妖精だと言い張る


〜あらすじ〜
空間転移の技が形になってきた気がするので、自室から廊下という短い距離で試そうとしたところ、全然違う場所に出てしまった!

合宿中の作業ローテとかは全然気にしておりません。ざっくり。
多分、跡部さんと手塚さんは人一倍警戒してる。
なんでこんな妙なものを書いてしまったのか。




 廊下に移動するはずだった私は、なぜか洞窟にいた。
 洞窟内を流れる水は透き通っており、どこぞの観光名所のようだ。幸い奥まったところではなく、すぐ近くに入口があったので、失敗したなあと思いながら外に出た。
 照りつける太陽、青々とした森、豊かな自然。人の声や気配はなく、人工物も見えず、ひらひらと蝶が私の視界を横切った。洞窟にいた時点で嫌な予感はしていたが、明らかに家や高校の近所ではない。
 私は盛大にやらかしたのだ。少しのミスではなく、とんでもない規模の座標違い。ここまでくると、凹むより先に可笑しくなってくる。つい笑ってしまっても、不謹慎だと咎める者はいない。

「んっふふふ、どこだよ」

 照りつける太陽に深くため息をついて、日陰を選んで歩き出した。水の流れを追えば、何かあるのではないかと。
 再び技を発動させるには、七二時間のインターバルがある。あと三日は帰れない。

「元の世界に戻れたんなら、それはそれでいいけど……どうやって拾ってもらおう……」

 今いる場所はもちろんだが、そもそも、ここがどちらの世界なのか突き止めなければならない。「幻影旅団を知っているか」「オールマイトを知っているか」くらいの質問ではっきりするだろう。
 近寄って来る虫を燃やしながら、川を下る。外に出るつもりはなかったので、素足なのが少々みすぼらしい。私は、"円"を張りながら"纏"は出来ても"硬"は苦手なのである。身を守る術は全力で取り組んでしまい、"円"をする余裕がないのだった。
 足の裏、切れてそうだなあ。まあ、獣になったり人間になったりと細胞が元気なのですぐ治癒するだろうけれども。
 
「……"円"広げてみるかあ」

 このまま歩くのもなんだし、とすいっと"円"を広げる。思いつかなかった訳ではないのだが、自然豊かなこの場所で――木々はもちろん、おそらくは動物も豊富なこの場所で――"円"を広げても、念能力者がいるかどうか程度の判断しかできないと踏んだからだ。大きくする分、精度は悪くなる。動物と普通の人間と動いている無生物の違いが分かるか、あまり自信がない。
 ダメ元で"円"を広げたのだが、人間っぽい気配を察知する。そしてある地点を越えると、"円"の片側で急に物がなくなるのが分かった。
 
「嫌な予感がするんですが……」

 オーラをためて地面を蹴れば、木を越え、旋回する鳥と同じ高さまで跳び上がれる。そこで見えたのは、川を下った方向にある海と、思いのほか小さな森。ロッジやその周辺をうろつく人間も確認できたが、これは。

「もしかして、島、なのでは?」

 体を"硬"で守って落下しながら、頭を抱えた。



 島に移動してしまったのは予想外もいいところだが、人が居るならば接触するべきだ。ここがどちらの世界で、どこの国なのか。ついでに、食料を恵んでもらえるとありがたい。
 と言う訳で、私は川を下るのを止めて、上空から確認したロッジに向かうことにした。
 こっそり近づいて、念能力者かどうかを確認して、それから接触しようと思っていたのだが、そう上手くはいかなかった。なぜだろう。厄日なのだろうか。

「夏にかまくらなんて贅沢ですね。涼しいなあ」

 青年が、氷のかまくらに入って上品に笑う。その横顔は見事なEラインで、憎たらしいほどに整っていた。ゆるく波打った髪は、男性にしてはやや長く、中性的な声と整った容姿も相まって女性だと勘違いされそうだ。身長もあるし体格もいいので、本気で性別を間違われることはないだろうけれども。
 私は適当に相槌を打ち、手首のモニターで体温を確認する。
 ちなみに、この氷のカマクラは私特製である。一枚の氷で継ぎ目がないので、溶けて崩壊する心配もない。
 
