急に視線を泳がせた。
 あー、うー、と珍しく言いよどむ様子に、ランスロットは眉を寄せる。ヴェインは質の悪い嘘をつくようなことをしない、素直な男だ。後ろめたいことがあったとしても、真っ直ぐに語るだろう。本当に幼い頃から知っていて気の置けない間柄なのだ、何を言いあぐねているのか全く分からなかった。
 ヴェインはランスロットの訝しむ視線に気づいたのか、頭をかいて口を開く。

「……合格者は、正式入団前の準備期間ってことで、三十日間休みだろ?」
「ああ、そうだが」
「ランちゃんも、一日くらい休めば……とか思って」
「そう暇じゃないのはヴェインも分かってるだろ」

 ランスロットは、ヴェインが持ってきた書類を示した。ただでさえ忙しい通常業務に新米騎士の育成が加わり、試験中に遭遇した骨の魔物についても調べなければならない。
 そもそも、国を守る騎士団に全体休暇は存在しない。騎士団長としての責任があるランスロットは、国と騎士団の情報を常に把握する必要がある。作業効率を考えて、必要な休息や最低限の休暇はとるが、そう気軽に休める立場ではない。
 ヴェインはラインスロットの言葉に頷きつつも、納得はしていないようだった。

「それはそうだけど、ほら、グランたちが滞在するのも長くないだろ」
「そうだな……?」
「ああもう! ランちゃんってそういうとこあるよなあ! 真面目なのはいいんだけどさ!」

 ランスロットはヴェインの勢いに押されて、何となく頷いておいた。一体、褒められているのか貶されているのか分からない。
 ヴェインは顔色を変えたりうなったりと、一人で何やら忙しそうだ。鍛練の成果でランスロットよりも迫力のある体つきに成長したが、そうしているとあまり変わっていないようにも見える。
 いつの間にかランスロットの身長を抜かしてしまった年下の幼馴染は、意を決したように執務机に両手をついた。

「ランちゃん、ちょっと一緒に来てくれよ。な?」

ヴェインは人懐こい笑みを浮かべているが、有無を言わせぬ圧力があった。
 
      * 

 白竜騎士団の入団試験において、登山中に正体不明の魔物と交戦した結果、白竜騎士団にも騎空団(グランドブルー)にも負傷者が出た。回復魔法使いが即座に救護に回ったが、回復魔法は一般的に魔力消費が激しく、連続で行使することは出来ない。おまけに、一回で回復できる程度は、怪我の具合と回復魔法行使者の実力次第だ。
 負傷者全員に命の別状がないと確認できたのは、下山してしばらく経ってからだった。


 メノウは、落ち着き始めた救護スペースの隅でパンをかじっていた。
負傷者の状態が落ち着いたということで、騎空団員に休息が許されたのだ。白竜騎士団所属魔導士は、まだ忙しそうに動き回っている。
 回復魔法を行使できるメノウは、救護に回った騎空団員の一人だ。魔力を全て回復魔法に回し、インターバルは軽傷者の手当てに走り回った。他に、ティナやイオやぺトラも回復魔法を行使しまくっており、思い思いの場所で休息をとっている。
 少し前に、前線を張っていたグランが負傷者の様子を見に来た。グラン自身も怪我を負っていたので、今は白竜騎士団の魔導士から手当てを受けている。本人は平気だと言い張っていたが、ルリアとビィがじっと見つめれば早々に折れていた。
 メノウは疲労した頭で、己の魔力量を冷静に把握しつつ、配られたパンをかじる。
そろそろ口内の水分が尽きそうだ。飲み物をもらえないかと重い腰を上げた時、メノウの視界に使い捨てのコップが現れた。

「……?」

 コップを持っている腕を辿ると、青が見えた。普段見ている空よりも深い青だ。洗練された雰囲気と上品さを感じるロイヤルブルーは、疲れたメノウに大きすぎる衝撃だった。
 どこからどう見ても、白竜騎士団団長のランスロットである。

