*小説 info アネモネ


とある休日の話



今日は織くんのおうちに遊びにきている。
家族がいない日だからって織くんが招待してくれて、ご飯も作ってくれるって張り切ってたんだけど。
「遅いなぁ」
隣の部屋のソファに座りながられーは独り言を洩らした。
もう1時間半ぐらい経ってるからそろそろ仕上げでもしてるのかな。
作りかけの時に見にいくのはナンセンスだよねって思って大人しくしてるんだけど、やっぱり折角遊びにきたのだから1人っきりは寂しい。
「ねぇ、織くんまだぁ?れーお腹すいてきちゃったよぉ?」
ドアに向かって話しかける。
食べずにきたからお腹がそろそろ鳴りそうだった。
「ま、まだだから…」
慌てたような織くんの声が聞こえてきてれーは眉尻を下げる。
「ね〜一人で寂しいよぉ。入ってもいい?」
「だ、だめ…っ、うわっ」
ガシャンと何かが落ちる音がした。
調理器具が落ちる音だろうか。
大丈夫かなぁ…。
やっぱり、入って確かめよ。
「織くん、開けるよ?」
織くんの返事を聞かずにドアを開く。
「……」
するとまず目に飛び込んできたのはぐちゃぐちゃになったキッチンだった。
それから、床に落ちたボウル、フライパンで黒く焦げた肉、今にも泣き出しそうな織くんの顔。
「れ、零衣…これは…」
その瞬間全てを察した。
なんだ……織くん料理できなかったんだ。
だからこんなに散らかっちゃったんだね。
出来ないけどれーの為に頑張ろうとしてくれたんだ。
そう思うと、自然と口元が緩んだ。
可愛いところもあるんだ。
初めて恋人の明らかな欠点を見つけてしまって、凄く愛しさが込み上げてきた。
なんでも完璧にこなそうとする織くんなのに、れーよりも出来ないこともあるんだ。
なんとなく心がじんわりと温かくなってきて、側に寄って織くんの頭を撫でてあげた。
黄色い前髪が少し焦げたみたいにチリヂリになっているのが気になる。
「前髪どうしたの?」
笑いながらうけた感じでそう言うと、織くんは泣きそうなぐらい顔を赤くしながらバツの悪い表情をした。
「焦がした…」
「なんで…あははっ」
聞かなくても面白すぎて1人で笑ってしまっている。
「どーやったら前髪焦がすのさ」
「…フランベ…しようとして…」
「それで焦がしたの?ばりうけるんだけど。あはは」
慰める前に面白さが勝ってしまって大爆笑してしまったら遂に織くんが泣き出してしまった。
火が強すぎて前髪まで焦がしたのかな?
正直想像したら面白すぎる。
「ぅ…」
「ふふ、ごめんって」
笑いながら織くんを両腕で抱きしめてあげた。
そのままよしよしと頭を撫でる。
「あー見たかったなぁ…!焦がすとこ」
ずっと笑いがこみ上げてくるまま織くんに引っ付く。
多分今前髪と触れ合ったら笑いすぎて吸入器を取り出してしまうと思う。
「うぅ…」
大粒の涙を零し始めた織くんの頭を優しく撫でた。
「料理出来なかったんだね、織くん」
優しく、口元にキスしてあげた。
涙いっぱいの目でれーを見つめてくるところは凄く可愛い。
「でもれーの為に頑張ってくれたんだ。可愛い」
ぎゅっと抱きしめてあげると、ようやく織くんも甘えるみたいに肩に顔を埋めながら背中に腕を回してくれた。
ぽんぽんと背中をよしよししてあげると、少しずつ泣き止んできたようだった。
織くんが恥ずかしくなってあたふたする前に話しかけた。
「にんにくと白いご飯ある?玉ねぎも」
「え、えっと……うん」
「よし」
にこっと笑うともう一回ちゅっと触れるだけのキスをして織くんから離れた。
「その3つ、出しといて」
織くんにお願いして、れーはまな板を軽く洗った。
焦げてしまった分厚いブロック肉を取り出してまな板に置く。
どれだけ分厚いステーキを作ろうとしてたんだろう…と思いながら焦げてる部分を全部切り落とすと、幸い中は無事で再利用できそうな感じだった。
そのまま小さいブロックにして、織くんが持ってきてくれた玉ねぎとにんにくも細かくみじん切りにした。
「ちょっと待っててね」
フライパンにオリーブオイルを入れ、にんにくを投入して中火で香りを出す。
