こどもが集まる場所


 錦は、上体を右に傾けた。

「錦ちゃん、体を傾けてもダメだよ!ちゃんと操作しなきゃ!」

 両手で握ったコントローラーを頭上にかかげる。

「橙茉さん!ボタンを押さないとジャンプは出来ません!」

 力強くボタンをおさえてみる。

「なに逆走してんだよ……」

 歩美、光彦、元太の声を聞きながらしばらく奮闘したものの、画面にうつるキャラクターは奇妙な動きをするばかりだ。一向にゲームシナリオは進まず、やきもきする三人の声は大きくなるばかり。
 錦は、コントローラーをとうとう光彦にパスした。途端に生き生きと動くキャラクターをじとりと見て、子どもたちの輪から離れる。
 フロア中央にある円形のキッチンへ向かい、等間隔で並ぶカウンターチェアに飛び乗った。カウンターの内側にいる阿笠が苦笑してオレンジジュースを出してくれる。
 隣に座るコナンが楽しそうに頬杖をついた。

「オメーでも苦手なことってあるんだな」
「"お前"……?」
「橙茉さん……」
「わたくしだって、何でも出来るわけではないわよ」
「江戸川君も橙茉さんもゲームが苦手なのね。お揃いじゃない」

 灰原もくすくす笑って話に加わる。一人でパソコンを操作していたが、用事は澄んだらしい。キッチンに入ってコーヒーを淹れていた。
 
「灰原、俺のも淹れてくれ」
「はいはい。博士も?」
「ワシもー。あ、錦君もコーヒーの方が良かったかのう?」
「いいえ、ジュースも好きよ。ありがとう」
「そうえいば、錦君は滅多に遊びに来ないのう。話は聞いているが」
「わたくし、このあたりに住んでいるのではないから」
「そうじゃったか。ここまで来るのは大変かもしれんが、今日みたいに休日暇な時があれば、いつでも訪ねてくればいい」
「ふふふ、ありがとう」

 コーヒーが入り、カウンターチェアに子供らしくない子供が三人並ぶ。阿笠は自分の分のマグカップを持って、ゲームに夢中の子供たちに歩み寄る。
 錦は足をぷらぷら揺らして、ストローの蛇腹を曲げたり伸ばしたりと動かした。

「この近辺は、大きなお屋敷が多いわよね」
「あー……そうか?」
「江戸川君は感覚が麻痺してるんじゃない?ここや隣も、一般家庭にくくるには随分と立派よ。ま、橙茉さんも一般家庭の出には見えないけれど?」
「わたくしは、ごく普通の一軒家に住んでいるわ」
「どっからどう見てもお嬢様だろ……帝丹にも特待生で入学してるらしいし、家庭教師とかいるんじゃねぇの?英才教育っつーかさ」
「不要よ。江戸川君も哀さんも同じじゃないかしら」
「そりゃあ俺らは……まあ、いらねぇけど」
「もう!元太君、何してるんですか!あー!」

 子どもたちの声が一層賑やかになり、おやと様子を窺う。プレイヤーが二人になったようだ。光彦と元太が画面を睨み、歩美と阿笠が声援を送っている。
 錦はオレンジジュースを飲み干すと、カウンターチェアから降りてコナンの手を引いた。

「次、一緒にやりましょう」
「げっ……」
「下手同士、いい勝負になると思わない?」
「……勝負にならねぇぞ」
「せいぜい、私を笑わせてね」
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