たまにはカッコイイ隊長


 ヴァジュラの討伐任務を終え、アナグラへ帰投する。アリサとともに神機を保管庫に預けると、共有のシャワールームへ直行した。
 脱衣所のロッカールームには、各々が着替えを準備している。私室までの移動が憚られるほど汚れた場合に便利なのだった。

「ふわー……っくしゅん!」
「大丈夫ですか?」
「平気平気。ちょっと寒いけど」
「早く温まりましょう」
「うん」

 任務中ヴァジュラに吹き飛ばされ、運悪く水地に落下したのだ。空中で移動する術もなく、不本意なダイビングとなった。ヒノを引き上げたアリサも濡れてしまっている。
 ヒノは暖かいシャワーを頭からかぶりながら、直前で神機を手放したのは良い判断だったとしみじみ思う。
 適合者であるヒノにとって体の一部である神機は軽く感じるが、本来、バスターブレードだけで二十キロを超えるのだ。
 アリサと喋りながらシャワーを済ませ、タオルで髪を乾かす。

「三時か……。今日はこれで終わりだからゆっくりできるー」
「そうですね。報告書、お手伝いしましょうか?」
「ううん、溜まってないし大丈夫。ありがとう」
「いいえ。手伝えることがあれば、いつでも言ってください」
「うん」

 汚れた制服は洗濯機に放り、タオルは回収用のかごに入れる。任務中に使用するインカムと携帯端末、残ったアイテムを持って、シャワールームを出た。後ほど、濡れて使えなくなったアイテムの確認をしなければならない。
 ベテラン区画に部屋のあるヒノと違い、アリサはまだ新人区画に部屋がある。フロアが異なるのでエレベーターで別れ、ヒノは煙草と酒の匂いがただよう部屋に入った。
 ミネラルウォーターとタブレットをテーブルに準備し、ソファにあぐらをかく。水分補給をしつつ、呑気に、手際よく入力を済ませていく。
 最後に、タブレット用のペンでサインを入れたところで、緊急アラーム音とともに館内放送が始まった。

『緊急任務発生。第一部隊は、至急エントランスに集合してください』

 オペレーターのヒバリが、早口で繰り返す。
 第一部隊隊長であるヒノは、それを無視できるわけもなく、クローゼットからフェンリルのジャケットを引っ張り出して羽織った。
 エントランスに駆け込むと、任務受注カウンターの前に、先ほど別れたばかりのアリサがいる。
 他部隊のゴッドイーターや清掃員の視線が集まる中、ヒバリに状況を問いかける。

「贖罪の街にてスサノオ、エイジスでアマテラスが確認されています」
「第一種接触禁忌種ばっかり……って、え、両方至急?」
「はい……」

 エイジスに今作業員がいることは、既に聞いている。事前にアラガミは討伐しているのだが、運悪くアマテラスが侵入してしまったのだろう。
 その上、街のほうも至急とは。行商かと問えば、ヒバリは苦い顔をした。

「外部居住区民が確認されているので」
「うぐぅ……」
「民間人の報告がなければ、後ほどでも良かったんです。もしくは、第一種接触禁忌種でなければ、第一部隊以外でも対応可能なんですが……」

 ヒノは、ざっと緊急報告に目を通す。
 アリサが、第一部隊の任務予定を開いていた。

「ソーマさんとコウタは、まだ巡回と小型アラガミの討伐任務に出ています。ユイトは博士と本部に出向していますし……リンドウさんは?」
「リンドウさんはまだ検査と神機の調整が終わってないはず……うん、まだだね。出撃不可になってる。タイミング悪すぎ」
「私とヒノさんでそれぞれ向かうのは危険です。順番に対応するべきかと」
「民間人がいるんだ、間に合わないかもしれない。ヒバリさん、第二と第三で、今アナグラにいて他の任務ない人いる?」

 ヒバリが即座にキーボードを叩き、極東所属のゴッドイーターを表示させる。

「第二部隊のタツミさんとアネットさん、第三部隊はジーナさんが今日はフリーです。他部隊にも、フリーの方は何名かいらっしゃいます」
「ねえアリサ、第二と第三なら、共闘経験あるよね?」
「あ、はい。何度か……」
「ヒバリさん、アネットとジーナさんを緊急招集。あんまりここを手薄にも出来ないからね」
「はい!」

 ヒノは中尉という階級をもっている。緊急時に他部隊を独断で動員することは、上官のツバキからも許可されている。
 また緊急の館内放送が流れた。アネットとジーナを呼び出すそれを聞きながら、アリサに輸送ヘリの手配を頼み、ヒノはリッカに連絡を取る。

「リッカさーん」
『緊急でしょ?ヒノとアリサの神機ならまだ触ってないからすぐ出せるよ』
「アネットとジーナさんのも出せる?」
『すぐ準備するよ』
「ありがと!」
「ヒノさん、ヘリ要請終わりました」
「おっけ。じゃあ、アリサはアネットとジーナさん連れてスサノオ行ってくれる?」
「は……はい?」

 よろしく!と一方的に告げ、任務につくゴッドイーターの登録を済ませる。
 贖罪の街、スサノオ討伐にアリサ、アネット、ジーナ。エイジス、アマテラス討伐にヒノ。
 ではさっさと準備してしまおうとターミナルに向かうヒノを、アリサが引き留めた。
 アリサの珍しい表情に、ヒノは半歩退く。美人が怒ると怖いのだ。

「そこはせめて二人ずつでしょう!?」
「後衛がアネットだけはちょっと不安でしょ。新人さん駆り出すのも抵抗あるけど、ベテラン勢がごっそりいなくなるのも避けたいしさー。街なら動ける範囲広いから、いざって時に一時撤退しやすいし、アネットでも大丈夫かなって」
「いくらヒノさんでも、一人は無茶です!普段、私やコウタが回復弾を撃たない日はないでしょう!サクヤさんの苦労がよく分かります!」
「いつもお世話になってます!でも、さすがに一人だとそこまで無茶しないから安心して」
「っそれは、そうですけど……!」

 アリサの心配はもっともだが、ここで議論している時間もない。
 ヒノはアネットとジーナの到着を確認すると、アリサに軽くハグをした。二度背中で手を弾ませ、ウィンクを決める。

「私はこれでも、第一部隊の隊長だよ」




 普段はほとんど使用しないトラップ類を持ち、増強剤も上限いっぱい準備する。
 アリサには格好つけたが、ヒノは元々単騎出撃が苦手である。
 回復してもらえないのはもちろん、戦闘不能時にリンクエイドという荒業での回復が出来ないからだ。
 しかし、自信がない訳ではない。

「さあて、生きて帰りますか!」

 作戦地に向けて降下する。巨大なアマテラスの姿は遠目でも確認できた。降下完了と同時に作戦開始だ。
 ヒノは、アマテラスの顔面にスナイパーの銃口を向けた。

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