白の陣営


追記:読み返してて白陣営の目的がふわっふわなことに気付いたので、その内書き換えるかもしれないけど、続けるつもりも今のところないので修正しないかもしれません。ふわっと見てください。

〜個人的memoから抜粋〜
テラゼロ、エクステラは置いておく。
今回はたまたま女だが、月のお使いするときの岸波白野の性別はその時次第。
月の勝者になるには、必ず4騎いずれかの鯖。それ以外だとどこかしらで死んでる。
白野に蓄積されてる記憶は勝者になったときのもののみ。=聖杯に触れたときのみなので、もし他のサーヴァント召喚してても覚えていない。4騎以外の記憶はない。

     ↓↓↓


 それは、大きな大きな卵だった。
 見上げても全体の把握は難しく、首が痛くなるほどの大きさだ。
 灰色の分厚い殻は一部が割れており、殻の内側がうかがえる。おそらく女神と呼ばれる女性がよりそっている、黄金の壁画だ。
 女神を一目見たいがために、故意に殻を割ったのか。何かしらの衝撃で割れてしまったのか。
 そんな、巨大な卵から女神が孵る様を、彼女・岸波白野は眺めていた。
 しかし、呑気に黄金の女神を鑑賞している暇はない。
 白野は何のためらいもなく、いっそ潔く、殻の中に手を突っ込んだ。
 
「……【月の聖杯(ムーンセル・オートマン)より、緊急システムの起動を要請】」

 白野は、気づいたらそこにいたのだ。
 魔術的にも物理的にも、厳重に守られた城の中。冬木の地から奪われた、正真正銘の大聖杯。
 白野は"そうなるはずだった"が"そうならなかった"歪みを正すべく、月からこの地へ落とされた。



 白野には拒否権など存在しない。
 第三次聖杯戦争時、冬木の大聖杯が、参加者だったダーニック・プレストーン・ユグドミレニアに奪われた。大聖杯は、以後、ルーマニアのミレニア要塞に隠匿されていた。
 第三次聖杯戦争から数十年後。長い準備期間を経て、ダーニックは魔術協会からの離反を表明した。血族を中心とし、大聖杯をシンボルとする新たな組織の立ち上げを宣言したのである。
 はいそうですか、と魔術協会が頷くわけもない。
 大聖杯を所持し、聖杯戦争のシステムを利用して七騎を独占し、大聖杯の起動を試みるユグドミレニア一族に対して、魔術協会は討伐部隊を派遣した。
 しかし、ユグドミレニアは既にサーヴァントを召喚しており、五十名の討伐部隊は一人を残して死亡。生き残った一人は、ユグドミレニアからの宣戦布告を魔術協会に持ち帰るために残されたのだった。
 ユグドミレニアによる大聖杯の独占を食い止めるためには、戦闘は避けられない。だが、いくら超一流の魔術師であれど、サーヴァント相手では歯が立たない。サーヴァントの相手は、サーヴァントにしかつとまらない。
 そこで、聖杯の緊急システムの起動が求められた。
 たった一人の生き残りがたどり着くはずだったその場所に、岸波白野が落とされる羽目になった。
 緊急システムの起動は成功。本来、七人の魔術師と七騎のサーヴァントで争う聖杯戦争だが、今回は七人と七騎すべてが同陣営。聖杯は、独占された七騎に対し、新たに七騎のサーヴァントの召喚を承認したのである。
 七騎対七騎。総勢十四騎のサーヴァントによる聖杯戦争。冬木の聖杯戦争(オリジナル)に対して、聖杯大戦と呼ばれることになった。
 
