06:11


 フェイタンと分かれ、生身の人間の相手はクロロに代わった。真っ黒だったコートには、所々血が飛んでいる。
 シャルの携帯の置き場所は変わっていなかった。わたしはコードを躊躇いなく引っこ抜き、携帯をクロロに渡す。
 
「携帯の回収も完了だな。あとは、建物の破壊だったか?」
「あ、うん。アドルの方がそこそこ暴れてるみたい。半壊はしてそうだから、そろそろいいかなあ……」
「アドルファスという男は好戦的なのか?」
「ちょっと単純なだけ」

 クロロが短く笑って、シャルのものとは違う携帯を取り出した。
 わたしは大人しくクロロの行動を待つ。
 
「トルテ、アドルファスはこの施設から自分の意思で出ることが出来ないと言っていたが、どうやって脱出するつもりだ?」
「わたしが出たら、追っかけて来てくれると思う」
「トルテを誘拐すれば良いんだな。距離の制限は?」

 さらりと了承されて思わずどもる。ありがたいが、すんなりことが運びすぎて怖いくらいだ。

「えっと、アドルにここの関係者の声が届かない距離かな」
「分かった」

 クロロが携帯を耳に当てながら、わたしのそばでかがむ。そのまま掛け声もなく、クロロはわたしを抱え上げた。
 わたしは突如高くなった目線に、おや、と己の状態を確認する。誘拐されるための体勢なのだろうが、近くで動くときは教えてほしいと伝えていたはずだ。しかし苦言を呈する度胸もない。

「……マチか。シャルは無事だ、フェイが運んでいる。俺はトルテを連れて建物を出るから、アドルファスを誘導するようにノブナガに伝えろ。ああ、そのままここを離れる」
 
 "円"の中にある気配の雰囲気から、アドルを含めて三名とも存命なのは分かっている。施設も順調に破壊されており、怪我が心配だ。
 通話を終えたクロロが、「落ちるからつかまれ」とわたしを注意する。
 わたしは力の加減が出来ない。クロロの首を絞めるのは本意ではないので、慎重にコートを握った。

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