メンタルにきてる審神者3



*主君の電話が終わりました

 仕事/政府の電話でしょうが、戻ってきた主君や叔父上の様子からするに、急ぎの案件ではないようです。本丸の急襲などではなく、安心しました。
 主君は、安室殿たちの空気の変化に気付いたのか、おろおろしながら僕に問いかけてきます。僕も困っています。

「……その、鳴兄さんが尊姉さんを守っているように見えるから、誰かに狙われているのではないかと聞かれまして……ストーカーだと、お答えしました」
「今の電話、どなたからかうかがっても?」

 工藤殿が遠慮がちに、けれど強く問いかけてきます。
 主君のことを気にかけていただくのは嬉しいのですが、今回ばかりは杞憂です。確かに、電話がなったことで顔色を変えて急いで事務所を出た主君の様子に思う所はあるでしょうが、緊急連絡かと焦っただけなのです。先ほども述べましたが、主君のアドレスは一部の方しか知りませんし、電話は大抵政府の方からで、緊急の場合が多いのです。
 
「仕事の、上司……みたいな人からです」
「お仕事は何を?」
「……ポケモントレーナーみたいなことをしています」
「ポ、ポケモン?」
「今の連絡は、新種のポケモンがまだ捕獲?出来ていないので、私になんとか捕獲してほしい、という催促で……」

 ご家族に審神者業の内容を説明するときにポケモンを例にとっていたので、今もそうおっしゃったのでしょうが、怪しさがましてしまいます。分かっています、主君は嘘を言わないからこそ言葉に力がある方なので、嘘をつけないのは分かっているのです。けれど、もう少し誤魔化し方を工夫していただきたかった。
 ちなみに新種のポケモン扱いされているのは、髭切と膝丸の二振りです。どの本丸でも未顕現なので、ベテラン勢が急かされているのでしょう。いつものことです。本霊からの協力が取り付けられたので、どの本丸でもいいから一振だけでも顕現して様子を見たいという政府の方からの要請です。
 僕らは主君の説明で十分わかるのですが、彼らからすれば、何かを誤魔化しているようにしか見えませんし、事実誤魔化しているので何とも言えません。

「私の仕事は機密があるのでお話できませんが、多分、皆さんが思っているような危険はありませんので。……危険は危険ですけど、そういうものではないというか……危険……?」
「尊さん、その辺でやめておこう」

 叔父上が主君の肩を叩きました。泣き止んでややハイ気味の主君は、核心を突かないまでも怪しまれそうなきわどいことをつるっと言いそうです。落ち着いてください。
 彼らはまだ疑わしそうというか主君のことを心配そうに見ていますが、追求はしないでいてくれるようです。その調子で誤魔化されていただけるとありがたいです。
 そうすると話題は戻り、主君と安室さんのことになります。工藤殿が「飲み物入れてくる」と席を立ちました。なんとなく切り出しにくい空気を察知したので、僕は赤井殿に話しかけてみました。

「赤井さんも、探偵なんですか?」
「俺か?俺は休暇中のFBI捜査官だ」
「えふびーあい」

 アメリカの警察官だよ、と主君が解説してくれます。名前も日本のものなのに、外つ国の方とは驚きました。主君も驚いているので、とても珍しい存在なのでしょう。
 安室殿の表情が若干硬くなったような気がしますが、気のせいでしょう。
 ソファの後ろに立つ叔父上も興味を引いたようで、珍しく会話に加わります。

「アメリカ……英語、話せるの?」
「もちろん。たが英会話くらいなら安室君も新一君も話せるぞ」
「……異国語か、すごいね」 
「Thank you.」
「僕、それは知っています。"ありがとう"という意味ですよね」
「ああ」
「せんきゅう?せんきゅ……駄目ですね、発音が出来ません。尊姉さんは言えますか?」
「うんん……Thank you、くらいなら。鳴は?」
「……やめとく」

