轟家のわんこ


あてんしょん
「俺TUEEE!」したくなったので、最近熱くなってきたヒロアカをベースにH×Hの夢主を放り込んだ、という代物です。「俺TUEEE!」してません。

H×Hは設定とかもろもろ練ったけど結局書いてません。が、ヒロアカにトリップした夢主は、H×H夢における本編を終えた状態なので、設定がてんこもり。
*髪が灰色、というだけ外見設定あります*

そしてタイトル通り、轟一家を捏造。

以下、夢主の設定や能力をざっくり紹介。本編はさらに下にあります。飛ばしてもOK。

▼ここから
夢主
 オーラまとったりしてるので見た目はともかく中身はそこそこの年齢。
 なんやかんやでたちの悪い念獣コレクターの家に転がり込み、なんやかんやあった結果、ある念獣の姿をとれるようになる。これが不本意にも覚悟になり、オーラ量が増加。もとから絶対量多い。
 念は変化系。オーラを氷と炎に変換できる。肉体が貧弱なので、敵意により自動で展開・修復する氷壁を技としてもっている。氷壁は任意での展開も可能。強化系が全力で殴ってやっと割れる程度の強度。能力に関する細かい設定は割愛。
 肉体改造の副作用で、触覚痛覚温度感覚がなく、運動は基本禁止。ただ獣の性質も持つので、聴覚嗅覚視覚は良い。
 保護者の青年(夢主の元庇護対象であり、なんやかんやで命を落とす)とともに念獣コレクター宅で生活していた。
 なんやかんやで旅団と関わりがあり、旅団の慈善事業で保護され、旅団のペットポジションにおさまる。

ここまで▲



 ヒーローネームをエンデヴァーとする男は、出動要請のあった現場へ移動していた。
 時刻は夜の十時。夜間警邏に出ていたサイドキックから、個性を用いた戦闘が発生していると連絡があった。介入したが鎮静化には至らず、膠着状態に入っているという。人質がいないことは幸いだが街中だ。いつ民間人に被害が出るか分からない。
 夜であることも相まって、炎を纏うエンデヴァーの容貌はひどく目立つ。夜の街を駆けるナンバーツーヒーローの姿に、人々は声援を送っていた。
 エンデヴァーは現場に到着すると、避難誘導しているサイドキックに声をかけた。

「状況は」
「っはい!どうやら敵(ヴィラン)同士の仲間割れが原因のようで、現在は一体のみです。こちらからの攻撃は通じず、また説得にも応じず、膠着しています。あと、民間人への被害は、出ていません」
「他の敵は」
「戦闘が出来る状態ではありません。拘束できる者は拘束済みです」
「そうか」

 エンデヴァーは必要な情報を手に入れると、サイドキックが示した方向を見やる。戦闘の爪痕が確認できるが、膠着状態の言葉通り、闘っている様子もなければ戦闘音も聞こえない。己の事務所のサイドキックが、例の一体と対峙しているだけだった。
 説得に応じないのなら、力づくで戦意を喪失させるしかない。それが出来るだけの実力がエンデヴァーにはある。エンデヴァーが例の敵のもとへ移動すると、対峙していたサイドキックが場所を開けた。
 
「貴様か……」

 数十メートル先に、灰銀色の狼がいた。馬、とまではいかないが、犬よりは一回り二回りも大きい。よくよく見ると狼とも異なる見た目だが、あの個体が敵だというのだから、その姿こそ個性なのだろう。
 狼の近くには、別の敵が倒れている。怪我をしているようだが意識があり、命に別状はなさそうだ。
 巨大な狼は太い四肢で地面を掴み、体を低く構えている。牙をむき出しにしてグルグルとうなり、新たに表れた敵(エンデヴァー)に警戒を向けていた。
 エンデヴァーはほとんど予備動作なしに地面を蹴り、狼へと肉薄する。炎を纏った拳を握り、振りぬく瞬間――エンデヴァーは"狼と視線が合っていた"。
 三下ならば目で追うことなど不可能な速度だ。当然、エンデヴァーは手加減などしていない。にも関わらず、狼は当然のようにエンデヴァーの行動を目で追っていた。
 
