ペットボトル分の
暁side
人の少ない、高校の屋上。
「良い天気ー」
「そうだな」
胡座をかいた足の上には購買で買って来た弁当。右手には割り箸。背中には壁。頭上には晴天。
そして右隣には幼馴染の彼女。
小さい頃から不思議と気が合って、高校生になった今でも一緒にいる事が多い。毎日ではないが、週に二度くらいは昼食を共にする。
文系理系の違いこそあれ、進学した高校が一緒だったのは恐らく偶然だが。
「はあ……」
「世利?」
「今日筆箱忘れたの。だから一日憂鬱」
持参した弁当を食べる世利は言葉通り落ち込んでいるらしく、さっきからどこか暗い原因はそれかと納得する。
「筆箱くらい大丈夫だろ」
「まあそうなんだけどさ……やっぱり、相棒みたいな感じじゃない?私、シャーペン一本しか使わないから」
一本だと何かあった時に困るんじゃ、と思いつつも突っ込まない。それが手に馴染んで使いやすいということだろうし、使っていないだけで他にも持ってはいるのだろうし。
……保護者かよ、俺。
「中三の時から三年間、ずっとそれなの。物持ち良くない?」
「高かったとか?」
「ん、値段は知らないや」
「……貰い物か?」
「そう」
世利は頷いて、最後のおかずである卵焼きを口に入れた。弁当に卵焼きがある時、最後の一口がそれなのは彼女の癖のようなもの。
昔から一緒にいて、変わったのは多分身長くらい。
俺と世利の間には彼女のペットボトルがあって、それが今の俺たちの距離感を表しているようだった。
「あのシャーペンさ、暁がくれたやつなんだよ」
「っあー……あれか」
そういえばそんなことあったな、何て言っている俺。気恥ずかしくて、ちゃんと覚えてるって言えない俺。
中三の夏前に彼女の志望校が決まって、でも相当頑張らないといけないようで、応援の意味を込めてプレゼントした。
合格してほしかった。彼女の志望校であり、俺の志望校でもあるこの高校に。
「あれね、私の勉強の相棒」
「光栄だな」
空になった弁当を片しながら、小さく笑う。
ふと、彼女がペットボトルを取って茶を喉に流し込んだ。そしてそのまま別の場所に置き、俺の右肩に寄りかかる。
この無防備さは幼馴染の特権ってヤツか。喜んでいいのかヘコんだらいいのか、俺には良く分からない。心地良いことは確かだが。
「……また今度、大学受験用のシャーペン買ってやるよ」
「ほんと?やった」
その言葉が、ただプレゼントされることへの喜びだけでなく、"俺から"であることにも喜んでくれていたら良いのに。
俺と彼女の間に、今ペットボトルは無い訳で。
きっと次の昼食に復活する、ただのペットボトルが恨めしい。
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