呑気なグールが進撃する


グールでお調子者男:鈴山さん

呑気な喰種(男)が進撃する。続かない。



それは幾度目かしれない壁外調査の時だった。かつては壁で守られていたが今となっては巨人がうろつくそこに、彼はいた。

ウォールマリアが陥落してからは、壁外調査はウォールマリア奪還の為のものになっている。いつか来る奪還作戦のために、補給物資をあらかじめポイントに置いておくというものだ。しかしどういうわけか、その日は巨人が少なかった。疑問に思いながらも進んでいると、倒れる数体の巨人と血塗れの男が調査兵団の前に現れた。

「おやおや、ようやく人間と会えた!ま、匂いがしてたから気付いていたけれどね!」
「……壁外に、人間?」

若い細身の男は、顔を仮面で覆っていた。白い仮面は目の部分しか出ないようになっており、口の部分には縫い目がデザインされている。

警戒心を剥き出しにする調査兵だが、男は気にした様子がない。とりあえず敵意はないようだ、とエルヴィンとリヴァイが先頭に出た。

「君は……ここで、何を?」
「それは中々難しい問いだが、端的に答えると『巨人(ソレ)を殺していた』ということになるね!殺めてはいけない存在だったのなら謝ろう。しかし、俺の話も聞いて欲しい。目が覚めたらニヤニヤして全裸の生命体が目の前にいたんだ、反射的に攻撃してしまった!人間に近い容姿なのに、どうしてこうもまずそうなのだろうか!」

劇か何かのように、男は両手を広げてペラペラと話す。兵士がざわつき始めるが、エルヴィンとリヴァイは冷静を保っていた。彼の言葉には突っ込むどころが多すぎる。今は最小限の問いかけに止めよう、とリヴァイが口を開いた。

「"美食家(グルメ)"ならば、この巨人たちも美味しく調理したのかもしれないが、生憎俺はそこまで食にこだわりはないんだ。だからといって、"大食い"ほど節操なしでもないが!」
「……テメェは、壁外にいたのか?」
「それにはイエスと答えよう!だがノーでもある。俺はどうやら、異世界とやらに来てしまったらしいからね!」
「ざけんな、殺すぞ」
「リヴァイ、よせ」

殺気立つリヴァイをエルヴィンが制した。この男は何者なのか、情報が欲しいのだ。異世界という言葉が事実なのかは分からないが、男が巨人を倒す力を持っているなら、みすみす失うのは惜しすぎる。

男の足元に倒れていた巨人が蒸発を終える。男は腕を組んで調査兵を見渡し、最終的にエルヴィンに顔を向けた。仮面のせいで、表情がよく分からなかった。

「このマスク」
「?」
「こういうマスクを目にすれば、人間は逃げるか、それ専門の人間を呼ぶか、それ専門の人間ならば襲ってくるか、という簡単な三択になる。だがどうだろう、君らはこうして馬上で呆然としている!それだけで、俺からすれば異常と言えるんだ。ああそうそう!巨人というものが俺の世界にいなかった、ということも理由になるけれどね」
「巨人がいない……?君は本当に、異世界から?」
「そう考えるのが妥当ではないだろうか!……金髪くん、君はリーダーのようだね。隣の黒髪くんの言葉から察するに、君らは巨人を恐れて壁の中で生活している。そうだろう」
「ああ」

男は楽しげに調査兵団の団体に近づき、馬上のエルヴィンを見上げた。兵士からはマイナスの感情がこめられた視線が男に送られる。男は気にした風なく、白の仮面をエルヴィンに向ける。

「俺はこの世界を知りたい。丁度退屈していたしね。あの壁を頑張れば越えられないこともないが、流石に骨が折れるし疲れる。ぶっちゃけるとメンドイ。そこでだ!俺を仲間に入れてはもらえないだろうか。俺は強いぞ!きび団子なんぞ求めてはいない!」
「は?キビダ……?エルヴィンよ、どうするんだこの変人」
「黒髪くん、変人とは俺のことか」
「テメェ以外に誰がいる。趣味悪ぃ仮面しやがって」
「趣味が悪いとは何事だ!ウタくん特製俺専用マスクだぞ!」
「誰だよウタくん」