「――ふんッ!!」

 拳を振りぬけば、熱風が巻き起こり、周囲の瓦礫が音を立てる。
 "何か"を殴った手ごたえはあった。だが炎が収まったとき、エンデヴァーが見たのは先ほどと寸分違わない狼の姿。そして、エンデヴァーの拳と狼を隔てる、薄い壁。
 狼を中心としてドーム状に広がる壁は、エンデヴァーの拳近くでつやりと光っていた。溶けているのだ。薄い氷の壁は、エンデヴァーの拳に耐えきったのである。
 面白い。
 エンデヴァーはいかめしい顔に笑みを浮かべたが、はたと気付いた。
 目の前の狼に敵意が感じられない。反撃の意思もないように見える。この狼は、ただ耐えているだけだ。
 エンデヴァーは炎を収めた。しかし油断はしない。いつでも対応できるよう警戒は怠らず、グルグルとうなる狼を見下ろした。
 狼は威嚇の姿勢のままだが、氷壁が崩れるように消えていく。エンデヴァーの熱気で溶けた訳ではないだろう。狼にも、とっさに防御壁を展開できるだけの自信があるということだ。

「貴様……何が目的だ」
「グゥルル……」
「敵ならば容赦しない。そうでないなら、示してみろ」
「ヴヴ……グルル……」
「巻き込まれただけと言うのならば、悪いようにはしない。問答無用で敵を殺すヒーローなどいない」
「……」
「もう一度問う。貴様は、敵か」

 狼はうなるのを止めた。
 やはり、この狼は何らかの原因で巻き込まれただけの可能性が高い。サイドキックの説得に応じなかったというのは、対敵の対応が気に障ったのだろう。全く、面倒だ。
 狼は威嚇を止めたが、後ずさってエンデヴァーから距離を取る。おすわりの体勢で、ちらりとエンデヴァーをうかがう。

「全く……手間をかけさせるな。言葉は、」

 話せないのか?そう問いかけようとして、エンデヴァーは言葉を切る。狼が何かに耐えるように、体に力をいれたのを認めたのだ。とっさに炎をまとうが、狼がエンデヴァーに向かってくることはない。
 狼はその巨体をみるみる小さくして、姿さえ変えて見せた。
 個性をといた、ということなのだろうか――巨大な狼がいた場所には、全裸の少女が座り込んでいた。
 狼と同じ灰色の髪をした、華奢な少女だ。

「……何か着るものをくれない?」

 少女は体を隠すように自身を抱きしめ、エンデヴァーを睨むように見上げていた。




 彼女はいつの間にか敵の集会に混ざっており、集まっていた敵から攻撃を受け、それに応戦したという。訳も分からず敵を無力化したはいいが、次いでエンデヴァーのサイドキックたちが現れ、闘う意思がないために膠着してしまったようだ。彼女にはサイドキックも、己に害なす敵に見えたのだろう。
 敵の集会に混ざっていた理由は分からず、それどころか己の名前すら分からないという。どこまで事実か怪しいところだが、行く当てがない少女を放置するわけにもいかない。
 エンデヴァーは病院へ搬送するか事務所の医務室を貸すことを提案したが、彼女はどちらにも頷かなかった。警察に引き渡すことももちろん考えたが、それには特に拒否の姿勢を示した。
 彼女は本当に敵ではないのか、とエンデヴァー含め疑い始めたころ。サイズ違いの上着を羽織る彼女は、拒否する理由をすらすらと述べた。

「普通の薬は効きにくいし、寝ていれば回復するから病院はいらない。室温が保たれている環境がいいから、ただの医務室に放置されるのは困る。警察はヤダ。なんかヤダ」
「それだけ自分の事情を覚えておきながら、身元は記憶にないと?」
「国籍も戸籍もないから、言っても意味ないし。忘れてるのと一緒でしょ」
「小娘が……」
「怪しいから監視したいっていうのは大歓迎だよ。でもそのお金と時間は無駄だと思うから、誰かの家に厄介になってもいい?」

