魔術師の反抗



世利side

荷物の搬入も終わった私は、今夜から夜間部の授業に出ることになった。昼夜逆転生活は大して負担増ではないのだが、夜間部生からの敵意は気分のいいものではない。枢から私が紹介されたことで幾分か和らいだけど、警戒するような視線は常にある。

寮の門を前にして、生徒の騒ぐ声が聞こえていた。校舎入れ替え時の混雑は枢から聞いている。若いというのは凄いな、と思いつつ、ゆっくりと開く門を見る。途端、ぴぎゃあああ、と黄色い歓声が頭を揺らした。

「行くよ、世利」
「私は一条君と行く。コノヤロ勝手に手を取るな!」
「はいはい、行くよ。僕らが行かないと他の子達が行きにくいだろう」
「手を繋ぐ理由になっとらんわ!あ、一条君と藍堂君が行ったな。すごい歓声だ」
「君も行くんだよ」

何故か手を引かれて門をくぐる。私がいたからだろう、耳が痛いほどの歓声は少し収まった。観察するような視線を無視して歩いていると、普通科生を押さえる優姫君と錐生君がいた。私は枢の手を振り払って走り寄る。

「二人とも大変だな。怪我をしないようにーー」
「あの!!新しい夜間部の方ですか?!」
「ん?ああ、ちょっとした手違いだがな。君達普通科生は、彼らに会うためにここへ?」
「はいっ!!お名前いいですか?!」
「く、玖蘭先輩とはどういうご関係ですか?!」
「お、落ち着け。私は世利で、アレとは腐れ縁だ。これからよろしく頼む」
「……世利、さっさと行ってくれ」
「挨拶は礼儀の基本だろう?錐生君。睨んでもお姉さんにはきかないよ」
「世利はお姉さんって年でも……君が全力で振り払った手首が千切れそうだよ」
「何か言ったかバカナメ。お前に年の事を言われたくはないな。それから私を待ってなくていいし、私の身体能力は人並みだ。私の力で怪我をするようになれば、お前もガタがきたってことだ」
「……本当、僕に容赦無いよね」

私の態度に心当たりが無い、とばかりにこの男は溜め息を吐く。見惚れている普通科生の目を覚ましてやりたい。

「従順な私も気持ち悪いだろう」
「クス、確かにそうだね」
「その微笑が嫌いだ。悠はもっと嫌味のない笑顔だった」
「僕のどこに嫌味があるの?」
「全部だな。なあ錐生君」
「…………早く行ってくれ」
「む。そうだな、君らの負担になりたくはないし。行くぞ、枢」
「なんで錐生くんの言う事は素直に聞くの……」
「錐生君は紳士的でいい男だよ。眉間の皺さえ取れれば完璧だ」
「僕は?」
「変態的暴君?」
「世利……いくら僕でも傷付くよ」
「はっはっは。馬鹿言ってないで行くぞー」

傷つきましたとばかりに胸を押さえる枢を流して校舎に入る。続いて枢も入り、私は待っていてくれたらしい一条君に話しかけた。

「教室はどこなんだ?」
「案内するよ」
「すまないな」
「僕に聞いてはくれないんだね」
「何か癪だからな」
「君のことを一番に考えてるのに……」
「ならばどうして編入なんかさせたんだ?あ?」
「やだなあ、それは謝ったじゃないか」
「編入に関しては割り切っている。誠意が一ミクロンたりとも感じられないお前が気に入らないんだ」
「枢と錐生くんも仲悪いけど……世利ちゃんも相当だよね」

苦笑する一条君に、まあなと短く肯定すると、枢が小さく笑っていた。ここは笑うとこじゃない。


fin
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