03:15
ピロロロロ、ピロロロロ、と電子音が響く。
シャルが目覚めたことを知った研究員からの、怒りの内線だった。
わたしは応答しながら頭を抱える。アドルが喋ってしまったのだろう。しかし、責められることではない。アドルはわたしが麻酔薬を取り換えたことなど知らないのだ。
「アドルの制限に引っかかるかもしれないから、この計画のこと全く伝えてないんだよね……。『起きてるなら連れてこい』って言われてしまった」
「ありゃ。俺何されるの?」
「最初だし……体力測定的な感じで、そんなひどいことはされないと思う」
シャルを研究員に引き渡してしまえば、再び、二人きりになれる保証はない。意識のある幻影旅団員の監視には、戦闘力のあるアドルが適任だからだ。
もう、打ち合わせも相談も出来ない。電話もわたしがかける他なくなった。
「あ、待って、俺立てないんだけど。うさぎ跳びで移動とかやだよ」
「かついでいくのでご心配なく」
「……トルテは強化系?」
「さあ」
わたしは問いを濁しながら、シャルを肩にかつぎあげた。うはあ、と感心したような間の抜けた声が聞こえる。
肉体を鍛え上げるか、強化系かと思わせる行動だが、わたしはどちらでもなかった。途方もないオーラ量を持つからこそなせる業なのだ。
例えば、"円"と同じ、念の基本技の応用に"堅"と"硬"というものがある。"堅"は、全身の防御力を高めるのに対し、"硬"は特定の部位の攻防力を飛躍的に向上させる代わりに他の部位が圧倒的に弱くなる。しかしトルテシアの場合、"堅"が、弱点のない"硬"に匹敵してしまうのだ。
強化系か変化系か等々問われても、ある程度はその全てに当てはまってしまう。
わたしは、そういう性質なのだった。
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