それは〇愛ですか


デフォルト:小舘九乃 こだてここの
審神者号:梧桐(ごとう) 固定

R.

 糸師凛には、神隠しに遭いまくる幼馴染がいる。
 幼馴染は兄の冴より四つ年上で、凛よりは六つ年上だった。幼い凛にとって六つ年上のお姉さんというのは憧れのような、天使まではいかなくとも輝いていて近寄りがたいような存在だった。冴が親しげに話しているのを見て徐々に近づき、優しさに甘えて遊んでもらったことを覚えている。
 その幼馴染が、まあよく失踪するのだ。十分いなくなるのはザラで、丸一日帰ってこない日もあった。失踪していた間のことはろくに覚えていないのか話すことはほぼなく、だからといって様子が変わっているだとか怖い目に遭ったようにも見えない。知らない名前を口にすることもあったので、誰かといたのは確実だと思われたが、それが誰でどこにいたのかが分かったことはない。得体がしれないと、誰かが神隠しと言い始めたらしい。
 幼い凛には分からなかったが、小学校も高学年となるとその異様さが分かる。幼馴染の家族も、親しい糸師家の人間もすっかり慣れてしまったが、普通はそうほいほい所在不明にならないのだ。
 五年前。凛が十一歳を目前にした夏の日も、いつものように幼馴染は行方をくらませた。
 今度は帰ってこなかった。


S.

 糸師冴には、神隠しに遭いまくる幼馴染がいる。
 名前は小舘九乃、冴より四つ年上で、弟の凛も含めて本当の弟のように可愛がってくれていた。家が近いのはもちろん、母親同士の仲が良く家族ぐるみの付き合いがあったため、一緒に旅行に行ったこともある。不思議と外出先で神隠しに遭うことはなく、旅行そのものは楽しめたが、帰宅した直後に一時間消えたことを覚えている。
 幼少期の年上というのは、遠い存在に見えることが多い。二〇歳と二四歳ならともかく、五歳と九歳の差は大きい。友人関係や遊ぶ内容も全く違っていたが、九乃はサッカー馬鹿二人のお守りをよく引き受けていた。
 後から聞いた話だが、九乃が消えると騒ぎかねない同級生たちと遊ぶより、失踪に慣れた冴や凛のほうが付き合いやすかったらしい。一番神隠しに慣れているのは当の本人なので、騒ぎ立てられるのは苦手なようだった。
 冴が一三歳でスペインに渡るとき、見送りには九乃も来てくれた。その頃には九乃に対して「優しいお姉ちゃん」と思うだけではなくなっていた。年上で優しい姉のような存在を慕っていれば、恋をするのも珍しくないだろう。覆せない年の差も、サッカーで世界的に有名になれば少しくらい埋められるような気がしていた。
 神隠しの連絡が入ったのは、渡欧して初めて迎えた夏の終わり。いつものことだろうと驚くこともなく家族からの報告を聞いていたが、三日間消えているらしかった。今までの神隠しは長くとも丸一日だったので、家族も慌てているらしい。
 一週間過ぎても、一ヶ月過ぎても、彼女は帰ってこなかった。

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