11.本日二度目の遭遇

一人外で待つのも変だし、わたしも樫塚さんのお部屋に上がった。正直部屋はめちゃくちゃ荒れてた。飲み会の後だそうだ。以前に苗字名前として生きてた世界ではたしかに学生時代の友達と宅飲みした後はめちゃくちゃ散らかってた。空き缶とお酒のボトル、おつまみが散乱する惨状を二日酔いの頭でボーッと眺める日もあった。気持ちはわかる。赤の他人にこんなところ見られるのは私だったら絶対やだな…樫塚さんも今日のことは予想外だったんだろうなと想像する。
彼女がお茶の支度をしている間にテーブルの片付けを手伝うことになった。正直やりたくないけどここは大人しくやる。屈んで散らばったゴミを集める。さっき車で大勢と話したのが良かったのか、銃声によってガクガク震えてた脚も今ではピッシリ真っ直ぐだ。震えはない。事件関係に首突っ込むことになってしまったと後悔していたけど、震えが治まったのは良かった。もう体の芯から冷えるような感覚もない。安室さん本当に私を車に乗せてくれてありがとうございます、と心の中で念じていた。
わたしの後ろに立っていた蘭さんが、携帯で誰かと通話し始めた。お友達だろうか。あまり聞き耳を立てるのも良くない、余計なことは見ざる言わざる聞かざる。

「もしかしたらこの部屋、盗聴されてるかもしれませんよ」

背後からハッキリ聞こえた安室さんの物騒な発言に、また背筋がひんやりとした。盗聴?マジで?蘭さんが通話していた音声が途切れ途切れだったことからそう判断したようだけど、普通にゾッとする。他人の部屋だけど、こんな何の変哲もない普通の部屋に盗聴器があるとしたら、今後住むすべての部屋でまず盗聴器を疑わなければならない。恐ろしや米花町。そんな物騒なことがあってたまるか。
盗聴器が実際にあるかないかはさておき、全部屋を調べたいと言った安室さんにドン引きした。この人容赦ないな。何の用意もしてない突撃訪問ですべての部屋を解放するとか普通に無理だ。普段から整理整頓していない方が悪いのは百も承知だが、世の中そんなできた人間ばかりではない。ご存知の通り、わたしはできていない側の人間だ。リビングの飲み会の惨状から勝手に梶塚さんのこともこちら側の人間だと思っているので、少し焦った様子で散らかったものを片付けると消えていった彼女に心の中でエールを送った。多分金輪際会わないだろうからって割り切らないところが偉い。私なら割り切って、散らかった部屋そのまま入れちゃうかもしれない。厚顔無恥?何とでも言ってくれ。

わたしは盗聴器のことを出来るだけ考えないよう、無心になってひたすらテーブルの上を片付けた。盗聴器なんてそうホイホイあってたまるかと思う反面、安室さんが「ある」と言ったのなら有るのだろうと思った。
随分経っても樫塚さんは戻らない。必死で泣きながら掃除してるのだろうか。そうだったら辛すぎる。もう待てないと思ったのか、安室さんたちは盗聴器を探し始める。蘭さんが携帯で音楽を流して、安室さんが専用の機械で確認していく。その機械いつも持ってるの?すごいな。

部屋を移動するときも一行にひっついて行動している。結局今までに3つも盗聴器が発見されている。物騒すぎる。何も知らずに生活してて、生活音とか会話とかすべて盗聴されてるとなると、恐怖に震える。樫塚さんも重ね重ねショックだろう。かわいそうだ。

ふとコナンくんの姿が見えない事に気付いた。お手洗いだろうか?それとも勝手に他の部屋を見ているのかもしれない。薄々察してはいたけど、この樫塚さんの自宅で事件は起きるだろう。この場合死ぬ可能性があるのは、樫塚さんとわたしだ。今のところ単独行動をとっている樫塚さんのが確率は高いけど、主要メンバーどころか本来存在しないはずのわたしもいつだって死ぬ確率は高いような気がする。怖すぎる。
毛利さんと安室さんたちがとある部屋に入って、盗聴器の有無を調べようとしている。コナンくんどこかな、なんて廊下でキョロキョロしてたので、すこし遅れて部屋に入る。単独行動は凶。危ない危ない。

「なんなのこの匂い!」
「くっさ!!!!!!」

部屋に入ったら異臭がした。マジ?全員顔を顰めている。思わず声に出してしまうほどの匂いだ。結構大声で言ってしまったので、樫塚さんに聞こえてたらどうしようとドキドキする。でもこの匂いはおかしい。さすがに「わたしだったら…」とか言えない。自堕落の極みのわたしだって、こんな臭い部屋にはならない。食べ物とかめちゃくちゃ腐らせたのかな。ツンとする。廊下に顔を向けて息をした。安室さんたちよく平気だな。
すこし離れた場所から彼らを見ている。どうやら盗聴器がベッドの下にあるそうだ。毛利さんがベッドの下からスーツケースを引き摺り出す。スーツケースに盗聴器?そんなの、旅行とかで使おうと思ったら秒で見つかるじゃん。どうして?疑問に思って少し近づいてみた。安室さんがちらりとわたしを見る。なに?

「ひっ」

喉から引きつった音が出る。部屋に蘭さんの悲鳴が響く。毛利さんが開けたスーツケースには、盗聴器どころか、もっともっと恐ろしいものが詰まっていた。死体である。