*小説 info アネモネ


あおれーとベッド



※まだあの出来事が起きるより前の話

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れーさんなら、分かるよ。いつか素敵な人を見つけてどこかに行ってしまうのかもしれないなんていつも思ってたし。だけど、心の底ではれーさんは俺を愛してくれると思っていた。思っていたんだけれど。
なんで教祖?いや、教祖が別に素敵じゃないと言ってる訳ではない。学力面じゃ敵わないし容姿だって整ってる。
どうして?どうして、守りたがる?俺以外の人を。
お願いだかられーさんのそこを刺激しないでくれ。
れーさんの特別は、俺だけで良かったのに。

ベッドの上で大好きなその人を、背中から抱きしめた。
全部、全部俺の物だったのに。
少しの沈黙とともに腕に手のひらが重ねられた。
ねぇ、いつものれーさんだったら、振り返ってどうしたの?って優しい声で全身で抱き締めてくれるよね?
動かないその反応に血の気がさっと引いていく。
れーさんの優しさが他の人に向いてしまったことがどうしようもなく受け入れ難い事実としてそこにあった。
その甘美さを俺以外が知らなくていいのに。
しばらくすると振り返って抱きしめてそのまま倒れ込むように押し倒された。
目許から涙が零れ落ちた。
れーさんの顔は見えない。
そうやって優しいところが大嫌いだよ。
そして、大好きだよ…。
れーさんは優しいから…お願い、行っちゃ嫌だよ。
1人にしないでよ。
「ごめんね…」
それは、聞きたくない言葉だった。
どうしようもなく思い知らされる。
俺だけだったれーさんはもう、帰ってこないのだと。