「いいの?こんなとこでゆっくりしてて。誰か心配してるんじゃない?」
「大丈夫ですよ。スケジュールの時間までには余裕がありますから」
「スケジュールとか組んでるんだ」
「はい。無人島に遭難しているわけですから、探索や料理……あとトレーニングも。各々が好き勝手に過ごすわけにはいきませんし」

 そう、彼を含めてロッジにいた人間は、無人島であるこの島でサバイバルを強いられているらしい。話を聞く限り、ロッジにあった備蓄や豊かな自然のお陰で、さほど過酷な環境ではないようだが、遭難していることに変わりはない。
 びっくりである。こんなにのほほんとしてるが、彼は遭難中なのである。『探索』真っ最中で落石に遭遇し、あわや一大事というところを通りかかった私が救助したのだった。
 ただ、更なる驚愕の事実が発覚したせいで、私は『無人島に遭難』というワードを重要視出来ていない。
 二つの問いかけ――幻影旅団を知っているか、オールマイトを知っているか――に対し、彼はどちらとも首を横に振ったのだ。ハンター語が通じなかったので、元の世界であることは早々に諦めたのだが、彼はオールマイトもエンデヴァーも雄英高校も"職業:ヒーロー"も知らなかった。
 もしかしなくても、ここは三つ目の世界だったのである。ジャポン語が通じることが幸いだった。ハンター語よりも、よほど汎用性が高い。ジャポン語素晴らしい。
 
「妖精さんは、一人なんですか?」
「そうだよ。というか、敬語止めていいよ」
「そう、かい?ならそうするよ」
「あと、君のことは何て呼べばいい?」
「そっか、名乗ってなかったね。俺は幸村精市、立海大付属中の三年」
「セーイチ……ん?中三!?」
「うん」
「うっそでしょ、青年どころか少年の年齢じゃん……」
「あはは、そんなに驚くことかなあ。妖精さんはいくつなの?」
「セーイチより年上」
「だろうね」

 彼――セーイチが、私のことを"妖精さん"と呼んでいるのは、何も彼の頭がお花畑だからではない。
 私がセーイチを助けて遭難云々を話している時に、「あなたは、ここに住んでいるの?それとも、俺達と同じように遭難?」と素直な疑問を投げかけられた。本名を名乗っても良かったし、トドロキヒョウカと言っても良かったのだが、どちらの世界でもないと判明した上に、七二時間すればこことはおさらばだ。変に覚えられても後味が悪いなあと迷った結果、「洞窟の妖精です」と口が滑ったのだ。暑さで頭がやられていたのは私の方である。
 美人の男子中学生から"妖精さん"と呼ばれる……何プレイかな……。

「年齢はともかく!そろそろ行こ。案内してくれるんだよね?」
「うん。探索の報告として、君のことを紹介しておきたいし。俺たちよりも、この島に詳しいだろうから」
「ううん……どうだろう……ずっと洞窟に閉じこもってたから……。んまあ、協力できることはするので、食料恵んでください」
「ふふ、大丈夫だよ。女の子を放り出したりしないって」
「獣を狩るのも手伝うから!さばき方は分からないけど」
「それは……流石に俺も分かんないなあ……」

 

 私はセーイチに連れられて、昼食の準備をしている炊事場へやってきた。山菜や魚が目に入るので、食料調達もしっかり行っているのだろう。分けて欲しいとお願いするのは申し訳ないが、身一つで初めてのサバイバルをするのは厳しい。獣化して野生にかえるという最終手段もあるものの、外で全裸になるのも、人が居るのに会話できない状態に自分からなるのも、気が進まないのだった。
 セーイチが私に紹介したのは、迫力のある美人くん。アトベというらしい。この場のリーダーを務めているということだ。
 
「跡部、彼女は洞窟の妖精さん。偶然出会って、食料に困っているというのでここに案内したんだ」
「は?妖精?」
「はじめまして。ちょっと食料を分けてもらえると嬉しい」
「……この島の住人か?」
「妖精さん、だそうだよ」
「ようせいさん……?幸村、お前ちょっと休め」
「ひどいな、本当だよ」

