おかしいなとは思ってた
「あ、ああああ!やっちまったー!」
フェンリル極東支部第一部隊隊長のヒノは、絶望を乗せた声で叫び、その場に膝をついた。同じ部隊所属でともに出撃している、アリサ、コウタ、サクヤが、何事かとヒノの方を見た。
ヒノは右手に神機を握っているが、いつもと様子が違う。
ヒノは新型神機の適合者なので、近接戦闘用の剣と遠距離戦闘用の銃を両方扱える、可変式の神機を使用する。貫通・切断・粉砕ダメージの違いから、剣形態はショート、ロング、バスターの三種類があり、銃形態はアサルト、スナイパー、ブラストの三種類がある。そこに武器そのものの属性も加わるので、組み合わせは非常に多い。ちなみに盾もバックラー、シールド、タワーの三種類がある。
だが、剣と銃、それぞれ同じ種類のものを使うゴッドイーターが多い。例えば、新型のアリサはロングとアサルトの組み合わせが多いし、コウタはアサルトばかりだし、サクヤはスナイパーばかりを使う。属性によって武器を持ち変えることはあっても、やはり使い慣れた種の武器が扱いやすい。
ヒノは普段、剣はバスター、銃はスナイパー、盾はタワーを使用している。
「これロングじゃん!!間違えた!!」
基本的には、バスターブレードよりもロングブレードの方が扱いやすい。軽さと攻撃力が程よく、新参ゴッドイーターでもそれなりに扱える。ショートブレードの方がさらに軽いが、その分攻撃力が低く手数が多くなる。
バスターブレードは攻撃力(粉砕)が高いものの、武器そのものが大きく重いため、機動性で劣る。一撃を叩き込んでバックステップで離れる、というのが基本のスタイルだ。盾の展開も遅れるが、バスターはタワーと相性が良く、速やかに展開できるよう改良されている。
今のヒノの装備は、ロング、スナイパー、タワー。バスターとは攻撃モーションが明らかに異なるし、バスターブレード使用ではない時のタワーは、展開が非常に遅い。
「火刀!!これロング!!私のクサナギ(バスターブレード)はどこ!!」
やっちまったーと叫ぶヒノのもとへ、コウタが駆け寄ってくる。その表情は険しい。
「そういうの後にしてくれない!?ツクヨミの前でそれ止めて!あれ第一種接触禁忌アラガミだからな!」
「うわあ火装備だこれ……スナイパーだけど鉄乙女砲……」
「ツクヨミって一応雷が弱点じゃなかったっけ!?」
「だよねー。でもあんまり効果ないからいつも通り神属性でごり押しするつもりだった……あ、バレットはいつも通り全部持ってるわ……雷属性のバレッドつめとくか……」
めそめそと凹みながら支度をするが、思い切り戦闘中である。コウタも話しながら攻撃しているし、前衛ではアリサが一人で踏ん張っている。スナイパーをパンパン撃っているサクヤがインカムから叫んだ。
「ヒノ!前衛戻ってあげて!アリサが可哀想よ!」
「うっす」
「というか、それほんとに間違えたのね……わざとかと思ったわ……」
「サクヤさん、突っ込んでよぉ……」
「まさかと思うじゃない」
「俺もわざとだと思った」
ヒノの隣でコウタがうんうん頷く。凹んでいるヒノのために前衛でツクヨミを押さえているアリサも、剣を振るいながらうなずいていた。
「私もです。ところでそれは昨日の対コンゴウ装備かと思うのですが、デトックス錠(解毒剤)はお持ちですか?」
「ないね!!」
「あらあ、回復弾の撃ち甲斐があるわね」
「お世話になりますサクヤさん……」
ヒノは体力増強剤をかみ砕きながら立ち上がる。いつもより注意して戦えば問題はない。アリサが言うように、ヒノはたまにロングブレードも使用する。使えなくはない。やりにくいだけで。
「仕方ないもんなあ、行くかあ……」
「頼むぜリーダー」
「あ、やば盾展開遅、」
「ヒノさーん!!」
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