そういうシステムです


「ご希望はあるかな?ネコ?ウサギ?」

 チョコペン片手に、安室が動物の名前を並べる。イヌ、パンダ、ペンギン、コアラ、ゾウ、ライオンまで並んだところで、錦はまっすぐ綺麗な挙手をした。

「はい、錦ちゃん」
「ライオンがいいわ」
「百獣の王か、勇ましいところにいったね。分かった、少し待ってて」

 あっという間に、ホットケーキにチョコペンでデフォルメされたライオンが描かれる。チョコペンとは思えない出来のそれをスマホで撮影し、安室の手を借りて待ち受け画像に設定してもらった。購入してから今まで、ずっと初期壁紙のままだったのだ。
 手を合わせて、ナイフとフォークでいただく。ちなみに、錦はストレートのアイスティーしか注文していなかった。「ホットケーキは僕が勝手に出しただけだから当然僕が払うし、ついでにドリンクも払うよ」と以前同様、伝票は安室のポケットである。

「ところで、その、ごめん。画像フォルダちょっと見ちゃって」
「謝ることじゃないわ。構わないから渡しているのだから。そもそも、わたくし、写真撮らないもの」
「そうみたいだね。写真第一号になれたことは光栄なんだけど、あの、プリクラ?」
「『女の子のたしなみ』に付き合ってもらったの」
「へ、へえ……ちなみに、彼とは一体どういう、」

 安室の言葉を遮って、ドアチャイムが大きく鳴った。やや乱暴に開けられた扉の傍には、サッカーボールを抱えたコナンが驚愕の表情で立っている。
 錦がホットケーキを咀嚼しながら小さく手を振ると、コナンはドア口に立ったまま錦と安室を交互に見た。

「いらっしゃい、コナン君。そんなに慌ててどうしたの?」
「っいや、なんでもない……橙茉さんの姿が見えて、つい」
「わたくしに、何か用?」
「えっえーっと……今から元太たちとサッカーするんだ!橙茉さんも一緒に行こ!」
「お誘いありがとう。なら、食べ終わったら向かうわね」
「じゃあ、食べ終わるの待ってるから一緒に行こうよ!ね!」

 錦が了承すると、コナンは硬い表情で錦の隣のカウンターチェアに座った。
 コナンの口調が妙に子どもっぽいものになっているのは安室や他の客の目があるからだとしても、焦りと動揺の理由が分からない。
 コナンは、にこやかにアイスコーヒーを出す安室を警戒しているように見える。
 安室は毛利小五郎に師事しているので、毛利小五郎に預かられているコナンとは親しいのでは思っていたが、そう簡単な話ではないらしい。好奇心旺盛で勇猛果敢なコナンにも、人見知りの面があるのだろう。

「安室さんは、怖い人じゃないわよ?」
「へっ……ああ、うん、そうだね」

 小声でフォローを入れると、奥歯にものが挟まったような反応をされた。

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