壁外では奇妙なほどに明るい男に、エルヴィンはしばし思案する。壁外にいた人間を放置することは出来ないということもあるが、連れていくべきだと判断した。力のある彼が友好的なのだ、それに乗らない手はないだろう。敵に回すと厄介そうだ、と本能的に感じていた。

リヴァイにちょっかいをかける男は、今にもリヴァイに削がれそうだった。

「君。何と呼べばいい?」
「仲間にはスズと呼ばれているよ」
「では、スズ。同行を許可しよう。ただし、勝手な行動はとるな」
「オッケー!」

あまりにも軽い調子の男に、リヴァイは大きな溜め息を吐いた。「金髪くんイッケメーン」とケラケラ笑う様子に、リヴァイは舌打ちを一つ。

「いいのか、エルヴィン」
「どの道このまま放置は出来ないだろう。それに、彼が戦えるというのなら利用しない手はない」
「……エルヴィンがそういうなら、俺は従おう」
「『利用』って本人を前に言っちゃうんだね!俺は気にしないけれど」

男は白い仮面をつけたまま笑う。隙間から覗く目は、確かに楽しそうに細められていた。

エルヴィンは部下たちを振り返り、彼を連れて前進することを告げる。兵士は困惑しながらも、団長であるエルヴィンに逆らうことはなかった。このまま留まっていては、いい加減巨人が集まって来てしまうと皆理解していた。

「エルヴィンよ、こいつの馬は」
「あ、いいよ別に。なくてもだいじょーー」
「はい!はいはいはいはいはーい!!私と一緒に乗ろう!私もスズと話したい!」

腕をぶんぶんと振って主張するのは、分隊長のハンジだ。壁外の人間で、巨人を倒すほどの実力者なのだ、興味があるに決まっている。顔を輝かせて鼻息荒く声を上げるハンジに、エルヴィンとリヴァイは予想通りだと溜め息を吐いた。

「おや、これは嬉しい申し出だね。美人からのお誘いを断る訳にはいかないよ!」
「よっしゃああああ!あ、私はハンジだよ!よろしく、スズ!」
「……いいだろう」
「大丈夫大丈夫、俺温厚だからさ!」

興奮しているハンジが前に来て、スズはハンジに歩み寄る。スズは、よろしく、と声をかけてから軽々ハンジの後ろに座った。衝撃があったのだろう、ヒゥン、と馬が情けない声を出す。

エルヴィンの合図で団体は前進を始め、巨人との遭遇に備えて緊張感が高まった。ただそれは、ハンジとスズを除く者たちである。ハンジは早口でまくしたて、スズは呑気な口調でそれに応じていた。

「異世界ってどんな所?こことはやっぱり違うのかい?」
「難しい質問だね。いかんせん俺はまだこの世界に関しては無知だから。ただ文明の発達という点では、こちらの方がかなり進んでいるよ。今時馬に乗れる人の方が少ない」
「じゃあどうやって移動するの?」
「車や電車、あと新幹線に飛行機に船。……そうだなあ、鉄の塊が人を乗せて走ったり空を飛んだり、という認識でいいと思うよ」
「なにそれ超気になるんだけど!!馬が引いてる訳じゃないんでしょ?!」

兵士全員に聞こえる程の声だが、誰も注意はしなかった。結局の所、異世界から来たというスズの言葉に興味津々なのだ。

手綱を操るハンジは前を向いたまま、やや真剣な目をして問いかける。スズの言葉には、どうしても理解できないことがいくつかあったのだ。

「さっきスズは言っていたよね?スズのしているようなマスクを見れば、『人間は逃げるか、それ専門の人間を呼ぶか、それ専門の人間ならば襲ってくるか』って。それに、巨人を食べるような発言もあった。……どういうことかな?」

