21.くちうらあわせ

思った通り、コナンくんはすぐに謎解きを終えてしまった。私たちが8号車のお客さんと入れ替わったことを簡単に言い当ててしまった。
世良さんが子供たちに挨拶するのを見て、初対面だったことを知る。女子高生探偵と名乗っていたけど、この世は探偵が多すぎるのではないだろうか。いたるところに探偵が居るなあ。

「誰だ!?」

何かに気付いたらしい世良さんが扉の方へ向かう。私は全く感じなかったけど、扉越しいに誰かが覗いている気配があったそうだ。怖すぎない?気のせいだったという結論になったけど、気のせいじゃないと思う。これは、フラグが立っている。人の気配は感じられないが、事件の気配を感じた。恐ろしい。


ひとまず運営の一員、つまり仕掛人側である車掌さんに、推理クイズが溶けたことを報告しに行くことになった。しかし車掌さん曰く、クイズはまだ出題されていないと言う。ぞわぞわしてきた。これは本格的に事件の気配だ。それも、やはりというか、現在進行形で完璧に巻き込まれているような。
私たちと協力関係にあった被害者役のおじさんに話を聞きに行こくことになり、8号車へ向かう。わたしの勘だけど、先ほどまで彼らが解いていた謎が「本物の」謎だったとすると、あの被害者役の男性も「本物の」被害を被っているのではないだろうか。ほぼ言葉も交わしていないけど、ついさっき顔を合わせた人が殺されていたとなるとどうにも目覚めが悪い。どうか命だけはありますようにと願う。

8号車の扉を鈴木さんがノックする。反応はない。開けようとしても、チェーンロックが掛かっている。寝てないで外してよ!と鈴木さんが言った時点で察した。きっと中で男性は死んでいる。身体からサーっと血の気が引く。これはダメだ。コナンくんが私の顔色を見て不思議そうな顔をする。この点ではコナンくんより私のほうが鋭いらしい。

結局、扉を蹴破り、男性が死んでいることをその場にいた全員が確認した。拳銃でこめかみを一発だ。なんだかあの日を思い出す。
以前、スーツケースに詰められた死体を見たときよりは落ち着いている。皮肉にも、慣れがあった。事件慣れというか、死体慣れだ。最悪の慣れだ。
室外で一人、ため息を吐く。事前に何かしら事件が起こることを予想していたし、ある程度は覚悟していた。震えはない。不本意だが、成長してしまった。不安はあるけど、ここに安室さんは居ない。しっかりしろ、自分。

コナンくんの指示で、世良さんとコナンくん以外は個室に戻ることになった。廊下を歩いていると、人相の悪い男とすれ違った。灰原さんが怯えたように蘭さんの服をつかむ。確かに顔も怖いし傷もある。そりゃ怯えるわ。
でも、なんだかあの顔に見覚えがあるような?もしかして過去に登場したキャラクターだった?いや、待って、映画に出てた気がする。必死で記憶を探る。言うなれば生まれる前の記憶だ。おぼろげな記憶の中に彼の顔がある。

あ、

思い出した。めちゃくちゃ重要な人だ。彼は確か、赤井さん。FBI捜査官だっけ?どうしてこんなところに?謎だ。またもや不穏な気配だ。これ以上事件に関係しそうな事柄に気付きたくないという思いでいっぱいだ。足元を見ながら歩く。

「あれ?あなたも乗ってたんですね」

前を歩く蘭さんの声で、顔を上げる。

「安室さん」

蘭さんの声と、私の声が被った。ここ数日ポアロ以外で顔を合わせていなかったその人は、予想外のタイミングでのご登場だ。絶対この車内にいないと思ってた。居たなら最初から合流しててよ、なんて思ったけど、口に出さないでおく。
安室さんは私の顔を見て少し驚いたような表情をしたが、すぐに普段通りの彼に戻った。パスリングをネットで競り落としたらしい。いくらかかったんだろう。そんなに乗りたかったのだろうか、ミステリートレイン。
誰?と説明を求める鈴木さんに、蘭さんが紹介する。

「前に話した、お父さんの弟子になりたいって探偵さん」
「あ〜ポアロの!」

鈴木さんが私を見たような気がするけど、気付かないふりをした。蘭さんが彼に殺人事件があったことを話すと、考えるそぶりして、わたしに近づいた。

「大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
「大丈夫です」
「先日もそういって結局倒れたじゃないですか。苗字さんの大丈夫ほど、大丈夫じゃないものはありませんね。このまま事件の様子を見に行くので、良ければ僕の個室使ってください。駅に着くまで横になっていたほうがいい」

この前っていつよ。倒れたことなんてないと言い返そうかと思ったけど、口裏を合わせろということなんだと気づいて、大人しくこくんと頷く。部屋はあちらですから、と彼が私の背を押す。

「迎えに行くまで、絶対に部屋から出ないように」

安室さんは私の耳元でそう呟いた。そして部屋場所を伝えられる。若干の不満や疑問は残るものの、わたしは安室さんが言うとおりにするしかない。

「みんなごめんね、ちょっと休んでくる。気を付けてね」

蘭さんや子どもたちに小さく手を振って歩き出した。単独行動だ。単独行動は凶だと思うんだけどなあ。