上司の心配
sideコウタ
任務もなく、飯も終わり、バガラリーを見る気分でもない時は、ふらっとエントランスのソファに座る。暇になると何と無くここに来るのはオレだけじゃなく、第一部隊の皆がそうだ。理由はよく分からないけど。
エレベーターでエントランスに出て、いつもの場所へと足を向けるオレ。そこには我らが部隊長のヒノとアリサがいた。そういえば今から任務だっけか。ヒノとアリサとサクヤさんの女三人だとか言ってた。サクヤさんはまだらしい。
オレも混ざりたいなー。でも神機がメンテ中だし。
オレは何の抵抗もなく声をかけようとして、
「アリサ……やっぱり、駄目なんだね」
「ヒノさん……っ!すみません、私……ヒノさんの気持ちには応えられません」
?!
「いいよ、覚悟はしてた……でも、任務中もご飯の時も訓練の時も、気になって……目で追っては、恥ずかしくなってそらしてしまうんだ……。こっちこそごめんね、アリサ」
「そんな!ヒノさんが謝ることじゃありません!……私が、応えられない私が……!」
「いいんだよ、自分を責めないで。所詮は私の自己満足……アリサは悪くないよ」
……え、え、は?え?まじ?おいおいおいいいいいい!第一部隊でそんな展開あっていいのかよ?!
これはあれか?ヒノがアリサに告って……お、女同士?!聞いてないぞ、部隊内でこんなことになってるなんて!ヒノがアリサに告るってのはかなり意外っていうか!ヒノって恋愛とかそういうのに興味ないみたいで「彼氏にするなら誰?」っていくつかの部隊の写真見せた時も、「あんまり興味ないんだよねえ、デートはアラガミ相手で十分だし」って言ってたくら、い、で……そうか!あれは男に興味ないって意味で、ヒノは女が好きだってこと……?!
「ヒノさん、あのっ……実は、サクヤさんがヒノさんに……」
まさかの三角関係キター!
第一部隊の女子どーなってんの!これはあれか?オレはまさかソーマと……?!ありえねぇええええ!
「サクヤさんが私に……?実は私もさ、サクヤさんに、今度言ってみようかなって……」
隊長乗り換え早っ!いいのかそれでいいのか?アリサに対する気持ちはそんなものだったのか?見損なったぞ!
ぐっとこらえるように俯いたヒノと気まずそうなアリサ。少しの間をおいて顔を上げたヒノは何かを決めたような、真っ直ぐな目をしていた。
会話に割り込もうとしていたオレは、思わず口を閉じた。だってリーダーの目はまっすぐで、ここでオレが口挟むのは間違ってる気がして……寂しいけど部外者だ、ここはしっかりと見届けるべきなんだ、オレ。割り込むのは、多分ヒノ風にいうと、「チャージクラッシュで仕留めようとブレードを振りかぶった瞬間に、遠距離からの援護射撃でアラガミが力尽きた時」くらい萎えるってことなんだきっと。
「決めた、私サクヤさんにも言ってみるよ。受け入れてもらえなかったとしても……!『いつも着ている服は露出度が高すぎると思う』って!」
……ん?!
「そんなことないと思うんですけど……」
「アリサ、君の感覚はおかしいよ!私が何度言っても、露出度は下がらない一方だし!」
「慣れちゃってるから、こっちの方が気合い入るんですよ!」
「アリサの言い分も分かるけどっ!四六時中ヒヤヒヤしてる私の身にもなって……!」
カッ、と掴みかかるように熱弁するリーダーに、オレは自らの過ちに気付いて顔を覆った。ついでにうずくまった。ほんと割り込まなくて正解だオレ……!とんだ恥かくトコだった……!
「"下乳のアリサ""横乳のサクヤ""上乳のツバキ"として知られている君らだけども、」
「すみませんどこ情報ですか?」
「そんな格好では日常生活にも支障をきたすよ!任務中は尚更、いつかポロリするんじゃないかと気が気じゃない……。サクヤさんに至ってはスカートのスリット?も半端ないしアリサはミニスカときた!いいよ、そんなサービス精神!つーか寒いだろ!」
リーダーが荒ぶって口が悪くなっている。でもまあ、ここの女性陣の露出度が高いことには反論できない。ヒノがさっき上げた三人が一番きわどい。ツバキさんは前線を退いているが、アリサとサクヤさんはバリバリの現役。しかもアリサは前衛が多い。物凄く動く。それはそれは動く。
一方でヒノは健全だ。話を聞くに、ずっと気になって仕方が無かったんだろう。まあ、オレも、おいしいとは思ってたけど……時々、見えそうになって勝手に慌てたりとかしてる訳です。
「ヒノも気になってたのか……でもアリサは了承しない、と。オレは男として喜ぶべきなのか……」
「…………何やってんだ、お前」
「お、ソーマじゃん」
軽蔑さえ含んでいるような視線で俺を見下ろすソーマ。エントランスの物陰でうずくまってるんだもんな……。でもこの視線はひどい。虫けらの気分だ。
オレは立ち上がりつつ、いつもしかめっ面のソーマさんに問いかけてみる。
「ソーマはさ、アリサとかサクヤさんとかの服装、どう思ってんの?ソーマも男ならさあ、こう、色々考えたりしてんの?」
「……馬鹿馬鹿しい」
「それともヒノが本命だから気にならなぅぐはッ!」
重すぎる拳が腹に直撃、オレ、虫に戻る。気付いたヒノとアリサが駆け寄って来た時には、ソーマは既にいなかった。
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