 私から言い出しておいてなんだけど、アトベの反応はまっとうだと思う。でも、セーイチの正気を疑われるのは不本意だ。彼だって、氷のかまくらを見せるまでは「妖精?ははっ」という反応だった。
 私は炊事場の外を見回す。通行の邪魔にならないであろう場所を見つけ、指さした。

「アトベアトベ、あそこ見ててね」
「あん?」

 瞬間、氷のかまくらを作りだす。音もなく、最初からそこにあったかのように鎮座するかまくらに、アトベが目を見開いていた。
 周辺にいた少年らが恐る恐る近寄り、氷であることに気付くと中に入り、「冷てぇ!」「涼しい!」と声を上げる。

「暑いみたいだし、ああいうのも役に立つと思う。あと火も出せる」
「……妖精、ねえ。電子機器を身に着けた妖精?」
「これは……前にもらったもので」
「ふうん」

 値踏みするような視線を向けられる。一つ一つの動作といい、雰囲気といい、話し方といい、本当に中学生なのか。自分の魅せ方を熟知した上での振る舞いは、何気ない仕草でも魅力的に見える。
 セーイチも含めてなのだが、この場にいる少年たちは私の知っている一般人とは異なる気がしていた。念能力者ではないにしろ、別ベクトルで普通の枠から外れている。
 
「ま……四十人いるんだ。一人くらい変わんねぇだろ」
「ありがとう!」

 アトベが深くため息をついて、頭を掻きながら言う。そうだよなあ、仲間が「この人妖精らしい」とか言い出したら頭痛いよなあ。ごめんなあ。
 
「……うん?四十人もいんの!?」
「ああ、そうだが?」
「多いなあとは思ったけど、ちょっと遭難したってレベルじゃないね」

 中学生が遭難して無人島って時点でおかしかったけど、四十人?そんな大人数でサバイバルできるもんなの?
 驚いていると、律儀に待ってくれていたセーイチが補足してくれた。

「全国大会前の合同合宿に行くところだったんだ。船が難破してね。でも、ここが合宿の目的地だったし、ロッジの数も足りているんだ。電気ガス水道は止まってしまっているけど」
「なるほど。にしても全国大会前に遭難とか……災難だね。ちなみに、何の競技?」
「テニスだよ」

 セーイチが指さした先には、ネットを張った広場があった。



 良い声の迫力系美少年に「妖精さんだ」とこっちが恥ずかしくなる紹介をされた後。私は大好評のかまくらを三つ設置して、ロッジ周辺を見て回り、広場にやってきた。
 木陰で座り込み、広場を眺める。大きな氷をごろごろと出しているので、影であることも相まってさほど暑くはないはずだ。先ほど、昼寝に最適だなんとか言いながら、アトベと同じジャージの人がやって来てそばで寝ころんでいる。
 パコン、パコンと小気味好い音が響く。

「見ててたのCーの?」

 寝やすいポジションを探してごろごろしていたアトベジャージの人が、髪をはらいながら体を起こした。日向よりはいくらか過ごしやすいとはいえ、地面では寝ずらかったのだろう。
 私は行き交うテニスボールを見ながら頷く。

「良く続くなあと思って」
「そりゃ、全国レベルのやつばっかだC。妖精さんはテニスしたことある?」
「高校の授業でしかやってないよ」
「……妖精さんは高校行ったことあるの?」
「……元人間なタイプの妖精なの」
「へえ〜。妖精さんも大変だね」
「ソーナノヨ」

 なんだこれ。誘導尋問か。元人間なタイプの妖精ってなんだ、人身御供かよ。
 まあいい。妖精設定に無理があることくらい分かっている。氷と炎を出せば、「あれ、もしかして本当に妖精?」くらいに思ってくれるのも確信している。普通の人間は、なにもない空間に氷塊や炎を出せないのだから。