「大丈夫か? 目が死んでるぞ」
「ウッ」

 メノウはしゃきりと背筋を伸ばすと、食べかけのパンを背後に回した。ランスロットがいつから居たのか分からないが、無心でかぶりついていたことは隠したい。
 メノウが騎空団に戻ってからランスロットと会うのは、今回が初めてではない。
以前、パーシヴァルの提案でフェードラッヘを訪れた時にも会っている。ただその時は、またしてもフェードラッヘに危機が迫っていた上、パーシヴァルの母国である隣国にすぐ移動したため、ゆっくり話すことはなかった。加えて、普段から手紙などのやりとりがあるわけでもない。
 メノウの心拍数上昇の原因は、もう一つある。
 ランスロットは以前と変わらぬ瑠璃の全身鎧を纏っているのだが、そこにマントがプラスされているのである。
 腰の飾り布とは別に、肩からふわりと下りる上品な白。外側は金糸の装飾が施され、内側は臙脂色。ランスロットの動きに合わせて揺れ、誉れある騎士としての威厳を感じさせるものだ。
 今回、白竜騎士団入団試験の応援としてフェードラッヘに降り立ったわけだが、メノウはランスロットを見た瞬間に膝から崩れ落ちている。なんだ、あのマントは、いい加減にしろ。メノウが弱弱しく呟くと、ロザミアから大笑いが返って来たのは記憶に新しい。
 入団試験中に少し言葉を交わしはしたが、マント装備のランスロットに対する耐性は不十分なのだ。

「な、ラン、えっと」
「ふ、ははは、落ち着いてくれ。飲み物を持っていないようだったから、届けに来ただけだ」
「ありがとう……」
「休憩の所、邪魔してすまないな」
「邪魔じゃないです」

 ランスロットはなぜか上機嫌だ。メノウがわたわたとコップを受け取ると、おかしそうに笑う。入団試験が一段落した達成感があるのだろう。
 メノウは礼を言って、噎せながら水分補給をする。片手にコップ、片手に食べかけのパン。疲労感は吹き飛んでいた。
 何か用、と聞こうとして止める。目の前には負傷者が並んでいるのだ。騎士団長であるランスロットの用件など明らかだ。

「……もう皆大丈夫だよ」
「ん? ああ、そう聞いている。メノウもありがとうな」
「ど、ういたしまして」
「ゆっくり休んでくれ。そうだ、部屋を一つ用意しよう。そっちのほうがメノウも彼女らも休めるだろう」
「じゃあ、イオたちはそっちに案内してもらおうかな。わたしはここにいるよ」
「……疲れてるんだろう?」
「そうなんだけど」

 ところで、今回戦った骨の魔物は、毒を付与する能力を持っていた。メノウの近くにいた騎空団員や騎士団員にはほとんど影響がなかったものの、それは少数だ。
 しっかり毒を付与されてしまった者は、薬草や魔法で回復する必要がある。しかし、そういった魔法を使える騎空団員が少なく、毒の解除の手が足りていなかった。
 現在、騎士団所属魔導士が中心となって回復を行っているが、当然、連続での行使は出来ない。

「わたしの近くにいると、毒の作用が緩和されるらしくって」

 メノウがこの場に留まり、眠ろうとしない理由はこれだ。眠っている間も他人に作用するとは限らない。起きていた方が良いだろうと何となく判断し、無心でパンをかじっていたのだ。
 メノウはコップと食べかけのパンを持って説明する。すると、ランスロットが神妙な面持ちで頭を下げた。

「メノウのお陰で多くの部下が、容体の悪化を免れているのだろう。騎士団長として、礼を言う」
「ヒッ」
「ちょっと傷つくんだが?」
「ご、ごめん、そんなつもりは……ただ、びっくりするし、もっと普通にしてくれると助かる」
「あはは、本当に俺に弱いんだなあ」
「……ご存知では?」
「存じているとも。メノウの反応は本当に面白い」
「……」
「ごめんごめん」

 羽毛並のふわふわな謝罪だが、メノウが本気で怒るわけがない。それどころか、気の置けない友人に対するように謝るランスロットに感激すらしていた。<惚れた弱味>という一言で片づけるには足りないくらい、メノウはランスロットに首ったけだ。
 メノウはパンを口にくわえ、空いた片手を額に当てて自嘲した。イオやロゼッタやロザミアが笑う気持ちもわかる。
 そのまま残り少ないパンを食べて飲み物で流し込むと、ランスロットが声量を落としてメノウに話しかけてきた。悪戯の計画をするような、浮き足立った雰囲気だ。

