02.不幸と幸福の競争

今回の仕事で組まされた組織の人間と現場で別れた。ターゲットが大した人間ではなかったので、組まされたのが幹部じゃなかったことが幸いだ。組織の人間が完全に現場を離れたことを確認して、風見に連絡する。

「現場に直行してくれ。一般人を巻き込んだ。今から回収するが、マスコミには死んだと流せ」
「了解しました。身元は?」
「確認してまた連絡する。新しい身分を用意してくれ」

あんな場所に人が来るなんて滅多にないことだ。現場に戻り、倒れている人間を確認する。ターゲットの男は絶命している。僕が追い込み、組織の人間が脳天をぶち抜いた。もう一人、壁にもたれかかって意識を失っている女を確認する。気絶しているが、生きている。カモフラージュで、右腕を撃った。掠めた程度だが、出血はある。とりあえず応急処置で止血する。その後、近くに止めてあった車まで運んだ。シートが血で汚れる。最悪だな。

女の鞄を漁る。財布に身分証が入っていた。写真を撮って風見に送信した。不幸だが、この女は今晩死ぬ。不幸だ。鞄にはとある企業のパンフレットが入っている。身分証によると、住所は東京都外だ。服装からして就職活動のために来たのだろう。財布に入っていた新幹線の切符から、今夜帰る予定だったのがわかる。不幸だ。もう帰ることはできない。
怪我の具合を見る。自分のコントロールが良かった。本当に掠めた程度だ。これなら病院は不要か。ひとまず、いくつかあるセーフハウスのうちの一つに連れて行く。意識が戻ったら、色々と説明しなければならない。説明されたとしても、はいそうですかと受け入れられる話ではないが、受け入れてもらうしかない。

女をベッドに寝かせ、怪我の手当てをする。終わった頃に風見から報告が入る。たった今、この女は死んだ。随分スムーズだったな。送られてきた資料を開く。親と絶縁、一人暮らし、二週間前に退職。現在無職。なるほど、あまりにも都合が良い。
女が持っていた携帯の電源をつける。ロックがかかっていない。無防備だ。ざっとメッセージや通話の履歴を見たところ、普段から仲良くしている人間はそう多くないようだ。SNSを見る。誰かの投稿を見る専用で、自分のアカウントでの発信はほぼ無い。なんて都合が良いんだ。不幸だ。

意識を失っていた女が動いた。どうやら目覚めたようだ。ぼーっと天井を見上げている。

「目が覚めましたか」

声をかけると、ビクッと体を震わせた。驚いているだろう。怖いだろう。起き上がり、ベッドサイドに座る自分と、目線が同じ高さになる。

「詳しい理由も事情も説明できないが、今から言うことをよく聞いてください。あなたは死にました」