*小説 info アネモネ


隣り合えた金平糖


隣り合えた金平糖


恋愛で困った事なんて無かった筈なのに。

その人は隣のクラスの秀才だった。
別に自分にとって賢いか賢くないかで人を測ったことなんてないし、そんなことを気にしたことも無かった。
なんか変な人。
それが第一印象だった。
学年代表スピーチとかしてるらしいけどあんまり真面目に聞いたことないし、あお曰く頭が良くて難しい言葉を喋るから、なんか堅いイメージだったし、あだ名が教祖なんていうから変わった人なのかなぁって思ってたけど。
あおは人のことを表面的にしか見ないから興味がなければ内面を見たりせずそれ以上の感情を持たないことを忘れていた。
別に隣のクラスでも関係ない。むしろ自分のクラスは全員友達になったからあおのクラスの人とも関わってみようかなぁと思っただけだった。
自分の性格だけど、とりあえず関わった人とは全員仲良くする。
よっぽどのことがない限りみんな好きだし、素直な性格だからかみんな俺を好きでいてくれた。
だからその人にも同じように仲良くなって同じように接していたんだけど。

「零衣、駅前のケーキ屋が10%オフなんだが」
「えー、れ〜は6時の限定パンケーキがいいよぉ」
汐井織くん。
教祖と呼ばれた隣のクラスの男の子。
頭が良くいつも学年首席で人を導きたいその姿からいつのまにか付いたあだ名が"教祖"らしい。
自分でもまさか仲良くなるとは思っていなかった。
まぁ先生にもちょこっと驚かれたし、あおにも、パリピ同士波長が合うのかなぁなんて呑気なことを言われたけど。
織くんってそんなに難しいかなぁ?
「それはいいな。今行ったら時間もぴったりだし今日はパンケーキにするか」
「ほんとぉ⁉」
「生き甲斐だからな」
俺、零衣は満面の笑みを浮かべて織くんに引っ付いた。
だって教祖って可愛くない?
全然普通だよ?
そんなことを言うたびに、取っ付き難いタイプとかそんな可愛げがあるタイプじゃないしって本人に言われるんだけど、全く思い当たらなくて疑問符を浮かべるばかりだった。
れーに対して素直だったらどうでもよくない?といつも思っている。
俺は人とすぐに仲良くなるらしい。
自分では気難しいと思ってる人と仲良くなるのが上手だし、その自信が更にコミュ力をあげて人に対して怖いとか思うことがあまりなかった。
普段あおみたいな複雑にふわふわしてる人と付き合っているからかもしれない。
ちなみにあおは瓜二つの双子の弟。
よく天真爛漫なれーが弟と間違えられるけど、どっちでもいいし、一々訂正するのも面倒臭いからあまり訂正することもない。
あおがあまり人と仲良くならないから、れーが代わりに全員と仲良くなるのがいつもの流れだった。
そんなことよりパンケーキだ。
「そうと決まったられっつごー!」
俺は教祖を引き連れて放課後の教室を後にした。

「なかなかの味だな」
「やっぱふわふわだねぇ…!」
溶けそうなぐらいにふわふわしている限定の甘いパンケーキを頬張りながらきゃっきゃとはしゃいだ。
よくこの2人が一緒にいるのが意外って言われるけどなんでだろ?こんなに仲良しなのになぁ。
「織くんまたテスト1番だったんだよね?さすがきょーそ!」
「ふん、当然だろう。俺がこの地位を保つ為に日々どれだけ努力しているか」
「いつラインしても勉強中だもんね〜」
ドヤ顔する織くんの目の前でお花を散らしながらパンケーキを頬張った。
「ちなみに零衣は大丈夫だったのか?」
「んーとねぇ、…30点?」
顎に手を当てて頭にはてなマークを沢山浮かべながら答えると「赤点じゃないか。…大丈夫か?」と真顔でこちらを見られる。
「そ、そんなマジのトーンにならないでよ…」
しょんぼりしていると不意に頭に織くんの手が伸びてきた。
「困ったら聞いてくれたら教えるからな」
「ほんとぉ?やったー」
「当然だ。学年1位の頭は人に教えることで更に輝くからな」
「さすきょー!」
流石教祖を略しすぎて訳が分からなくなったところで、一緒に頼んでいたコーヒーに口をつけた。