「その……負傷者の容態が気にかかっていたのは確かだが、落ち着いたことはヴェインから聞いていたんだ。グランたちのことも信頼しているから、あまり心配はしていなかった。俺がここに来たのは、ヴェインに誘われてな」
「ヴェイン? あ、グランと話してる」
「そう。グランに特別演習の依頼をしているんだ」
「じゃあ、『息抜きしろ』ってヴェインに言われたの?」
「はは、そんな感じ。でも、俺にも用事があったことを思い出して」
「騎士団長様は多忙だなあ」
「そうなんだよ」

 過剰な緊張がほぐれ、スムーズに会話が出来る。マント装備にも慣れてきたのかもしれない。

「そうだな、明後日、時間はあるか?」
「……わたし?」
「ああ」
「依頼も受け持ってないし、一日暇に出来るけど……」
「なら空けておいてくれ。朝、迎えに行くよ」

 メノウは、話し込んでいるらしいグランとヴェインを見つめたまま瞠目した。とても聞き逃してはいけないことを言われたような気がする。
 そろり、とランスロットを見上げると、騎士団長らしくない無邪気な笑顔が返ってくる。

「待っ……つまり?」
「フェードラッヘを案内するって約束してたろ?」

 随分遅くなっちゃったけどな、とランスロットが申し訳なさそうに頬をかく。
 メノウは、口をぱくぱくさせながら何度も頷いた。

      *

 メノウは普段から身だしなみに気を配っており、依頼の時などに着用する丈夫な衣装や部屋着の他、カジュアルな服も数着持っている。故郷での騒動が片付いてからは、質のいい布で仕立てたので、洒落ているものもある。
 だが、慕っている相手と出かけるのに相応しい服装があるかと問われると、何とも言えない。そういう観点で服を選んでいないのだ。
 無難にお気に入りのものを着るべきか、いや本当にこれでいいのか。自問自答しても答えは出ず、同じ宿に泊まっているコルワに意見を求めることにした。
 コルワは有名なドレスデザイナーで、センスもアイデアも一級品だ。

「コールワ、どう思う? エルーンの服ってキワドイって言われるし……」
「それをエルーンのわたしに聞く? エルーン族は背中ガン開き(・・・・)が普通でしょ。可愛いし」
「これ大丈夫かな? おかしくない?」
「ええ、悪くないと思うわよ。地味すぎず、派手すぎず……初デートには無難な感じかしら」
「デッ……案内してもらうだけだよ」
「二人で出かけるんだから、十分デートよ、デート!」
「つ、付き合ってないもん」
「『もん』じゃないわよ。だって両想いなんでしょ? ロザミアが言ってたわよ」
「ぐう……!」
「シャイねぇ」

 コルワがニヤニヤと愉快そうに笑う。物語好きでハッピーエンド主義の彼女は、ラブストーリーも大好物なのである。
 メノウはいたたまれなくなり、服を持ってさっさと背を向けた。

「あー待って待って。心配なら、明後日のデート、ヘアセットしてあげるわよ」
「コルワ様……!」
「ちゃんと話を聞かせてくれるならね。待ち合わせは何時?」
「朝八時にこの宿の前」
「八時? 仕事じゃないのよ?」
「普段よく行くところとか、日常っぽいところが見たいって言ったら、市場に連れてってくれるって」
「そういうデートプランもありか……じゃあ、七時すぎに部屋に行くわ」
「ありがとう!」

 喜びの勢いでコルワに抱き付くと、喜ぶのはまだ早いわよ、ともっともなことを言われた。

      * * *

 コルワに送り出されて宿に面した通りに出ると、既にランスロットが待っていた。
 約束している時間までは余裕がある。メノウが遅れたわけではない。むしろ、確実に宿の前で待てるように――ランスロットと不意打ちで出会わないように――早めに出てきたつもりだった。
 メノウは、通りに出ると同時に発見したランスロットの姿に一瞬息を止めた。

「おはよう、メノウ」
「おはよう……はやいね?」
「俺を見つけて驚いている様子が見たかったから」
「結果はどうですか」
「大成功。……あ、今日は髪をセットしてるんだな。なんか新鮮だ。ワンピースも似合ってる、綺麗だよ」
「……貴殿は本日も素敵です」
「ランちゃんでもいいぞ」

