10.わたしだったら絶対断る

わたしが安室さんの車の助手席に乗って、暫くしてから乗り込んだ人たちを見て、秒で後悔した。ガタガタ震えててもいいからさっさと一人で帰っておけばよかったんだ。でもまさかこの人たちと会うと思わなくて。あーあ。
安室さんは後部座席に向かってわたしを紹介した。

「先程お話しした苗字さんです」
「苗字です、すみませんお邪魔してしまって」
「もともと今日は送っていくって約束してたので、お財布も何もかも置いてきたそうで…」
「はい、他力本願でした、何もかも置いて来た社会人失格のわたしが悪いです」

へこへこと頭を下げて平気で嘘をペラペラ言う安室さんの話に合わせる。ガバガバな嘘だな。出勤するときどうやって来たことになるのよ。シフトの時間もずれてたった言うのにね。とにかく彼が言うことすべに頷いておけば良し。

「もしかして最近ポアロに新しく入った方ですか?たまに外から見てたんです!挨拶が遅くなってすみません、上の階に住んでます、毛利蘭です。この子は居候のコナンくん、そしてこちらが父で」
「名探偵の、毛利小五郎です」
「そしてそちらの女性が毛利先生に依頼された樫塚圭さん」
「本当、わたしのせいで定員オーバーになっちゃってすみません。よろしくお願いします」

もう一度頭を下げて、姿勢を元に戻す。完全に事件の香りじゃん。多分この樫塚圭さんという人が何かしらのキーパーソンなんだろうな。漫画にこの話があったかな。それとも漫画にはない日常的な(?)事件の話かなあ。映画を友達に誘われて数年に一度は見に行ったり、時々SNSでバズってるツイートを見かけたり、それくらいしか知らない。安室さんの正体は何で知ったんだっけ?とにかく、現状はコナンくんは工藤新一で、安室さんは二重スパイということくらいしかわからない。だからこの後なにが起こるのかは当然わからない。ここに乗っている全員わからない。普通のことだ。
そう時間もかからないうちに、樫塚圭の自宅に着いたようだ。部屋の入り口まで送ると言う。わたしだったら嫌だな、一人暮らしの家の部屋番号までバレるの。いや、でもこの場合相手は探偵だからいいのかな?毛利さんと安室さんは怪しい人でも怖い人でもないし。とにかく車に一人残されるのは嫌だったので、わたしも車を降りて着いていく。そうか、この場合一番知られて嫌なのは私だろうな。探偵の関係者でもない初対面どころかただの相席した知らない人だもんね。樫塚さんかわいそ〜ごめんなさい何もしないですから今回ばかりは許して〜

結局部屋の前でコナンくんがお手洗いに行きたいと言い出して、毛利さんも、そして安室さんまでもがお手洗いをお借りするということになった。信じられない。コナンくんと毛利さんはさておき、あのスマートの代名詞こと安室さんがこんなことするだろうか?めちゃくちゃ下痢じゃない限りサクッと切り上げて近くのコンビニで済ませない?本気?