織くんと仲良くなったきっかけはラインだったかツイッターだったか。
とにかくマメだったのだ。
零衣の印象では。
マメというかお喋りが好きというか、寂しがり屋というか。
れーは誰とでもラインを交換するから毎日凄い量のラインがくるけど、わりとマメに返事しているし、ツイッターなんかも無視されようが割とこまめに声をかける方だった。
でも元々SNSにあんまり興味がなくて、意外と言われがちだけど…とにかく発信することがないのだ。
日記をやっても8ヶ月ぐらい間が空く、ツイッターをやっても書くことがない。
結局なにが書けるのか考えた結果あおのことを永遠に発信するアカウントになってしまっている。
対してあおは現実よりネットに生きているからずっとWEB上にいる気がするけれど…。
でも誰かと文字で会話をしていると、普通は会話には終わりや放置があるのだ。
織くんにはそれがなかった。なんていうかれーから見たらマメ。
だからなのかな?
気が付けば織くんとずーっと喋るようになっていた。
勉強で忙しいはずなのにいつそんな暇があるのかなぁとか思うけど、暇は作るものだ!とか言われるし、喋ってないと死んじゃうみたい。
合間合間にお返事をくれるかられーも嬉しくなってお返事を返していた。

「美味しかったね〜」
にこにこしながら一緒にインスタにパンケーキの写真をあげて、あおに自撮りを送りつけた。
ちなみにあおからはスタンプが一個だけ返ってきた。
織くんとの別れ道が近付いてきて、バイバイするのが寂しくなってくる。
「織くんもう帰っちゃうの?れーバイバイするの寂しいなぁ…」
ふた回りぐらい背の高い織くんを上目遣いで見つめた。
これしてる時のれー結構可愛いと思う。
「…もうちょっと喋る?」
「うん!」
嬉しくなりながら自販機で一緒に飲み物を買って公園のベンチに腰掛けた。
春と初夏の間の季節はまだ快適な温度で過ごしやすい。
ピロンと可愛い通知音と共に震えた携帯を見るとあおから晩御飯どうするの?とラインが入っていた。
「あ、あおからラインきてるじゃん〜ちょっとこれだけ返しちゃお〜」
携帯にぽちぽちと文字を打っていると、不意にとさっと左肩に重みを感じる。
「ん?」
きょとんとそちらを見てみると、織くんが凭れかかるように眠っていた。
すやすやと小さく寝息を立てている。
「…昨日夜更かしさんだったもんねぇ」
優しい声で言ってちょっとだけ笑った。
織くんは昨日遅くまで零衣とラインしていたから、保健室のベッドでいつでも快眠できるれーはいいとして、授業中絶対起きてるだろう織くんはそろそろ限界に眠くてもおかしくない頃だった。
「眠い時結構ぐっすり眠っちゃうもんね。いい子だよ」
微笑みながら右手で織くんの頭を優しく撫でる。
下に兄弟が沢山いるせいか、無意識に小さい子をあやすみたいにお兄ちゃんしてしまう時がたまにあった。
ふわふわで気持ちいい…。
織くんの黄色っぽい癖っ毛を何度も撫でながらその感触の良さに浸った。
ちょっとは気を許してくれてるってことなのかなぁ…?
誰とでも友達になるタイプじゃない人が仲良くしてくれたらいつも嬉しい。
「織くんはなんだか生きづらそうだもんね」
ぽんぽんと頭を撫でながら、聞こえる事のない独り言を言った。
何となくわかるの、っていうか分かりやすいかも。
あおに似てないけど似てるから。
いつも自信持っていなきゃいけないのかな?1番であり続けなきゃいけないんだよね。それが当たり前にされてるのって絶対プレッシャーだよね。
そんなのれーでも分かるよ。
きっと生きづらいだろうなって。
だって、人ってみんな弱いから。
どんなに強そうにしてても、1人の人だから、悩んだり悲しんだり、普通の反応したりするよね。
れーはそういうところを見ていきたいの。
だからさ。
「れーはずーっと馬鹿だからさ、織くん…」
れーの前では見栄張らないでね。
恥ずかしくて言えない言葉の代わりに、その体を抱き寄せた。


…ってゆーかなんでれーこんな織くん抱きしめてるんだろう。近いし。
いくらなんでも近すぎかなぁと思って離そうかなと思ったけど触れる癖っ毛も気持ちいいし、体温もあったかいし離れたくない…。
「飲み物全然飲んでないのにね〜…」
頭をなでながら、近いな〜、ほっぺに悪戯できそう…なんて考える。
お餅みたいでちゅーしたらやわらかいかなぁ?
いやいや、いくられーがびっちだからって許可なく寝てる友達に…そんなことしちゃだめだよね〜ってぐるぐる考えているうちに、織くんが薄っすら瞼を開いた。
「あ、起きたぁ?」
頭の中とは打って変わって、めちゃくちゃ明るく織くんに笑いかけた。
「え、えぇ…?」
「織くん寝てた!おねむだったんでしょー!」
「冷たっ」
笑いながらほっぺに冷たいペットボトルを当てると一気に目が覚めたようで織くんは跳ね起きた。
「ふふふ、ごめんねぇ。眠いのに無理に引き留めて」
「いや、大丈夫だから…」
「そう?」
少しぼーっとしていた織くんはこちらに向き直った。
「なんか…」
「?」
「夢見たのに忘れた」
「あらら」
残念、と思いながら零衣も飲み物を口にした。
冷たさが喉を通っていく。
織くんにいたずらしそうになっちゃったぁ。危ない危ない。
「よく寝てたよぉ」なんていいながら、れーはずっと悟られないようにいつも通りのままでいた。
れーの夢でも見たのかなぁ?見てたらいいな。
そんな事を考えながらばいばいしてからもラインがきたらちょっとだけ嬉しくなっていた。