「魔術協会がたどり着けなかった代わりにシステム起動して、命からがら逃げて、今度はお絵描きをしている……解せない……」

 岸波白野は魔術師(メイガス)ではないが、魔術師(ウィザード)である。
 前者は、行使する魔術が魔力を持った神秘。後者は、魂を量子化して電脳世界に干渉する。肉体に備わった魔術回路の使用方法が違うだけだ。
 白野は、紆余曲折あって月の聖杯(ムーンセル・オートマン)に管理されている。また、月の勝利者として月の聖杯(ムーンセル・オートマン)を管理する立場にある。とても一言では説明できない、長い長い冒険譚があったのだ。
 白野が魔術を使用するとき、通常、月の聖杯(ムーンセル・オートマン)のバックアップを得た状態での魔術師(ウィザード)的行使だ。霊子虚構世界"SE.RA.PH(セラフ)"での戦闘時はもちろん、観測のため地上にて行動するときも魔術師(ウィザード)として活動していた。
 今回もそのつもりだった。いくら突然すぎる月の聖杯(保護者)からの指示とはいえ、いつも通り、後ろ盾(バックアップ)はあるのだろうと。
 しかし、大聖杯が中途半端に起動している影響なのか、何か他にも要因があるのか。白野と月の聖杯(ムーンセル・オートマン)をつなぐラインは非常に心もとないものだった。リソースの大きい礼装や魔術(コードキャスト)は使えない。
 おまけに、還れる保証すらない。
 白野が、以前のように単なるNPC(モブ)であったならば、さほどリソースを割かなくても済む。だが、現在の岸波白野は、岸波白野の集合体であり、繰り返した聖杯戦争の結末であり、それなりの容量がある。
 つまり、運よく五体満足でルーマニアに現界できたが、還るにはラインが細すぎるのだ。不慮の事故や攻撃で致命傷を負い、帰還が不可避となったとしても。元データ破損(バグ)を生じる可能性が非常に高い。
 己と月の聖杯(ムーンセル・オートマン)を繋ぐラインを太くしないことには、ルーマニアからの離脱が不可能。ラインを太くするためには、何やら様子のおかしい大聖杯の起動を止めなければならない。聖杯戦争を終わらせなければならない。
 そういうわけで。
 サーヴァントの召喚が不可欠なのだが、月の聖杯(ムーンセル・オートマン)からのバックアップが不十分で、召喚に必要な魔力が足りない。
 サーヴァント召喚は月の聖杯(ムーンセル・オートマン)によって行われ、以降の魔力供給は白野を通じて行われたり、召喚から白野を通じて行われたり、という違いはあるが、白野は月の聖杯(ムーンセル・オートマン)を背負っている状態だ。出力元は変わらない。
 白野は心底困った。
 一騎のみならば――魔力貯蔵量が半端ない金色の王様はまた別として――召喚できないこともないだろう。身を守るだけならば、一騎のみで十分であるし、どちらかの陣営に潜り込めれば、大聖杯にも近付ける。
 さらなる問題は"白野が月の聖杯戦争の結末の集合体"であるという所だった。
 月の聖杯戦争で勝利するには、三騎の内いずれかのサーヴァントの協力が必須で、白野はそのすべてと縁がある。
 金色の王様は、また別枠である。
 要するに、一騎だけ呼ぶつもりでも三騎が来てしまうのだ。今の状態でそれをすれば、ラインがたやすくパンクし、彼らの座に悪影響が出る上に白野(オリジナル)に故障(バグ)が生じてしまうかもれない。
 ならば、と。白野は冬木の聖杯戦争システムに乗っとることにしたのだった。
 魔術師(メイガス)としての方法で、大聖杯の力を借りて、彼らを召喚するしかない。

「貧血になりそうだ……水で薄めていいかな……」

 現界という最も魔力消費の激しい段階を乗り越えてしまえば、白野の持つ心もとない魔力でもなんとかなるだろう。宝具の使用は控えてもらわなければならないが。
 月の聖杯戦争や、月の聖杯(ムーンセル・オートマン)のバックアップが十分な環境では不必要だった、召喚陣と詠唱。白野は、緊急システム起動時に聖杯から読み取ったデータをもとに、人気のない空き地で黙々と準備を進めていた。
 右手には木の枝。左手には血を入れたペットボトル。
 木の枝で地面に下書きした召喚陣を、木の枝を筆代わりにして血でなぞっていく。
 腰がいたい。
 長い時間をかけて三つの召喚陣の清書を終えると、白野は「よっこらせ」と腰を下ろす。白む空を呆然と眺め、そのまま寝落ちしてしまいたい衝動と五分ほど格闘し、見事勝利を収める。
 よろよろと立ち上がると、左手を力なくかざした。

