*小説 info アネモネ


ハグと温もり

この話の前に漫画「感情をあげた双子」を読むとちょうどいい
(書籍順)

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今まで1人として見てもらったことってそんなにあったっけ。
もっちも見分けようとしてくるけど、双子の零衣じゃないように俺を見る人なんてそんなにいたっけ。
おかしいな…。
今まであおに尽くしてあおの為に生きるのが心の底から幸せだって思ってたのに。
「困ったなぁ…だって、零衣は………双子の1人で、あおの、もう片方で…」
困ったように呟くと、青い瞳と目が合った。
海みたいで夜空みたいな綺麗な青色の瞳に、月みたいな綺麗な黄色の髪。
「零衣は零衣だろ?」
その綺麗な手に頭を撫でられる。
撫でられたところから幸せが広がっていくような気がした。
「敵わないよ、織くんには」
小さく微笑んで、その胸に寄りかかった。
織くんは少し困ったように不思議そうに俺を見ていた。
だから大好きだよ。
心の中でそう言って、数秒後に言葉で伝えた。
考えるのは苦手だ。思ったまま、そのまま言えばいい。
「織くん。織くんといると沢山知らない気持ちになっちゃうね。不思議だよ。零衣1人で生きてるみたい。1人で生きていいみたい。零衣だけ見てくれるから…あれ…?」
なんでか涙が滲んだ。
視界が揺れる。織くんの目が本当に海になったみたいに。
「あ…」
気付いた時には織くんの腕の中にすっぽりと抱き締められていた。
「零衣なんで泣いちゃったんだろ…織くん、あったかい…」
「零衣はちょっと冷たい…」
ぎゅうっと強く抱き締められた。
「れーね、冷え性って言われるよ」
「うん、あのさ、零衣」
少し見上げると目が合った。
真剣な表情をしているように見えた。
「俺がいるだろ」
「え…?」
突然のことにきょとんと織くんの瞳を見つめ返した。
「だから……俺が見てるから」
俺の目を見たまま、そのまま背中に回した腕の力がぎゅっと強められた。
こんな零衣でも側にいてくれるんだ…ってなんだか少しだけ心が温かくなった気がした。
「こんなれーでも?」
「零衣だからだよ」
そう言って織くんは頭を撫でてくれた。
すっごく嬉しくなって思わず「えへへ」と笑って織くんを抱き締め返した。
「織くんぎゅー!」
「はい、ぎゅう」
「わーい」
織くんが抱き締め返してくれたから零衣はとっても幸せな気持ちになった。

零衣の体冷たくて良かった。
織くんがあったかいのがいっぱい分かるから。
織くんが大きくて良かった。
零衣がすっぽり全部収まるから。
織くんが織くんでよかった。
「だって織くんの全部が好きだから!」
ニコッと笑って織くんに、ちゅっと口付けをした。
抱き締められた体は、もう冷たくなくなっていた。