息子の同僚


「橙茉さん、ちょっと……」 
 
 昼休み、錦の在籍するA組にコナンがやってきた。コナンは歩美や哀らと一緒にいることが多いが、今は一人らしい。
 頭をかきながら、コナンは視線をうろうろと泳がせている。今になって錦に対する人見知りがあるわけでもあるまいに、彼はまっすぐ錦を見ない。
 廊下の隅で向かい合って立ち、コナンは意を決したように顔を上げた。

「迷ったんだけど、親しそうだったから……」
「どなたの?」
「赤井さん。……亡くなったんだ。知らせておこうと思って」
「……なぜ?」
「ニュースにもなってたけど、来葉峠の車の事故、赤井さんらしいんだ。く、詳しいことは俺も分かんねえけど……」

 錦は人差し指を顎に当て、芝居じみた動作で首を傾けた。
 今朝は、光だけではなく凌とも会っている。他の式場の応援で早出だと事前に聞いていたので、朝から凌と顔を合わせたことはともかくとして、二人とも妙に顔色が悪かった。錦が問いかけるとはぐらかしていたが、ニュースを見たのかもしれない。
 先日再会したかと思えば、訃報とは。
 不健康そうで夜が良く似合う男だが、運の強い印象があった。不慮の事故で命を落とすとは、にわかに信じがたい。
 だが、死はいつだって唐突で、劇的なものであるとは限らない。

「……驚かないんだな」

 思考にふけっていると、コナンに指摘される。
 何も、錦は冷酷ではない。知人の死は悲しいが、人間はあっという間に死んでいくし、ちょっとしたことでも死ぬ。悲しみこそすれ、衝撃は小さい。伊達に長生きしていないのだ。
 錦は顎に当てていた指を離し、怪訝なコナンの目をのぞきこむ。いつも透き通っている青の目は、少しだけ重暗い色をしていた。

「驚いているし、残念だと思っているわよ。けれど、人間は脆いもの。すぐに死んでしまう」
「極論……つか、冷静にもほどが」
「わたくしより赤井さんと親しそうだったあなたも、冷静に見えるわ」
「それは……俺は昨日に聞いてるから」
「たった一晩でもちなおしたのでしょう?とても七歳とは思えない精神力よ」
「橙茉さんに言われても。……あ、予鈴」

 午後の授業にそなえろ、と鐘の音が校舎に響き、児童がばたばたと教室に入っていく。
 錦は、例にもれず教室へ戻ろうとしたコナンを引き留めた。

「そんなことより、江戸川君。来葉峠って、ここから遠いの?」
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