持ち前の運動能力でハンジの後ろに座るスズは、器用にもあぐらをかいていた。ハンジと背中合わせになり、緊張感は皆無だ。ただ協力するといった手前、一応周囲の気配には気を配っている。ハンジの後ろを走る兵士は、奇妙な白い面に気味悪さを抑えきれなかった。

「やはり気になるか、それもそうだろうな。しかし、それは今話すべきでないと俺は思うのだよ」
「何故?」
「君たちが組織された人間だというのは、見れば分かることだ。また壁外……つまりここが危険地帯であるのなら、壁内に君らの仲間がいると考えるのが普通だろう?全員揃って壁外へ出て、全滅するわけにいかないだろうからね!つまり……ああ、さっきも『つまり』って言ってしまったがそれはいいとして。壁内へ戻った時に、尋問なり裁判なりがあるのが妥当だ。そこで同じ説明をするのは骨が折れる。……ぶっちゃけメンドクサイ」

最後はもう投げやりで、ハンジは声を上げて笑った。


* * *


スズは審議所の真中で、膝をついて座らされていた。後ろに回された手は枷が嵌められている上、立てないようにと固定されている。白い仮面は外されており、至って普通の青年がそこにいた。

スズの処遇をどうするか、という審議である。壁外から来たというスズの存在が憲兵団の耳に入り、身柄の引き渡しを要求してきたのだ。憲兵団に引き渡されては、解剖の後処刑、となるのは目に見えている。それを阻止するために、調査兵団は憲兵団と争う姿勢を見せていた。

スズはしれっと涼しい顔で、憲兵団からの主張と調査兵団からの主張を聞き流した。この審議に置いての決定権を持つのはダリス・ザックレー総統で、ダリスは静かな目をスズに向ける。発言を許可する、とダリスが言うと、「オッケー」という呑気な声が審議所に響いた。

「俺学がないから、ややこしい話は分からない。けんぺー団に引き渡されると最終的に処刑で、調査兵団に引き渡されると巨人狩りをしろってことでいいのかな?」
「…………色々とすっ飛ばしたが、間違ってはいない。君はどうしたい」
「調査兵団がいいな!ビンビンとヤヴァイとハイジは気に入ったからね」

エルヴィンとリヴァイとハンジのことである。エルヴィンは額を押さえて俯き、リヴァイのコメカミに青筋が浮いた。生憎ハンジはここにいない。わざとかと思える名前の覚え方に、審議所は奇妙な空気に包まれた。

何が楽しいのかケラケラと笑うスズに、市民の代表席から罵声が飛んだ。だが当のスズはそれを無視である。騒がしくなった場をダリスが一声でおさめた。

「まさに鶴の一声だ!素晴らしいよ」

そんなスズの呟きは流され、ダリスは手元の書類に視線を落としていた。少しの間を置いてスズに向き直り、いくつかの問いを投げる。

「君は異世界から来たそうだね」
「多分だけれどね。そう考えるのが妥当だと俺は思うよ」
「不思議な武器で巨人を倒した、と調査兵団からの報告にはある。それに……調査兵団の団長にも、話していないことがあるそうじゃないか」
「ああ!そうだった、忘れていたよ!俺としたことが!」
「……」
「武器の事も話していない事も、ちゃんと話すよ。そうだな、改めて自己紹介からいこう!」

スズは本気で忘れていたらしく、はっと体を動かしたせいで鎖が音を立てていた。異世界人、強い、得体がしれない、ということでスズを恐れている兵士が思わず銃口を向けたが、引き金が引かれることはなかった。スズは向けられた銃に気付きながらも、恐れた様子無く言葉を続ける。

「俺はスズーーーー喰種(グール)だ。"種を喰らう"もしくは"喰う種族"と書いて喰種(グール)。残念だが、人間ではないんだよ」
「……詳しく話してくれ」
「え……」
「え?」
「そうだよな、喰種知らないならそうなるよなー……難しい質問だ。一番大きな違いと言えば、それはもちろん食料さ!俺たち喰種は、人肉を食べる」