 とんでもなく図々しいことを言い出す始末である。エンデヴァーやサイドキックの睨みにも堪えた様子はなく、近くの自販機で買った水をちびちびと飲んでいる。 
 彼女が不審者であることに変わりはない。また、珍しい個性を持っているのも確かだ。エンデヴァーの拳に耐える氷壁など、どれほどの強度を持っているというのか。興味があるのは、否定できない。
 なんとなく開き直り始めている彼女に、エンデヴァーもつられたのだろう。「家へ来い」という声は普段より覇気がなかった。





 エンデヴァー、もとい轟炎司は、四人の子供と妻を持つ、一家の大黒柱である。
 轟炎司は仕事柄、家にいる時間は少ない。幾つも部屋がある立派な佇まいの日本家屋は、長女と絶賛反抗期の三男の二人暮らしといっても過言ではない状態となっていた。
 個性婚した妻は心を病んで入院し、長男と次男は家を出て、残る三男は父親を心の底から嫌い、長女が間を取り持つという、不安定な家庭だ。


 轟家最後の砦、長女の冬美のもとへ連絡が入ったのは、日付が変わる直前のことだった。今日は家に帰らないと言っていたはずの父親が、珍しく非常識な時間に電話をかけてきたのである。
 今から帰る。焦凍も呼べ。
 冬美は疑問符を浮かべながら、風呂上りの弟に声をかけた。高校受験に向けたトレーニングと勉強で疲労困憊の焦凍は、深く眉間にしわを刻んだ。

「……なんで」
「分からないけど、こんな時間に連絡寄越してから帰ってくるなんて、普段はしないし……。お父さんに何かあったって感じじゃなかったけど」
「俺は、」
「焦凍もって言ってたよ。ちょっと我慢して」

 焦凍は苛々した空気を隠さず、舌打ちを一つしてリビングにとどまった。濡れたままの髪を乾かすこともせず、タオルを被って沈黙する。
 冬美もリビングに残り、授業で使う教科書をぱらぱらとめくった。
 一家の主が帰宅したのは、それからほどなくしてのことだった。

「おかえりなさい、お父さ……?」

 腰を上げる気のない焦凍に変わり、冬美が父親を出迎える。冬美よりもずっと体が大きく、鍛え上げられた肉体は威圧感が凄まじい。炎を揺らめかせながらリビングへ歩いてくる父親は、いつも通りで怪我をしている様子もない。
 が、しかし。炎司の後ろから、見知らぬ少女がついてきている。
 大柄な炎司と並ぶと、より一層小さく弱く見える。少女は大きな上着をワンピースのように着て、ちょこちょこと素足で炎司に続いていた。

「誰……?」
「焦凍は」
「り、リビング」
「お前も来い」
 
 冬美が炎司に続くと、はからずも謎の少女と並んで歩くことになる。冬美が会釈をすると、少女もぺこりと頭を下げた。
 リビングに戻ると、冬美は焦凍の苛立ちが悪化したのを肌で感じる。焦凍と炎司の衝突を避けなければ、と二人の様子をうかがえる位置に立つ。圧倒的実力を持つ炎司より、弟である焦凍を庇うようにするのは癖だった。
 焦凍が何か言いかけたが、少女を認めて口を閉じた。冬美も、緊張しながら炎司を見上げる。
 炎司が目くばせすると、少女がすいと前に出た。

「しばらく、預かることになった」
「……えっ!?」
「二人で世話をしろ」
「は……?」

 炎司の口数は、いつもより格段に少ない。疲れからというよりは、何か釈然としない様子に見える。冬美は、もしや父親にとっても不服な事態なのではないかと思った。
 炎司が、おい、と少女に声をかける。少女は炎司に怯えた様子もなく、おざなりに頭を下げた。

「オジャマシマス」
「焦凍、こいつの手綱をちゃんと握っておけ」
「なんで俺が」
「冬美では荷が重い。こいつのことはポチでいい」
「ポチ!?」
「……そう言う訳だ。俺は事務所に戻らねばならん、後は任せるぞ」
「ど、どう言う訳よ?ちょ、お父さん!?」