 工藤殿がコーヒーとジュースを持って戻ってきました。僕の前にはオレンジジュースです。
 全員にコーヒーを配り、砂糖とミルクも準備してくれます。立ったままだった叔父上はソファに移動し、同じく立ったままの赤井殿は、窓際のデスクにもたれてコーヒーを飲んでいました。
 一息ついたところで、僕は安室殿をちらりと見ます。流れを思い起こすに、安室殿から切り出すのが適当であると思ったからです。安室殿もそう感じているのでしょう、コーヒーには口を付けたもののすぐにテーブルに戻していました。
 しかし、僕たちの主は違います。
 多分、ハイだったのが落ち着いて、肝座りモードに移行したのでしょう。そもそも、主君は本来、真面目で冷静で、凛とした方なのです。ちょっと疲れると泣いたり笑ったりしてしまうだけで。

「少し考えました。このままだと、私は危ないヤツだと」

 主君は砂糖を入れたコーヒーをぐるぐる混ぜながら言いました。自覚があるようです。

「安室さんに告白するだけでいいというのは本当ですが、五年前に会った女性が一方的に告白した後に号泣、というと……私が情緒不安定のストーカーとなじられても言い逃れできません」
「そんなつもりはありません。尊さんの人柄は、以前お話しした時に分かっていますから」
「う゛っ……ありがとうございます。でも、このままでは私が後ですさまじく後悔することになるので、きちんと売り込ませてください。お付き合いとか、そんな高望みはしていません。ただ、私のまともさを改めてアピールしたいと言うかなんというか……」

 主君はコーヒーを少し飲んで、背筋を正しました。頑張ってください、主君!あまりにも玉砕前提すぎて安室殿も反応に困っていますが、主君のそういう謙虚すぎて卑屈になってしまう部分も僕は好きですよ。

「職業は、公務員、です。仕事の都合上自由が利きにくいのですが、最近は少しずつ改善されていますので、二か月に一度くらいは出歩けるはずです。お給料もきちんといただいてますし、貯金もあります。仕事のことがありますので、家庭のことが少し難しくはありますが、大学時代一人暮らしでしたので家事は一通り出来ます。お酒、煙草、賭博はまったくやりません。仕事の都合上、一軒家を……?持ってます?持っているんですが、こちらも機密が関わるので、招待は難しいです。同じ理由で、同棲などする場合も少々ややこしいことになります。……あれ、もうアピールじゃない。ううん、あとは……一途な方です。浮気もしません。学歴も開示したほうがいいのでしょうか……?」
「尊姉さん、面接じゃないんですから」
「ああ、それもそうだね。……ええと、言えないことも多いのですが、安室さんのことを心から好きなのは本当です。ご検討いただければ幸いです」

 主君がソファに座ったまま深々と頭を下げるので、僕と叔父上も合わせて礼をします。
 頭を上げてください、と。安室殿の優しい声が聞こえました。

「……僕は、女性に好意を持っていただくことが珍しくありません。いつもお断りしていますし、今回も、お断りするつもりでした」

 ……おや?雲行きが怪しいですね。僕はそっと叔父上とアイコンタクトをとります。
 工藤殿と赤井殿も驚いている様子なので、本当に、安室殿は主君になにか心を動かされたようです。

「ですが貴女の言葉に嘘がなく、真摯なのだと、自分でも驚くくらいに理解出来ています。貴女のような方に慕って頂けて、嬉しいと思ったのです。尊さん、貴女の言葉はとても響く」

 あ、それは主君の言葉の力ですね。言霊使いと言うほど強いものではありませんが、主君の言葉には力があるのです。良い環境で育ったのと、嘘を言わない性質、さらに審神者業で霊的なものと近くなったことで"そう"なったと政府の方から聞いています。
 
「お付き合いを前提に、お友達からはいかがでしょう?」

 主君が頬を真っ赤に染めて、涙目でこくこく頷きます。主君が喜んでいるのが伝わって、僕も叔父上もとても嬉しくなります。桜の花も出てきます。
 嬉しい反面、僕と叔父上には重大な仕事が課されます。主君と安室殿の関係を全力で応援するか否か、見極めねばなりません。



*このあとを書きなぐる

 安室へのラブコールが羨ましく、降谷さん(約三四歳)はお友達からを提案。結婚諦めてたけど、まっすぐな好意って嬉しいよなあ……。
 午後は六人でお土産買いに出かける。安室さんには鳴狐と前田の視線が刺さる。
 連絡先を交換して分かれる。が、審神者へ/審神者からの連絡は制限があるので、検閲が入ることを明かした上でメールでのやりとり。本丸への電話は政府職員か同じ審神者か身内(登録された番号)にしか許可されていない。
 次の休暇でもデートをとりつけ、審神者の押せ押せでお付き合いする。OKもらったら膝から崩れ落ちる。まだ泣かない。ちなみにお互い職業は明かしていない。