スズは、にっこり、という擬音語が付きそうな笑顔を浮かべる。ダリスを含むその場にいた全員は、一拍おいてから目を見開いた。せっかく静まった場が騒がしくなり、またしてもダリスが鎮める。スズは皆の驚きように、声を上げて笑っていた。

「あっはははは!いいリアクションだね!でも安心してくれ、俺は手当たり次第に人を食べるような真似はしない」
「人を食べるというのは、事実なんだな」
「そうだよ。でも、ひとつ誤解しないでほしいことがあるんだ。俺達は人の肉を"好んで"食べる訳ではない。人の肉からしか栄養を摂取出来ないんだ。人間の食べ物は不味くて食べられたものじゃないしね」
「ば、化け物め……!やはり生かしておくべきではない!」

憲兵団の方からそう叫ばれる。堰を切ったように、憲兵団や駐屯兵団や市民の代表者から、化け物、化け物、と言葉を浴びせられ、スズはダリスからそちらへ視線を向けた。ただ、その表情には怒りはなく、きょとんと声の主たちを見つめている。罵声を浴びせられているとは思えない反応に、皆は自然と言葉を詰まらせていた。

「そうだよ、俺は人間ではない。化け物というのは不本意だが、人間からすればそういう認識は間違っていないと思うよ。……と、ああ、話がそれてしまっているな。喰種は人間よりも運動能力が高いんだ。そして『不思議な武器』と言っていたが、それは赫子(カグネ)と呼ばれるものだ」
「カグネ……?」
「喰種は皆、例外なくそれを持っている。使いこなしているかは別にしてね。俺はどちらかといえば使いこなしている側の喰種だよ。利用しない手はないと思うのだが、どうだろうか」
「……君ら喰種を襲う人間がいる、というのは?」

ダリスの言葉に、スズは初めて不快そうな顔をした。「あいつらの考え方嫌いなんだが」と呟いて、投げやりに答える。

「そのままさ。喰種退治専門の人間だよ。それ用の武器を使うから中々厄介でね、俺も何度も闘り合ってるが、強い奴は強い。……言ったろう、喰種は人間を食べると」
「ああ」
「だから人間は俺達を恐れるし、喰種を狩る者は俺達を目の敵にしている。……俺達は普段人間に交じって生活しているが、たまには喰種としての活動もする。その時に顔が割れないよう、マスクをつけるんだ。俺のマスクは、あの三白眼くんに没収されてしまったがね!」

幾度目かの沈黙が審議所に落ちる。恐怖や嫌悪の眼差しが多くスズに向けられる中、スズは笑みさえ浮かべてダリスを見ていた。顎に手を当てるダリスに、エルヴィンが手を上げた。

「彼の実力は、我々が目にしています。また彼は非常に友好的で、野営中も単独行動をせず、我々に従っていました。彼の力は大きな戦力となりますし、万一反抗しようとしても、我々ならば対処できます」
「総統閣下!その男を生かしてはおけません!それは人間を食べると明言しているのです。いつ牙をむいてもおかしくはない!解剖して調べられるだけ調べた後、処分すべきかと!」

スズは人間を食べる。そして巨人も人間を食べる。その共通点が人々の恐怖を煽っていた。巨人を多く殺したということで仲間の線は薄いとされているが、仲間でないとも断言出来ないのだ。

ダリスは双方の主張を聞き、スズに視線を戻す。スズは殺されるかの瀬戸際だというのに、表情に不安など微塵もなかった。

「君が人間を襲わないという、保証は」
「それは信じてもらうしかないな。何度か言った気もするが、俺はとっても温厚な喰種だよ!人肉を手間暇かけて調理する性癖もなければ、一日に複数人食すような胃袋でもない。しかし、一応言っておこう。……俺は進んで人を襲わない。だが、俺は絶対に人を食べる」
「……死体を食べる、ということかね?」
「イエスだ!俺のいた世界でも、俺は基本的に自殺したての死体を食べる。どうしても食事が必要になれば狩りをするが、最低限だよ。俺だって平和に暮らしたいからね。それに喰種は人間と違って、一日に何度も食事はとらない。一月に一人食べれば生きてはいけるさ」