「……素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
 我が意思は月天とともにあり」

 魔術師が命を懸けて臨む聖杯戦争の召喚とは思えない、力のない声だった。
 白野は疲れ切っている。

「手向ける色は"白"」

 こうして詠唱をしてみると、月はなんて親切だったのだろうと思う。呼べばサーヴァントの召喚を自動で行ってくれるし、おまけにお見合い機能までついている。
 魔術師(メイガス)も大変だ。魔術師(ウィザード)の行使する魔術は一小節以下で強力なものばかりなのに対し、魔術師(メイガス)は詠唱と威力が比例する場合が多い。言語、言葉、長さ。きっと魔術師(メイガス)は詩人ばかりだ。

「――――告げる」

 寝不足の目には、召喚陣の輝きが眩しすぎる。白野はそっと目を閉じた。

「汝らは言霊を縁とし、我が命運をその剣に。
 月の海にて微睡み、我が声を聞き届けるならば応えよ」

 空気が渦を巻き、白野の髪が躍る。ごうごうとなる風に、白野は転ばないよう踏ん張った。

「誓いは虚空の零と壱。
 我は全ての望みを測る者。
 我は全ての願いを許す者」

 魔術回路のパスが、三方向へ伸びるのを感じる。だが、魔力が抜かれていく感覚はない。狙い通りだ。
 白野との縁と、詠唱の文言で、呼びかけるサーヴァントは指定している。白野は眩しさをこらえて薄く目を開けた。
 
「汝ら、月の加護を纏う守護者。
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 風が収束し、痛いほどの光が鎮まる。
 三つの召喚陣には、それぞれサーヴァントが膝をついていた。
 男装の少女、赤い外套の武人、半獣の女性。
 白野は予想通りの三騎にふっと笑うと、安堵で力が抜けたのか、そのまま気を失った。




(――で、ここが監督役とやらのいる教会か)

 白野は足を止めずに、うん、と頷く。
 地上での聖杯戦争は、聖堂教会から監督役が派遣されるらしい、と聖杯から知識を得ていた。どの陣営にも属さず、中立を貫き、場合によってはサーヴァントを喪ったマスターの保護も行うという。
 白野は一人で教会へ向かっているが、傍らには霊体化したサーヴァントを従えている。セイバーでの現界となったネロ・クラウディウスである。
 
(監督役という割には……ふむ、どうしたものか)
(どうしたの?)
(滲み出る胡散臭さを感じるぞ)
(うん?)
(……なんだその顔は。疑っておるな?見よ、余のくせっ毛を)
(いや見えないけど)

 警戒するに越したことはない。そのためのサーヴァント(ネロ)である。
 白野は今一度気を引き締めて、古びた扉に手をかけた。
 教会内は静かだ。飾り気のない椅子が整然と並び、大きな窓から白い光が差し込んでいる。天井は遠さを感じるほどに高く、教会という俗世から切り離された空間でも息苦しさはない。
 白野の立つ位置から真っ直ぐ伸びる身廊に、若い男が立っていた。
 褐色の肌に長めの白髪。服装から彼が神父であることは明らかだが、厳かな空間にエキゾチックな容姿は少々ミスマッチだ。 
 己の呼び出した紅い弓兵とよく似たカラーリングの神父は、祭壇を背にして、にっこりと笑う。

「こんにちは、お嬢さん」
「こんにちは。……神父さま?」
「はい。シロウ・コトミネと申します」
「あ、白野・岸波です」
(……やはり胡散臭いな、この男)
(まあまあ。分からなくもないけど)

 白野の脳裏に、目にハイライトのない購買員の姿が浮かんだが、即座にかき消す。
 神父は目を細めて、要件を促した。

「懺悔をしに来たようには見えませんが」
「あの……ここに、聖杯戦争の監督役がいると。あなたが、"そう"なのか?」
「ええ」
「監督役というのは、聖杯戦争の現状の把握をしているものだと聞いた。この聖杯戦争……いや、聖杯大戦か。これはいつ開戦するの?」

 身廊に立ったまま問いかける。
 神父は優し気な顔のまま、こてりと首を傾けた。

「……意図を測りかねます。岸波さんがマスターであることは、私にも分かりますが……」
「すまない、こちらの事情を話すのが先だな」
「長くなりそうですね、おかけ下さい」

 神父にうながされ、近くの長椅子に腰掛けた。クッションなども当然ないので、ふとももからひんやりと冷える。
 神父も入口の方へ歩いてくると、身廊を挟んで白野の隣に腰掛けた。

