コウタとグボログボロ


「いやさー」

 ヒノは動かなくなったグボログボロを見上げる。
 大きな砲台(鼻)、大きな口と牙、硬いヒレ。アラガミの中では小柄な部類に入るが、ヒレの動きや突進で吹き飛ばされるとダメージは大きい。

「グボロ、こんなに弱かったかなって」

 今回はグボログボロ一体のみの討伐で、かかった時間は索敵を含めて十分ほど。他のアラガミによる侵入が無かったとはいえ、非常にスムーズだった。
 ヒノがしみじみとグボログボロを見つめていると、同行していたコウタがあきれ顔で近づいてくる。
 
「ヒノが強くなったんじゃねえの?ブレードも強化しまくってんじゃん」
「まあ……うん。あと慣れもあるか」
「んでもって、俺も強くなったし?」
「うん」

 それはもちろんだな、と深く頷くと、コウタは大げさなほど驚いて見せた。

「突っ込まれると思ったのに」
「いやいや」

 第一部隊隊長のヒノが言うのもなんなのだが。
 化け物揃いの第一部隊の中で、コウタはいい意味で普通だ。第一部隊のムードメーカーで、癖の強いメンバーの緩衝材になっている。アリサとユイトと同期でありながら、劣等感に悩むこともなく、自分が出来ることをして、着実に成長していく。

「コウタは本当に強くなったと思うよ。私が第一部隊に入ったのは一番遅いけど、それでも分かる。コウタは全然誤射しないし、欲しいときに回復弾くれる。回復とかで一時離脱したいときはアラガミの注意を引いてくれたり、とか。なんというか、フォローが上手い」
「や、やめろよ、急になんなんだよ……」
「ちょっと卑屈な空気を感じたから、たまにはちゃんと言っておこうと思って。私が言うのもなんだけどさ、第一部隊ってちょっと飛びぬけてる人ばっかりだから、コウタのすごさが分かりにくいんだよ」
「あーヒノは飛びぬけてる筆頭だよな」
「ある程度強い自覚はある。でも、コウタも優秀なゴッドイーターだ」

 グボログボロが霧散を始める。最後まで見届ける必要もないので、肩を回しながら回収ポイントへ移動を始めた。
 ヒノがスタスタ歩きはじめると、「あー」だの「うー」だのうなるコウタが後に続く。お調子者の面が強く、いつでも明るいムードメーカーは、真正面からの賛辞に慣れていないらしい。
 一方、ヒノは内心で反省していた。コウタが褒められにくい立場であることは分かっていたのに、今まで特に言葉をかけなかったのは失敗だったかもしれない。ヒノはコウタ達と同期のようなものだが、年上であり、上司でもあるのだ。

「いつも感謝してるよ。私、あんまり後ろを気にしないから、後衛しにくいって言われる」
「誰?サクヤさん?」
「この前ジーナさんにも言われた……」
「ま、まあ、分からなくもない。でも戦ってるのに後ろを見ろって言う訳にもいかねーじゃん?当てないように撃つのは、後衛の腕の見せ所っていうか」
「そういう所、すごいと思うし、感謝してる」
「いいよもー!こっぱずかしいから!評価してくれてるのは分かったから!」

 この話やめやめ!と後ろでコウタが叫ぶ。ヒノが振り返ると、コウタは顔を真っ赤にして眉を寄せていたをしていた。

「そうだ!今度、コウタのお母さんと妹さんにもご挨拶行こう」
「やめてよ!!」

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