玉ねぎを入れてなぜか側にあった白ワインを回し入れて塩コショウで味付けして中火で炒めた。
織くんが横に寄ってきてじっとその様子を見つめている。
「お腹すいたね」
「うん…」
弱々しく頷く様子にくすっと笑う。
ああ、織くんは調子に乗ってフランベが必要な料理なんかに挑戦しちゃったんだろうか。
そんな強がりで子供みたいなところが愛しくてたまらなかった。
そんなことを考えながら、バターを入れてご飯と織くんがさっき焼いたお肉を投入した。
「こうやってじゅーってしてお焦げ作るのが美味しいんだよ」
昔鉄板ステーキ屋で見よう見まねで覚えたまま、ヘラを使ってご飯をフライパンに押し付けてバターで少し焦がした。
食欲をそそるにんにくの香りが広がってくる。
ちょうどお腹もぐぅと小さく鳴った。
様子を見ながらステーキソースを少し入れて、炒めたら火を止める。
「完成!」
お皿をもらって半分ずつ綺麗に盛り付けた。
「凄い…美味しそう」
「えへへ、ガーリックライスだよ。早く食べよ」
隣の部屋に持っていって2人並んでソファに腰掛けた。
「いただきまーす」
「いただきます」
一口食べると香ばしい味が広がってどんどん箸が進んだ。
美味しく出来て良かった。
「美味しい…。零衣、凄いおいしいよ、これ」
「ほんとぉ?良かった〜」
にこにこ笑って織くんの肩に引っ付いた。
「…ごめんな」
「なんで謝るの?美味しいご飯食べれたからいーじゃん」
「でも…俺の料理が下手なせいで…」
「れーだってお肉焦がしたことあるよ?」
もぐもぐとご飯を食べながら答える。
「零衣にばっかりしてもらって、1つももてなしてあげられなくて…」
「はい、あーん」
遮るように織くんの口元にご飯を差し出してあげると、数秒あけてぱくりと食べてくれた。
「おいし?」
「…うん」
変なの。あおみたいな落ち込み方するんだね織くん。
れーは気にしないのに。
「れーは織くんといられるだけでご褒美だし、織くんの知らないこと一個知れて、すっごく嬉しいよ。だから気にしちゃ嫌!」
「うん…ありがと」
織くんはこくんと頷いて少しだけ表情を和らげた。
「零衣、料理上手なんだな」
またご飯を口に運びながら織くんがそう言った。
「んー?弟達のご飯作るぐらいだよ。学校行けなくて暇な時とかに作ったり」
「でも、めちゃくちゃ美味しい」
「やったぁ。織くんに喜んでもらえるなられー幸せ」
お皿を置いて、織くんの頬に口付けした。
白い肌が少し赤くなる。
そのまま横からハグをした。
「れーを1時間以上待たせたお詫びに今日はえっちしてくれるんだよね?」
「えっ…いや、にんにく食べたし」
逃げるように視線を逸らす織くんとがっつり目を合わす。
「れーもたーべた」
「う…」
「あとで消臭タブレット口移ししてあげる」
「あ、う…うん」
顔を真っ赤にする織君に少し呆れたように笑いながら顔を近づける。
「あのねぇ、彼氏のおうちに行くっていうことはいつえっちなことが起きてもおかしくないんだよ?」
「そ、そうなのか…?」
未だに初々しい事を言う織くんに苦笑しながらぎゅっと抱き締める。
「そーだよ!もー…織くんにはれーが色々教えてあげるから」
「んっ…」
唇を塞いで今度は舌を少し絡ませる。
織くんの唇いつも潤ってるしすっごく柔らかいなぁ。
そう思いながら少しだけちゅ、と吸った。
織くんは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
後ろから首筋に手をかけてぐっと近付けると、青い目をじっと覗き込んだ。
「それに今日の織くんすっごく可愛いから……いい?」
「…っ」
すると、ぎゅっと目を瞑りながら恐る恐る、こくっと織くんは頷いてくれた。
ほっとしてれーも少し口元を緩める。
「これからもっと可愛くしてあげるからね」
そう言ってもう一度、織くんに優しく口付けをしてあげた。



※後の話で織君の家に行ったことがない描写が出てきますが、時系列が逆かもしれないので、これは短話にしておいてください。