「あおいないじゃん」
どこ行ったんだあいつと思いながら1人でおうちのベッドに転がっていた。
別にいなくても気にならないけど、1人は寂しいなぁって思う。
今日織くん寝てたのなんか可愛かったなぁ…。
織くんにラインを返しながら、やっぱり今日隣でもたれて眠っていた織くんのことを考えてしまう。
あの肩の熱を無意識に思い出してしまっていた。
うーん…。
なんか考え始めるとうずうずしちゃう。
ほんとは友達だから理性で止めたいけどやっぱり…。
…ちょっとだけ、だから…。
無意識に右手をズボンの中に忍ばせると、下着の上から性器にそっと触れた。
突然の刺激に身体がピクリと震えるのが分かった。
「…っ」
何も考えないように携帯を裏向きにして枕元に置く。
織くん、れーがこんなことしてるなんて絶対思ってないだろうなぁ…。
そう思うとちょっとだけ、ちょっとだけ興奮する。
指を上下にゆっくり動かすと、少しそこが存在感を増すのが分かった。
「ん…」
今日の織くんの顔が脳裏に浮かんで確実に身体が反応する。
気持ちいい…。
我慢できなくなって下着を下ろして直接触れると、やっと触られたとばかりに身体が震えた。
「…はぁっ…」
先走りを手にとってゆるゆると手を動かすと、抗えない刺激に呼吸が荒くなる。
「ど…しよ、…きもちい……」
息遣いが気持ちいいときの声になっていて、自分でもすごくえっちだな…って興奮してしまう。
手の動きと共に自分のものが硬く上向きになっていく。
俺…織くんのこと好きなのかな…。
「んっ……あ、…」
ぐちゅぐちゅと音を立てて擦ると、気持ちよすぎて何も考えられなくなってきて、頭がぼんやりしてくる。
どんどん身体が熱くなってくる。
声を出したいけど出せずに、中途半端に快感を我慢している。
「織、くん…」
左手でスマホを手に取ってハートのスタンプを1つだけ送る。
いつもハート乱用してるし違和感ないよね、と思ったらすぐにいつも使っているスタンプが1つだけ返ってきた。
織くんの存在を感じてちょっと嬉しくなってしまう。
「ん…あっ…!」
指の刺激に思わず声が漏れて、罪悪感に駆られながら今日一緒に撮った写真を開いた。
「んっ…、ごめ、ん…ね……はぁ」
写真の織くんを見ながらぐちゅぐちゅとと手を上下させると、その度に吐息混じりの声が漏れた。
この人の求める目が俺だけを見てくれたら…。
そんな想像をした時身体がびくりと一際大きく跳ねた。
「ぁ…!」
びゅっと勢いよく白濁を吐き出し、掌に生暖かい感触を残した。
「抜いちゃっ、…たぁ…」
整わない息で、何度も深呼吸を繰り返す。
身体がどくどくいってる…。
顔まで真っ赤になっているのを感じていた。


普通に、普通にごくごく普通に
「来ちゃったぁ…学校」
「れーさん?」
「なんでもなぁい」
不思議そうにしているあおに秒速で返事して、靴箱でスリッパに履き替えた。
「あ〜あ、学校行きたくないなぁ」
「え…れーさんなんかあった?」
れーはいつも学校が大好きだから、凄い心配してくるのも無理ないあおに大きなため息をついた。
「マリッジブルーだよ」
「…?」
使い方は合ってるのか知らないが、あおが困惑した顔をしてるので間違っているんだろう。
「れー、普通に元気だから心配しないで」
「そう…?」
あおの頭をなでなでしてあげるとようやく落ち着いたのかそのままれーは保健室へ、あおは教室へとそれぞれ向かっていった。

昨日いっぱい考えた。
友達だけど、うっかりちょっと抜いちゃったのか、それとも好きなのか。
だけど、友達とはやっぱり違うと思う。
いつも零衣に気を許してくれている表情の、その先も見てみたいと思ってしまった。
「織くんかぁ…」
思わず声に出ていたのを、手を当ててお口チャックする。
織くんからの好意は感じる、ただ、恋愛的に好きになってくれるだろうか。
いつも人はある程度思い通りにできるのに、織くんだけは上手くいかない。
それは、零衣が本気で好きで…失敗出来ないからなのかな…。
今まで恋愛で困ったことなんてなかったのに。
欲しい人なら全部、手に入れてきたのに…。
でも、喋んないことには分かんないよね。
"織くん放課後屋上で喋りたいことあるから時間空けといて♡"
送信してから気付いた。あ、これもう後戻り出来ないじゃんと。
自分が勢いで行動してしまうことをすっかり忘れていた朝だった。

