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 背後から「げっ」という失礼な声が聞こえ、錦はにっこり笑って振り向いた。自身に対してこのような反応をする人物といえばコナンなのだが、今回は女性だ。
 ブレザー姿の女子高生が三人並んでいる。その内一人、園子が、錦と目が合って一層苦々しい表情を浮かべていた。

「お久しぶりね、園子さん」
「き、奇遇ねぇ錦サン……」
「あれ、錦ちゃん?」
「蘭さんも、こんにちは」

 園子が半歩後ずさるのと入れ替わりで、蘭がかがんで錦と目線を合わせる。もう一人、錦と初対面の女子高生も、興味津々といった様子でしゃがみこんだ。
 
「二人の知ってる子なのか?」
「コナン君のお友達よ。とっても大人っぽい子なの」
「橙茉錦よ。お姉さんは?」
「お、確かに大人っぽいや。ボクは世良真純、よろしく」

 真純がにかっと笑って片手を差し出す。八重歯がのぞく快活な笑顔に、錦もつられて目を細めた。
 握手をすると、真澄は強めに手を握って上下に動かす。

「親御さんは?」
「わたくしだけよ」
「ランドセルを持ってないってことは、一回帰宅してるってことかな。友達と遊びに出るのは自由だけど、キミみたいな可愛い女の子が一人でうろつくのは危ないぞ」
「今、四人になったわ」
「そうだけど……危なっかしい子だなあ」
「わたくし、落ち着いている子で通っているのだけれど」
「それは否定しないよ。大人がそのまま子供になったような気さえするしね?ただ、うかつというか危機感が無いというか……いくらキミが落ち着いていても、大人に抱えられたら簡単に連れ去られちゃうよ」

 真純は一瞬だけ語気を鋭くしたものの、すぐに愛嬌が戻る。こんな風にさ!と言いながら、錦の脇に手を入れて抱き上げ、くるくる回ってから地面に降ろした。
 錦は、蘭に注意されて平謝りする真純を見上げた。『大人が子供になった』とは、真澄もコナンや哀と同じようなことを言うものだ。流行りの言い回しなのだろうか。彼女はコナンとも面識があるようなので、単なる内輪ネタの可能性もある。
 確かに錦は中身と外見の年齢が釣り合っていないが、錦にとってはささいな問題である。少なくとも、錦自身が大きくなったり小さくなったりしている訳ではない。真純らの言葉に対する否定は、嘘ではないにしても事実でもないのだった。
 
「ちょっと、錦サン?いつまでぼさっとしてんのよ、髪くらい直しなさい」

 園子が腰に手を当てて見下ろしてくる。軽く腰を折っているので威圧感はないが、かがんだりしゃがんだりしないあたりが彼女らしい。
 手櫛で髪を整えると、園子はそっぽを向いてしまう。出会ってすぐのコナンを彷彿を刺せる反応だ。

「なんだ、園子君も錦君も仲良しなのか。すごく顔をしかめてたから、険悪なのかと思っちゃったよ」
「別に仲良くないわよ、トンデモ握力の子どもなんて」
「蘭さん、わたくし、湯呑みを拾ったことで苦手意識を持たせてしまったみたいなの……どうしたら仲直りできるかしら」
「園子ったら大人げないわね、錦ちゃん。素直になれないところはあるけど、面倒見がいいから、すぐ仲良くなれるわ。大丈夫よ」
「ちょっと、聞こえてるわよそこ二人!」

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