冬の魔物


 正月は挙式の数が少なくなる。ホテルが営業していても、招待される側からすれば迷惑に感じる場合が多いためだ。新郎新婦がどうしても正月にしか休みがとれない、となれば正月挙式となるが、少数派である。
 凌に正月休みが降ってきたのは、前述の理由による。昨年はアルバイトの数が少なかったので出勤していたが、今年は足りているらしい。普段頑張っているからそのご褒美だ、と責任者の社員が笑っていた。
 凌はこたつに入って、横になっていた。寝正月である。テレビは置いていないので、静かなものだ。
 伸ばしきった凌の足が、小さな足とぶつかった。

「あ、悪い」
「いいえ」
「さっきから何してんだ?」
「友人に、"あけおめメール"というものを」
「友人……まあ、毎日毎日散歩してれば友達も出来るか。変なのには引っ掛かるなよ」
「はあい」

 錦はこども携帯でぽちぽち文章を作って送信する。
 寒さに強く暑さには弱い。だが、暖かいことは嫌いではない。買ったばかりのこたつは気に入っていた。

「……やっぱり俺、じっとしてるの無理だ」

 凌が上体を起こして、テーブルに肘をついた。

「無意味に腹だけ減っていく」
「お出掛けする?」
「そうだなあ。電気屋は?」
「いいわよ」
「駅伝見に行こう。あーそろそろテレビ買うか……散歩も飽きてくるだろ」
「いいえ」
「左様か。でも買って損はないし、初売りで安いことを願おう。来年は錦も小学生だろ?世間の話題を知ってた方がいいだろ」
「凌に任せるわ」
「しっかし錦は大きくなんねーなー。成長ホルモン出てんのか?」
「わたくしたちは、こんなものよ」
「成長スピードに個人差があるのは当然か」

 よっこいせ、と凌が重い腰をあげる。身支度を済ませている錦に対して、凌はまだ部屋着のままだ。体を伸ばしながら、支度をしに私室へ向かっていた。
 錦はこたつの電源を切ると、名残惜しさを感じながらこたつを出る。今日は曇っているので日傘も必要ない。昨年凌から与えられた上着を羽織って、玄関の上がりまちーー一段上がっているところーーに腰掛け、小さいブーツをはいた。
 足を揺らしていると、着替えた凌が隣に座る。

「ついでにスーパーで買い物して、雑煮でも作るか。去年はしてなかっただろ。安いお節も買って、正月を満喫しようぜ」
「お節はよく耳にしたから知っているけれど、ぞうに、とは何かしら」
「味噌汁に餅を入れる感じ」
「餅」
「俺はすまし汁派なんだけど、錦は?白味噌?」
「どちらでも」
「じゃあとりあえず、すまし汁な」 

 凌が立ち上がるのに合わせ、錦も上がりまちから降りる。靴先で地面を二度叩き、暖かい家を出た。

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