我が道を行く



枢side


「枢ってSよね」

書類を書く僕に、カウチからこちらを見る世利が不意にそう言った。言ってる内容は馬鹿馬鹿しいが、彼女の顔は真剣そのもの。

「……夜会のドレスを新調したいって言ってたよね、ついさっきまで」
「言ってたわ。……で、枢ってSよね」
「まあ、世利がそう言うなら、そうだろうね」

彼女の話は、基本的に脈絡無く始まって唐突に終わる。ドレスを作るブランドを変えたいって言っていたのに、結局どこか決まっていない。

「どうして枢はSなの?」
「さあ。世利がMだからじゃないかな」
「な、私はMじゃないわっ」
「僕がSなら君はMだろう?」
「私はSよ。枢がMなのよ」
「……最初に僕をS呼ばわりしたのは世利だけど」

そう言うと、世利は真剣な顔で考え込んでしまう。今更だが、SやMなんて<純血種>二人がする会話には似合わない。

「じゃあ二人ともSなのかしら」
「……それは無いな。S同士だと反発するよ。磁石だってそうだろう」
「あ、じゃあ私がSで枢はドSなのね」
「……S同士に変わりはないよ。それを言うなら、世利がドMで僕がドSなんじゃない?」
「あら、枢って変態だったの?」
「だから君が言い出した話だよ」

書類を仕上げ、握っていたペンを置いた。デスクに置いていた封筒に書類を入れ、カウチに歩み寄る。また何か悩んでいたらしい世利が、はっと僕を見上げた。

「枢が変態なら、その相手をしている私はどうなるのかしら」
「クス……ド変態でいいんじゃないの」
「きっと枢の方が変態よ」
「僕はどっちでもいいけど」
「……枢、変態に見えないわね」
「君が言い出したんだよ?」
「あれね、変態過ぎて清められてるのね」

意味が分からない。いつもの事だけど。ただ、書類仕事を終わらせた僕を多少労って欲しかったりもする。でもどこまでも自由な世利を好きなのは事実で、こんな無意味な会話ですら楽しい僕は重症だろうか。

世利と並んでカウチに座り、世利の肩を抱き寄せる。

「清められてるなら、僕は変態じゃなくなるけど」
「なら私もド変態なんかじゃないわ。良かった」
「君が良かったのなら良かった」
「あ、ねえ枢?」
「ん?」

世利が僕の顔を覗き込んで、小首を傾げる。それを天然でやっているものだから、僕としては堪らない。

「ミルフィーユが食べたいわ」
「じゃあ一条に言っておくよ」
「うん」
「さ、ドレスの発注先を決めようか」


fin
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