 朝から心臓に悪い。以前の薬配達を思えば、親しくなったからこそ出来るやり取りだ。嬉しい反面、この調子でフェードラッヘを回ることに一抹の不安を覚える。
 生きて帰れるだろうか。コルワに報告が出来るだろうか。
 メノウは、恥ずかしいやら嬉しいやら照れくさいやらで大荒れの心を落ち着かせながら、ランスロットを見上げた。

「それじゃ、ランスロット! エスコートよろしく!」

 きりりと表情を引き締めたメノウに、ランスロットが破顔する。
 お互いがしっかりと武器を装備していることにも笑ってから、市場へ出発した。


 好きかと問われればイエス。恋人かと問われればノー。付き合っているのかと問われれば、まだノー。それがランスロットとメノウの関係だ。
 ランスロットは、早急にメノウとどうこう(・・・・)なるつもりはなかった。メノウの気持ちに胡坐(あぐら)をかいていたのかもしれない。改めての告白を先延ばしにしても、メノウはきっと、自分のことを好きでいてくれるだろうと。国を離れられない自分と、騎空士を辞めない彼女の物理的距離問題を考えたくなかったからかもしれない。
 心地いい距離感に無自覚に甘えていたランスロットの目を覚ましたのは、幼馴染の強烈な一言だった。

「メノウとパーさん、昔婚約してたんだって。あんまり呑気にしてっと、メノウ取られちまうぞ」

 素っ頓狂な声が出るくらいには驚いた。
 メノウとパーシヴァルの仲が良いことは知っている。彼らの幼馴染申告を疑ったことはない。だがよく考えてみると、他国の大貴族の子息と息女の関係に幼馴染(・・・)という表現が使われるのは違和感がある。政略結婚としての婚姻があった、というほうが納得できる。
以前、パーシヴァルの生家を訪れた際、メノウがパーシヴァルの兄・アグロヴァルに対して「おにいさま」と呼びかけていたことを思い出した。パーシヴァルだけでなくアグロヴァルとも幼馴染として親しかったのだろうと考えていたが、まさしく<お義兄(にい)様>の意味だったのかもしれない。
 パーシヴァルはランスロットよりも身軽で、騎空団にもよく顔を出しているらしい。ランスロットから見ても、仲間思いで腕が立ち、視野が広く、知識も多く、申し分のない良い男だ。そして、今でもメノウと仲が良いのは明らか。メノウがパーシヴァルに惹かれない理由がない。
パーシヴァルだけではない、騎空団には魅力的な人材が多いし、基本的に世話焼きなメノウは好かれやすい。ランスロットは身に染みて知っている。
ヴェインの言う通り、ランスロットが余裕を持てる要素など一つもなかったのだ。

「あ、団長様! おはようございます、今日はお休みなんですね!」

 市場を歩いていると、そう声をかけられる。全身鎧ではなく私服だが、ランスロットの顔は知られている。辺鄙な田舎町ならともかく、城下の市場となれば当然だ。
 二、三言言葉を交わし、店先の果物や菓子を少量購入する。すぐ食べられるようにしてもらい、三分の一をメノウに渡す。

「色んなもの食べられるの、いいね。楽しい」

 ランスロットよりも少ない量をゆっくり食べながら、メノウが笑顔を浮かべる。少食なため、様々な島に行ってイベントごとがあっても、食べ歩きが出来ないことが残念だと事前に聞いていた。メノウよりもよほどよく食べるランスロットとシェアすれば問題はないので、緊張も解けてご機嫌らしい。

「ここは城下で一番大きな市場だからな。安いし品数は多いし、地元民にも観光客にも人気なんだ。この時間はまだ観光客は少ないから、ゆっくりできていいだろ?」

 会話を聞いていたらしい店主が、前のめりに同意してくる。

「少し前は賑やかになりすぎて、商売がやりにくくってね。騎士団が見回りを見直してくださったおかげで、また楽しく商(あきな)い出来るようになったんだ! ところでランスロット団長、そちらの女性は?」
「騎空士のメノウです。所属している騎空団が、白竜騎士団入団試験のお手伝いをしてまして」
「ああ、存じてますよ! 何度もフェードラッヘを助けてくれたでしょう!」

 フェードラッヘの国民は、騎空団(グランドブルー)に対して非常に好意的だ。一見騎空士には見えないメノウに驚き、ねぎらい、旅を応援する。
 市場に来て何度目かのやりとりに、ランスロットは目を細めた。愛する国が、メノウを歓迎していることが嬉しかった。

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