エリナとオウガテイル


 極東の第一部隊はゴッドイーターが五人所属しており、どちらかと言えば大所帯だ。しかし、五人全員が独立支援部隊クレイドルを兼任しており、極東支部で任務に出られるのは基本的に二人――ヒノとコウタだけだ。
 ヒノは第一部隊隊長として必要な業務をこなしてきたが、ずっと避けてきた仕事がある。
 ヒノは"贖罪の街"でぐっと背伸びをしながら、斜め後ろに立つ少女を一瞥した。
 
「あー……エリナ。じゃあ、行こうか」
「はい。よろしくお願いします」

 避けてきた仕事とは、新人教育である。
 新人ゴッドイーターはしばらく第一部隊預かりとなり、実戦経験を積むのが慣例だ。第一部隊はアラガミ討伐部隊という別名通り、任務数が多く、その分優秀なゴッドイーターが多い。手っ取り早く経験を積ませ、かつ、優秀なゴッドイーターを監督に置くことで生存率をあげるという分かりやすい理由からだ。
 だが、ヒノは挨拶こそすれ、任務同行はしなかった。新人教育に精を出していたリンドウを筆頭に、ユイトやアリサやコウタにまかせっきりだったのである。しかし。今、リンドウは第一部隊からクレイドルに転属、他もクレイドルと兼任となった。リンドウとユイトはドイツ支部に出向、アリサもクレイドルの活動で極東を空けることが多い。
 新人教育をコウタだけに任せる訳にも行かず、こうして、ヒノは先輩風を吹かせているのだ。
 
「ダミーアラガミとの模擬戦闘はやったと思うけど、そのモデルがオウガテイル。大きさもモーションもほとんど同じだよ」

 エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。裕福な家庭の出身で、クールな印象の少女だ。兄のエリックもゴッドイーターで、極東支部に所属していた。ただ残念なことに、ヒノが極東に来る前に殉職している。

「あそこに群れているオウガテイルを倒してもらうけど……五体かあ。先に、私がちょっと減らすから、」
「いえ、大丈夫です。オウガテイルは、アラガミの中でも小柄な部類なんですよね。模擬戦闘でも経験していますし、五体が相手でも問題ありません」

 美少女はギリとオウガテイルを睨んでいる。兄のエリックがオウガテイルによる不意打ちで亡くなったらしいので、仇のような感情もあるのかもしれない。
 生意気な少女に、ふうん、と返して頭を掻く。強気なのは結構だが、あまり感心はしない。初任務で自信満々な新人ほど、すぐに死んでいくのである。
 ガシャコン、ガシャコン。
 うんうん悩みながら神機をコンバートさせていると、エリナからの視線が刺さった。

「そうかもしれないけど……減らすよ。私、新人教育初めてだし、いきなり怪我させたくもないし。ゴッドイーターの成人率が低いって話も知ってるでしょ?死ぬときはすぐ死んじゃうから」
「……それでも、隊長さんの隊の生存率は極めて高いって」
「えーそれ信用されても困るなあ」
「"最強"っていう呼び名の割に、自信ないんですか」
「個人的に、"最強"はソーマだから。そもそも、呼び名とか生存率とか気にしてたら仕事出来ないよ」
「じゃあ、隊長さんは何を考えてるんですか」
「生きる方法かな。ゴッドイーターの仕事なんて、生きて帰るか死ぬかの二択だよ」

 ガシャコン。神機を銃形態にして構える。バレットは攻撃力の高いものをセッティング済だ。
 オウガテイルにスナイパーの照準を合わせていると、エリナが自身の神機をぎゅっと握ったのが分かった。緊張だろうか。
 ……そりゃ緊張もするよなあ、デビュー戦だもんなあ。いやーでも「大丈夫大丈夫!イケルイケル!」と適当なことも言いたくないしなあ。
 気の利いた言葉がかけられないまま、ヒノはトリガーを引いた。殺傷力の高い銃弾が命中し、それぞれ一発でオウガテイル三体を倒す。オラクルポイントはすっからかんになった。
 
「さあ、エリナ。神機を構えて」
「っはい」

 生き残った二体のオウガテイルが咆哮し、こちらに駆けてくる。ヒノは神機を剣形態にコンバートしながら、エリナの肩を叩いた。

「……私は気の利いた言葉も、気休めの言葉もあげられない。オウガテイル相手でも死ぬときは死ぬ。ベテランでも新人でも関係ない」
「そ、それ、今言いますか?」
「だって君さあ、生易しい言葉とか嫌いだろ?だったら、現実見てもらったほうがいいかなって」
「……」
「勝とうとするんじゃない。生きることを考えて。逃げることは、負けることではないよ」

 エリナの目には、怯えよりも闘志があった。咆哮するオウガテイルを前に強く頷き、唇を噛んで駆けだす。
 ヒノはフォロー出来るように気を張りながら、危なっかしいなあ、と苦い顔をした。

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