03.誰も知らないわたしの死後

わたしは死んだらしい。実際は生きているので、物理的な話では無い。社会的に?死んだことになったそうだ。
目覚めたとき、わたしが声をかけてしまった男性が居た。大混乱の中、彼が説明する。

「君は見てはいけないものを見た。生きて家に帰すことができない。なので死んでもらいました。朝のニュースであなたが死んだと全国に流れるでしょう。そしてあなたは今から別の人間です。身分はこちらで用意しました。名前は苗字名前。元の名前は捨ててください。一生使うことがありません。あなたは苗字名前さんとして生きていきます」

驚いた。なにもかもに驚いた。まず、目の前にいる金髪の男が、わたしの知っている人間だということに気付いて驚いた。安室透だ。今は降谷零?わたしを撃った時はバーボン。いわゆる登場人物だ。わたしが普通に生活していたら、絶対に接点がなかった人。こんな、こんな偶然ある?なんてことだ。わたしは不幸だ。つまり組織の人間が仕事として人を消したところを目撃してしまったので生きて返せませんということか。実際に殺すわけにもいかないから、目撃した一般人、ことわたしを死んだことにして、消した。そして、新たに苗字名前という人間として生きていけという話。いや、まじで驚いた。偶然?偶然にしてはできすぎている。だってその名前は、わたしの以前の人生の名前と同じなのだから。
現実味がなさすぎて、ぽけーっと口を開けたまま聞いていたわたしに、目の前の男は眉を寄せて問う。

「何か質問や言いたいことは?苗字名前さん」

そんなの、たくさんありすぎる。言いたいことだらけで、逆に何を言えば良いかわからない。気持ちがぐちゃぐちゃだ。迷った末に一言だけ伝えた。


「…良い名前ですね」