「たとえ安室さんが無一文になっても、私が養ってみせますから」
「そこまで甲斐性なしじゃないですよ」

 審神者であることを明かすのは避けた方がいいが、審神者という職業そのものはそこそこ認知されているので、お付き合い開始と同時に審神者業を明かす。
 降谷さんは職業柄、審神者省だか対遡行軍課だかの存在と機密の多さを知っているので、素直に驚く。
 ちなみに、ここでは刀剣コンプとか難しい設定にしてみた。各本丸で顕現してる刀剣が全く違うとかザラ。相性とか力量とかいろいろある。法則は不明。(審神者は降谷さんへの告白後、本丸に戻って源氏兄弟の顕現に成功する)

「二十人程度の男性と同居していると……?」
「刀ですよ。前田君みたいな、少年の見た目をした刀もいます」
「成人男性は?」
「いますよ」

 降谷氏複雑。
 政治色の濃いパーティーでうっかり顔を合わせるとか、お約束なハプニングも起きて欲しい。数少ない初期からの採用審神者が数人呼ばれてて、審神者業はあやしくないようまくいってるよアピールする。審神者も入ってる。ある意味テスターなので注目される。
 降谷さんも参加してて、審神者業ってどういうものなのかという偵察。(ちなみに2、降谷さんは自分の彼女について上司に報告済。審神者業なので身元保証されてるよ)。彼女から最低限の情報は貰ってるけど制限はやっぱりあるので、直接会って様子見て来いって言う感じ。
 初期採用審神者は精神負担や自傷行為でのリタイヤ割合が大きい。
 降谷さん:審神者制度開始前のテスターが生き残ってて、どうやら出席するらしいから、本当に精神破綻していないかみてこい→あれは俺の彼女では???降谷零としての出席なので本名名乗る。
 審神者:各界の重鎮やお偉いさんが来るんだけど、生ける伝説とまで言われてる鬼才警察官が来るらしいよ→あばばばばばば。護衛はお披露目兼ねて源氏兄弟。
 
「すみません、僕は……」
「まッアッ言いたくないことは言わなくていいです。私が仕事のことを詳しく話せないのと同じでしょう」

 聞き分けのいい彼女に複雑な降谷さん。でもお互いに仕事を優先できる(せざるをえない)のは、お互いのために良いのかもしれない。
 パーティー後、テレビ電話出来るようになる。どうやら登録した番号&相手の身元がはっきりしている場合はOKらしい。外部との連絡を重要視していなかった審神者は、担当さんに聞いて初めて知った。

「テレビ電話どうですか!」
「いいですね。事前に時間を決めて、やってみましょうか」
「はい!あ、急な仕事とかで出来ない時は、事前連絡なくてもいいので、お仕事に集中してください。着信が入るのもまずければ、一時的に登録を解除してもらっても大丈夫です。担当さんには私から言い訳しておきますから」
「……ありがとうございます」

 テレビ電話では、審神者の後ろに眼帯の美丈夫ややたら声のいい少年が映ったり、審神者の膝で赤い髪の少年が寝そべっていたり、と降谷さんを複雑にさせる刀たち。悪気はない。
 そんなこんなで結婚までこぎつけて欲しい。(降谷さんも結婚式が出来るくらいには実働を離れていてほしい)。ウェディングドレス着たいなという審神者の希望はあるものの、神様と一緒にいる仕事なので、神前ではなく人前式とか。
 「こんな素敵な男性の名字をもらえるなんて!私はなんて幸せ者!」という思いの審神者、結婚式で降谷さんに向かってひざまずく(ウェディングドレス)。

「こうして、零さんの隣に立てることを光栄に思います。私はこれからも、一生、息絶えるその時まで、零さんを愛し守り続けることを、私のかみさまたちに誓います。私が、貴方にとって特別な女性であり続けることを願います」

 降谷さん、はちゃめちゃにびっくり。プロポーズは降谷さんがしてるかなと思うので、今度は私が!!という感じ。
 身内での式なので大盛り上がり。降谷の嫁やべぇぞ。
 いいぞー主!!さっすが主!!
 
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