「私は、白の陣営にあたるマスターなんだ」
「やはり、そうでしたか」
「やはり?」
「黒と赤の陣営は、マスターが出そろっていますから。私が全く把握していないマスターとなると、第三勢力になるのだろうと思いまして。白の陣営があるのは聖杯の緊急システム起動時に分かっていることですが、全く音沙汰ありませんでしたからね」
「聖杯戦争のルールについては把握しているんだが、その、全てのマスターとサーヴァントが出そろった時点で開戦となる、んだろう?」
「はい」
「じゃあ……サーヴァントが出そろっていないと思われる状態で、戦闘を開始したら、ルール違反にあたるのだろうか?」
「いえ、問題ありません。先ほど岸波さんがおっしゃった条件は基本的なもので、実際の所、令呪が出た時点でマスターは命を狙われます」
「そうなんだ。ならいいか……」
「……白の陣営は、優秀な魔術師が七人集まらないのですか?」
 
 神父は怪訝そうだ。万能の願望器を争う、魔術師にとっては命を懸ける価値のある一大イベントなのに、勢力をそろえることも出来ないのか、と。
 白野は神父の言葉に見下すような意思はないと感じたが、拍子抜けされたのは事実だろう。

「いや、正確には、"サーヴァントを七騎現界し続けるのが厳しい"んだ」
(奏者よ、そんなに情報を渡してしまっていいのか?)
(変に勘繰られるよりは、話してしまったほうがいいと思って。ただでさえ人数が多いし……どうせ、すぐバレるだろうし)
「……召喚は可能だと」
「多分。その後、七騎の現界を維持するための魔力が足りないんだ。だから、白の陣営はサーヴァントが七騎に満たない。サーヴァントが二十一騎揃わない状態だと、三陣営あるのに揃っていないことになるだろう?それで正しいと把握しているのは白の陣営のみになるから、そのまま戦闘をして何らかのペナルティを与えられる羽目になるのは避けたい」
「はあ、なるほど……特殊な事態ではありますが、ルール上は問題ありません」

 白野が召喚したサーヴァントは、合計で四騎だ。セイバーにネロ、アーチャーに無銘、キャスターに玉藻の前。そして、ランサーで召喚されるかと思いきや持ち前のチートさで別枠に収まっているらしいギルガメッシュ。ギルガメッシュのみ別の日に召喚したのは、必要な魔力量が膨大なのと、彼の機嫌を損ねないためである。呼ばないとそれはそれで後が怖い。
 ともかく。
 白の陣営は、ランサー、ライダー、アサシン、バーサーカーの四つのクラスが空いている。月で縁の出来たサーヴァントならば召喚できると思われるが、今の四騎でも宝具使用禁止というしょっぱい状態なのだ。これ以上増やすのはデメリットの方が大きい。

「イレギュラーだらけですね、白陣営は。"黒(ユグドミレニア)"対"赤(魔術協会)"という構図になると思っていましたが……」
「システム起動時に割り込んだのは申し訳ないと思ってるけど、私もこの聖杯戦争に参加する理由が出来てしまったから」
「おや、起動したのは貴女だと?」
「頑張った」
「あ、いや、それはそうでしょうが……見かけによらず、ずいぶんと優秀な魔術師なのですね」
「素直な感想にしてもあまり褒められた気がしない……」

 あの接触時に聖杯を強制終了(シャットダウン)させられたら、こうして参戦せずとも良かったのだが。
 逆らって鎮めるよりも、流れに合わせて緊急システムを起動させる方が負担が少なかった。ユグドミレニアから身一つで撤退する必要もあり、呑気に大聖杯に干渉するわけにはいかなかった。
 聖杯が現実世界に干渉するとき、その道筋から干渉して停止させるのが最も効率がいいのだ。

「……疑問は解消されたし、挨拶も出来たし、私はこれで。ありがとう、コトミネ神父」
「お役に立てたならば良かったです。検討を祈りますよ、岸波さん」

 立ち上がってスカートのすそを直しながら、再び礼を言う。
 座ったまま白野を見上げる神父は、にっこりと人好きのする笑みを浮かべている。生憎と愛想笑いの出来ない白野は、両の人差し指を口角にあてて、むいっと押し上げた。
- 34 -

prev(ガラクタ)next
ALICE+