「試合形式じゃないみたいだし、ド素人がいうのもなんだけど、あれだけ上手ければテニス楽しいだろうなあ」
「やる?」
「見てるとやってみたくなる。日が陰ってから、誰か付き合ってくれるかな」
「…………」
「……え、今寝る!?」

 
 
 少年たちばかりの合宿かと思いきや、二人だけ女子がいる。てっきり、どこかの高校のマネージャーだと思い込んでいたのだが、ただ巻き込まれただけらしい。災難にもほどがあるだろう。
 海側の探索チームに組み込まれているアヤカは、こんな状況にも関わらず明るく元気で好奇心旺盛で、夕食準備の為に火を管理していた私にもフランクに話かけてきた。
 使用するかまどに入っている火は全て私が管理している。弱火希望なら弱めるし、強くしてほしければ強める。複数の炎を違う強さにするのは中々大変だ。
 
「氷のかまくら、すごく涼しかったです!」
「それは良かった。夜に一回壊しちゃうけど、ご希望なら明日も出すよ」
「壊すんですか?」
「中途半端に溶けてると、さすがに危ないしね。殴って砕いて川に流すつもり」
「……結構、分厚かったと思いますけど」
「楽勝楽勝。なんなら、人参握りつぶそうか?」
「あっははは!包丁要らずですね!すごい見たいです!……って、あれ、妖精さん素足!?」
「靴がないからね」
「この山の中を素足って、危ないですよ」
「セーイチにも言われたけど、怪我の治りも早いから」
「そうかもしれませんけど、痛いじゃないですか!でも予備の靴もないし……あ、私の靴下はきますか?素足よりはマシだと思います」
「いーよ、泥まみれになるし。履けなくなっちゃうよ」
「じゃあ、足の裏みせてください」
「ヘッ」
「足の裏みせてください」

 ぐいぐい来る。怖いもの知らずというか、肝が座っているというか、良い子には違いない。
 立ったままだと転倒しかねないので、木製の椅子を引き寄せて腰かけた。ぱぱっと土を払って足裏を見ると、擦り傷と切傷で中々無残な状態だった。木のトゲも刺さっている。
 "硬"で守っていたら刃物も中々刺さらないことを思うと複雑だ。靴って大事だな。

「救急セット取ってきます。あ、そうだ、包帯巻いたらいいんじゃないですか?」
「あー……それなら、いいか」
「すぐ取ってきますから!待っててくださいね!」

 アヤカはそう言って離れてしまう。夕方なのに元気だ。
 残された私は、大人しく火の管理をして彼女を待つ。真正面からの厚意を無下には出来ないし、悪い気分ではなかった。
 


「あっはははごめん!!」

 パン、と強いインパクト音に被って謝罪する。だが相手は全国区の選手、私がおかしな方向に飛ばしても難なく追い付いて打ち返してくれる。
 夕食後、私はセーイチにお願いしてテニスの打ち合いをしている。人選は単に、一番頼みやすいのが彼だったからだ。
 セーイチは病気を患っていたらしいが、体力はもう戻っているからと打ち合いを引き受けてくれた。「全国大会前だし、軽いラリーでいい?」という言葉にはもちろんと頷いている。全国区の選手とまともに試合なんて出来るわけがない。そもそもルールすらよく知らない。
 テニスラケットは、セーイチのチームメイトらしいジャッカル・クワハラに借りた。彼はジャポン流の名乗りではなさそうなのでファーストネームがジャッカルだと思われるが、どちらなのかちゃんと確認していない。
 パコン、パコン、ポコン。
 セーイチが時折、わざと私から遠い所へ打ち返してくるが、私もちゃんと追いつけるだけの運動神経はある。ただ、セーイチがいる場所に返すだけのコントロールはない。
 途切れないラリーにテンションを上げていると、電子音が耳に届いた。一度は無視したが、そろそろ終わらないと倒れかねない。残念だ。

「セーイチ、終わろー!ありがとう!」

 セーイチが上手くボールを止めて、ネットの反対側からひらりとラケットを振る。私も振り返し、ラケットを持ってジャッカル・クワハラのもとへ移動した。ジャッカル・クワハラの隣でガムを噛んでいるのは、同じくセーイチのチームメイトのブンタである。
 セーイチもタオルで汗を拭きながら合流する。さすが、ほとんど息が乱れていない。
 