 炎司は少女を残し、こころもち早足でリビングを後にした。炎司の決定を覆せるわけもなく、冬美は焦凍と謎の少女とともに、リビングに残された。
 冬美は焦凍の舌打ちを聞きながら、少女とミュニケーションを試みる。炎司から指名されたのは焦凍だが、同じ女性の方が話しやすいだろう。
 
「えっと、そのー、どういうこと?名前は?」
「分からない。なんかあのエンデヴァーって人に拾われて、行く当てがなかったからここに来た。私のことはポチでいいよ」

 少女は冬美が拍子抜けするくらい、緊張や警戒をしていなかった。
 エンデヴァーが拾ったということは、敵がらみだろうか。何か理由があって、警察や病院に連れていけなかったのだろう。それにしても、自宅に招くのはいかがなものか。
 よほど炎司の興味を引くものがあったのだろう、と冬美は無理やり納得する。

「私は体質柄、色々注文が多くなるんだけど、出来る限り大人しくするし、アニマルセラピーになら協力できる。ここに置いてくれると、非常に助かる」
「まあ……うん、お父さんの手前、私が断ることも出来ないし。客間に布団出してないから、今日は私の部屋でいいかな?」
「ありがとう、フユミ」

 ポチと名乗る少女は、少しだけ安心したように笑った。
 冬美は男兄弟ばかりで妹がいない。不覚にもくすぐったいものを感じて、ぐっと唇を噛んだ。
 




 私は、なぜか暗い路地裏にいた。
 そこにたむろしていた者たちが突然襲い掛かってくるので、正当防衛として氷で殴ったり、燃やしてみたりして、戦意を喪失させた。過剰防衛と言われても否定できないが、油断するとスパッと首が切られそうな環境に身を置いているのだ。敵意を向けられたのなら、相手をしなければならない。
 とどめを刺さなかったのは、躊躇ったから、ではないと思う。
 元々、私は戦闘員ではない。仲間(保護者)が助けに来るまで身を守ることを重要視している。さくっと他人を殺せる実力がないのである。
 そうして暴れていると、話の分かる男の人と出会い、私は獣の姿から人へと戻った。とりあえず保護してもらわなければ、私は生き延びられないのだ。
 訳が分からない状況なので、記憶喪失をごり押ししつつ、エンデヴァーとやらに保護されることと相成った。
 実際のところ、私は自分の名前もさきほどまでいた所も仲間の名前も憶えているのだが、言ったところで信じてもらえる気がしない。念能力が都合のいい方向に誤解されていることもあり、私は余計なことを一切話さずに済んだ。

「こいつのことはポチでいい」

 その強面で「ポチ」って。
 確かに、ペット的ポジションでいいと言ったけれど、まさかポチと命名されるとは思わなかった。エンデヴァーの身内らしい少年と若い女性が、怪訝な目をエンデヴァーに向けていた。
 エンデヴァーは炎をゆらゆらさせながら――髭が炎なのか、炎が髭のようになっているのか謎だ――さっさと退室してしまう。
 フユミが風呂を勧めてくれたのでそれに甘えるが、私はちょっとばかりやっかいな体質だった。

「あの、お湯にならないようにしてほしい。常温が一番ありがたいんだけど」
「え?」
「温度感覚と、あと触覚とか痛覚がないんだよ。オーラで、じゃない、えーっと、身を守るようには気を付けてるから外出とか軽い運動は大丈夫なんだけど、体温調節も苦手でさ。お世話になる身で悪いんだけど、お湯と冷水は苦手なの」

 本当に申し訳ない。これがなければ、私一人でも野良犬としてやっていけたかもしれないんだけども。
 "円"を張って、周囲の物の位置や動きは頭で把握しているので、移動は問題がない。が、しかし。怪我に気付かない、温度変化にめっぽう弱い、となれば、どうしても人の手は必要になる。監視?大歓迎だ。
 私自身、オーラを氷や炎に変換はできる。あくまで"オーラ"を"氷"と"炎"にする念能力であり、冷やしたり温めたりという微調整が出来ない。どうやっても、自分で自分の体温調節は出来ないのだった。
 こうして、私は轟家に多大な迷惑をかけながら、生活していくことになったのである。
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