背の順はきっと一番前


「俺が勝手に決めるわけにはいかないから」

 そう前置きして、凌はいくつかのパンフレットを錦に提示した。

「来年から小学校どうするって話なんだけど。ここは公立小学校の校区の端っこらしくて、通うとなると徒歩四十分はかかるんだ。私立はバスを使うことになるけど、まだ通いやすいんじゃないか?」
「私立だと、色々お金がかかるんじゃないの?あまり、詳しくは知らないけれど」
「公立よりは高いから、正直、我が家には厳しい。しかしだな、この私立小学校には、返済不要の特待生制度がある」

 "私立帝丹小学校"と書かれたパンフレットを開く。茶色のランドセルを背負った子供たちが笑顔で映っていた。小中高大と系列校があり、進学しやすい環境にある。完全なエスカレーター式ではないが、内部推薦枠が確保されているらしい。
 "特待生制度"の解説によると、入学試験で優秀な成績を納めれば、入学金や授業料が免除されるとのことだ。

「小学校での特待なんて、俺も初めて見たんだけどな。全部免除されるってんなら、交通費だけでいいだろ?子供料金だから安いしな」
「優秀な成績、ね」
「ああ。適応は極めて少ないみたいだから、小学校の試験のくせに、妙に難しいってこともあり得る。けど、受けてみる価値はあるんじゃないか?駄目なら公立小に通えばいいだけだ。錦が受けたいなら、の話になるが」

 錦に、通う小学校の希望はない。体力もあるので、徒歩で通うことにも問題はないのだが、錦は帝丹小学校のパンフレットを指差した。
 冬はともかく、夏だ。炎天下の中長時間歩くというのは、非常に厳しい。避けられるのならば避けたい。

「お、やっぱりな。じゃあ、願書取り寄せないと。試験は?」
「心配は無用よ」
「さすが。ずるはしないんだな」
「他人の感覚に無闇に干渉するな、という約束を守っているの」
「それは失礼した」

 錦は、同じくテーブルに置いてある広告を手にとった。ポップな自体が踊り、黒や赤、はたまた紫というカラーバリエーション豊富な革の鞄が紹介されている。

「ああ、ランドセルな。帝丹に行くなら指定ランドセルだから茶色になる。赤じゃなくて良かったか?」
「構わないけれど、赤は特別なの?」
「女の子のランドセルといえば赤だろ。今は何でもあるけどなー」
「凌は何色だったの?」
「黒だよ。男は黒、女は赤ってのが定番なんだ。いや、定番だったって感じか」
「確かに、よく見る気がするわ」
「だろ。……錦が小学生か」
「たった六年なんて、あっという間ね」
「入学式前は、早起きの練習しないと」
「えっ」
「頑張って起きろよ」
- 31 -

prevブラックダイヤに口づけnext
ALICE+