「ジャッカル・クワハラ、ラケットありがとう。気を付けてたから大丈夫だと思うけど、一応確認してて」
「お、おう。なんでフルネーム?ジャッカルでいいぜ」
「ジャッカル!ジャッカルね、おっけ」
「おっ幸村くん、お疲れー」
「ああ、ありがと。妖精さん、運動神経良いね」
「お褒めいただき光栄!構ってくれてありがと」

 邪魔にならない位置にドカドカと氷を出す。涼しいという彼らに頷いて同意しつつ、氷をペタペタ触って冷やした手を額に当てた。冷えてきている、はず。
 突然現れる氷にもすっかり慣れてしまったらしい彼らは、思い思いに涼んでいる。

「あんたさ、氷帝のテニス部じゃねぇんだよな?」

 ジャッカルが何気なく問いかけてくる。氷帝という言葉に首を傾けると、「あいつらだよ」と離れた場所にいるアトベを示した。なるほど、アトベと同じユニフォームの中学生は氷帝中学校の所属らしい。

「違うよ、妖精だよ。なんで?」
「氷が出てくるから」
「氷を出すイコール氷帝のテニス部って、どういうこと?アトベもこういうの出来るの?」
「まあ……」
「なにそれ、人間……?」
「ちなみに、うちの副部長は雷落とすぜぃ。ま、テニスコート限定だけどな」

 ブンタの衝撃発言に、動揺を隠せない。多分、そうとう怪訝な顔をしていると思う。
 おかしいな……?雄英の体育祭とか、念能力者同士の喧嘩の話をしてたんじゃないよな?

「テニスコート限定で、氷とか雷出すってこと……?一般人がやったら死ぬじゃん」
「何言ってんだ、テニスだぜ?死人が出るようなスポーツじゃねぇよぃ」
「人間って結構すぐ死んじゃうよ?まさかとは思うけど、幸村くんもびっくり人間だったり……?」
「俺?俺はそんな派手なことは出来ないよ」
「だ、だよね。今も普通に打ってたもんね」
「たまに、相手が五感失くしちゃうだけで」
「なんて?」

 この世界は特殊能力者がいないかわりに、一般人のスペックが異常に高いということなのだろうか。
 待て、落ち着け。"この世界は特殊能力者がいないかわりに"と考えている時点で、私も相当おかしくなっている気がする。
 まず。私の出身世界では、一般人が修行を積んで念能力者という化け物になれるだけで、念能力者がメジャーかと言えばそうではない。次に、ヒーローがいる世界。総人口の八割が能力者というデタラメ世界だ。凡人の定義が狂ってくる。
 彼らのオーラを見た時点で"念能力者ではない""個性持ちでもない"と判断した私は、この世界を前者――私の出身世界に近いものだと考えていた。能力者はごく一部で――いるかもしれないが一般人は知る必要すらない――一般人はまぎれもなく一般人だと思ったのだ。
 そう思ったのに、なんだこれは。氷?雷?あげく五感を失くす?

「……もしかして、私も五感失くすかもしれなかった?」
「俺も軽く打ってたし、試合形式じゃないし、大丈夫じゃない?」
「でも部活中、幸村の相手したやつが倒れたりするだろ」
「ぶっちゃけ、俺は妖精サンも五感奪われちまうんじゃないかと思ってた」
「そういうのは前もって教えといてくれないかな?私、見えなくなったらまともに立てなくなるからさ。生きていけないじゃん」
「ははは、なにも永続的に奪うわけじゃないよ。それに触覚さえあれば、最低限動ける。ちょっとおかしいなって時点で言ってくれれば、俺はラリーを止めるつもりだったんだ」
「大丈夫だって言ったじゃん!もしかしたら、普通の人だったら触覚なくしてたのかもしれないってことじゃん!?」

 はははじゃないよ、笑い事じゃないよ。綺麗な顔してとんでもなく物騒な中学生だ。


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