生々しい話に、皆が息をのんだ。巨人と違い、知性があり、強力な武器を持つスズが、人間の捕食者なのだ。

ダリスの書類をめくる音と、リヴァイの苛々しげな溜め息がする。スズは自分を囲う人間たちを見回し、退屈そうに首を回した。スズが動くたびに見張りの兵士がびくびくとしているのだが、スズは気にしない。死ぬつもりはないので、いざとなればここにいる全員殺してしまえばいいだけの話だ。

「ふーむ。そろそろこの体勢にも飽きてきたのだが、どうしようか。あんまり待たされるのは嫌いなんだ、苛々して腹が減ってしまうからね!しかし、その点君らは運が良い!俺は生憎満腹なんだ。今ここで食事なんて言い出さないから、軽い気持ちでサクッと決めてくれるとありがたいな!」
「スズ……余計な事言ってんじゃねぇ」
「おや、すごい眉間だよ三白が……ヤヴァイ」
「言い直す意味がねぇ」
「余計な事とは……ああ、食後だってことかい?俺としては、現時点で君らを襲う理由がないと主張したつもりなんだが。さっさと調査兵団に引き渡してほしいんだ」

スズは、いい加減飽きた、と眉を八の字にする。スズが死なないようにと身柄を要求するエルヴィンは、あまりに呑気なスズの態度に頭が痛くなった。ダリスが溜め息を吐いて、スズに呼びかける。

「スズ……君がそこまで巨人討伐に協力的な理由は、なんだ?」
「そうだな、暇つぶしという所だな。それに俺は戦闘狂と仲間に言われていてね、仲間同士で勝負をすることも、白鳩(はと)……俺達を狩る専門の人間のことなのだが。あいつらに喧嘩を吹っ掛けるのが好きなんだよ!巨人は知能がなく実に闘りごたえがないが、運動にはなるからね。"この世界の人類のために"という答えを期待していたなら謝ろう。それと……俺は気に入った人間に手出しはしないが、基本的に人間に対する意識は低いんだーーーーだから、俺を調査兵団に引き渡すべきだよ、お偉いさん」

終始緩みっぱなしだったスズの空気に変化が生じる。笑みを浮かべて軽い口調なのは変わらないが、明らかに何かが変わった。あの馬鹿が、とリヴァイが毒づく。勝手な事をされて憲兵団に引き渡されることは阻止しなければならないのに。

「俺は人間が嫌いではないよ。それに平和が好きだ。だから無闇に殺さない。……しかし、脅すつもりはないけれど、けんぺー団に引き渡せばどうなると思う?教えてやろう、"皆殺し"さ!」
「スズ、それは……」
「けんぺー団は、俺のことを化け物だと言った。不本意だが事実、しかし非常に不愉快だ。そんな連中に解剖されるだなんて吐き気がするよ!そもそも、君らじゃ俺を殺すことなど出来ないんだから、処刑なんてただの"ごっこ"で終わってしまう。……だが!俺は調査兵団を気に入っている。彼らが俺を殺すつもりならば多少は考えるけれど、彼らは俺に協力を仰いでいる。そして俺は暇なんだ。気に入った人間と過ごせる上、運動も出来る。とっても魅力的だよ、調査兵団は!ーーーーさて、結論は?」

スズが低く問うたと同時、スズの両目が赤く染まる。見開かれたそれは宝石のようにも見えるが、スズのまとう空気がその赤を血色にみせていた。ダリスが憲兵団への引き渡しを決定すれば、スズは宣言通りに殺戮を開始するだろう。

審議所にいた人間は、スズのプレッシャーで何人かが腰を抜かしていた。ダリスは唾を飲み込み、まさに異形へと姿を変えようとするスズを見据える。もとより、人間側に選択肢などなかったのだ。

「スズは、調査兵団に引き渡す。ただし監視をつけ、また"食事"に関するルールを今日中に決めろ」

スズはそれを聞いて、赤い目のままにっこりと笑った。

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