家族団欒


 学校を終えた錦は、光と、焼きたてのクッキーをつまみながらお茶をしていた。クッキーは光の手作りで、あっさりとしたバター風味である。
 クッキーが冷めた頃に凌が帰宅する。一部の新聞を片手に、なぜか真っ先にテレビをつけた。
 正月のセールで購入した安いテレビは、橙茉家ではあまり活躍する場面がない。錦はテレビを見るという行為そのものに馴染みがないし、凌も光もテレビに執着はない。天気予報の確認でつける程度だ。

「何か気になる事件でもあるの?」

 光が凌に茶を出しながら問う。

「んーちょっとな。なんかいい匂いする……」
「クッキー焼いたの。食べる?」
「食べる食べるぅ」

 錦は凌の手から新聞を抜き取ると、えっちらおっちらテーブルに広げた。
 橙茉家は、新聞を購読していない。いつも凌がコンビニで一部購入するのみだ。購読申し込みをする話も出たことはあるが、あらゆる意味で身軽な方が良いだろうと、契約には至らなかった。
 錦は新聞に掲載された大きなモノクロ写真を見て、あら、と頬に手を当てた。

「江戸川君ね。凌の気になる話題はこれ?」
「そ。相手は国際指名手配犯だからな。お手柄小学生らしいんだけど、錦の知り合い?」
「隣のクラスよ」
「そうだったのか。あ、クッキーありがと。……光?」

 キッチンから戻った光が、記事にくぎ付けになっていた。純粋な驚きと、少しの感心がみえる。
 凌が光の前で手を振ると、はっと我に返っていた。

「知ってる子か?」
「え、ええ……事件の時に、少し。とても賢い、けれど少し危なっかしい子だったわ」
「怪盗キッドを出し抜いたのも納得?」
「そうね、彼ならあり得ない話ではないわ。錦ちゃんの友達だったなんて」

 モノクロ写真の江戸川コナンは、折角の新聞掲載だというのに、微塵も嬉しそうではなかった。苦笑に近い表情は、自己顕示欲とは無縁そうに見える。
 錦は新聞記事を斜め読みし、ちらりと光を見る。
 錦は詳細こそ知らないが、光の身に起こったことの一部を把握している。"諸星"を知ったのと同じタイミングで、錦は少しだけ情報を得ているのだった。

「……光、江戸川君に会いたい?」
「えっ?」
「わたくし、親しい方だと思うわよ」
「……私、彼に大事なことを託したの。今思うと、とても無責任なことをしたわ」
「そうなの」
「危ないことに首を突っ込まないように気をつけたいけれど……そのためには、尚更、関わるべきじゃないと思うの。だから、」
「全部片付いたら、ちゃんと会いに行けばいいさ」

 凌が光の言葉を遮って、笑顔を浮かべる。一拍置いて、光も笑って頷く。
 錦は凌と光を交互に見て、冷めたクッキーを頬張った。

「パパとママが仲良しで、なによりだわ」
「橙茉家の家族仲は良好だな。クッキーも美味いし」
「私は諸星だけどね」
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