「で、話したいことって?どうしたんだ?」
織くんが不思議そうな顔で零衣を覗き込んでくる。
放課後の屋上で2人っきり。
改めてじっくりみると綺麗な顔してるなぁ。
整ってるしカッコいい。睫毛長い。
また見上げる態勢になったのでそのまま抱きついた。
自分のパーソナルスペースの間隔故かこれぐらいならよくやってる気がする。
「今日授業頑張ったぁ?」
「頑張らなくても簡単すぎてつまらない授業だったね」
「じゃあ今日はおねむじゃなくてゆっくり寝れたぁ?」
「昨日早めに眠ったからゆっくり眠れたよ」
「そっか!」
織くんがゆっくり休めたのが嬉しくて満面の笑みで抱き締めると頭を撫でてくれた。
こうやって甘えさせてくれるところが大好き。
ぎゅーっと抱きしめて、そのままどれぐらいそうしていたんだろう、ずっと織くんの温もりを感じていたかった。
一旦抱き締めるのをやめて織くんの目を見つめた。
それから目を閉じて1つ息を吸うと、もう一度織くんの目を見て笑顔を浮かべた。

「愛してるよ、織くん。俺と付き合って」
あまりにも自然に言葉が出てきて、緊張なんて嘘だったかなと心の中で小さく笑った。
「…へ⁉」
数秒固まって、素っ頓狂な声をあげたかと思うとみるみる顔を赤くした。
あれ、なんか思ってたのと違うな…?
「織くん?」
「え、な、なんて…⁉」
「愛してるよ、俺と…」
「あー言わなくていいから!」
慌てふためいて大声をあげる姿は、本当に普通の高校生で、れーと同い年の男の子なんだなぁと思って、ちょっと安心した。
「織くん、あのね、れーはずっと織くんの安心できる場所になりたいよ」
「……」
ぽかんと口を開けている織くんを抱き締めると、驚いたように体が少し震えた。
「ねぇ、れーは織くんのこと、大好きになっちゃったよ」
その胸元に頬擦りすると、まだ照れているともなんとも言えない表情のまま織くんは固まっていた。
「あ、蒼音と…一緒だろ?いつも」
「あいつはどうでもいいんだよ」
双子独特の毒舌をかましてれーは織くんをぎゅっぎゅと抱き締めた。
「好きになっちゃったんだもん。放っておけない。れーが側にいたい」
「そ、れは…」
まだ顔が赤いまま困ったように目線を逸らし、それでも包み込むように軽く抱きしめ返してくれた。
そのままどれぐらいとも分からない沈黙が流れた。
「側にいてくれるのか…?」
絞り出すような声で言葉が降ってきた。
「いるよ、ずっと」
零衣はそれに確信を持って言葉を返した。
何かを確かめるような織くんの言葉。
「好きなのか?」
「大好きだよ」
…やがて、少しだけ抱き締める指先に力が込められた。
「…お願いします」
「…うん…!」
織くんはもう真っ赤だったかもしれない。
俺はやっぱり織くんから言葉を貰うと嬉しくなるなって思いながら、思いっきり頷いた。
「ねぇ織くんこっちきて」
「ん…⁉」
頭を引き寄せて流れるようにキスをした。
ちょっと驚いてることなんてお構い無しに舌を差し込んで腕を首に回す。
「っ…」
「ん…」
織くんのおいしー…。
吸い出すように舌を絡めたり口蓋をなぞると、その度にびくびくと反応している気がして嬉しくなって夢中でキスした。
「れ、…」
最近ちゅーしてないのかなぁ?可愛いなぁって思いながら夢中で愛情を注ぐと段々織くんの目がとろんとしてくるのが確認できた。
「ふぁ…」
「はぁ……」
顔を離すとそのまま透明な唾液がツーっと伝ったので、指で絡め取ってぺろっと舐めた。
「すっごい興奮しちゃったぁ…あ、良かった。織くんも興奮してるんだね」
「っ⁉」
そのまま織くんの股間に触れると少し反応していたが、驚いたように一歩後ずさられた。
「れ、零衣…ちょっと…」
「れ〜はぁ、このままお外でえっちされても全然いいし興奮するけどぉ、やっぱ雰囲気大事にするならホテル行こ!」
持ち前のびっちさ全開で発言してることもあまり気にとめず、キラキラした目で織くんを見つめる。
「ちょっと待て……展開が…早い‼」
やっと言えたとばかりに織くんは肩で大きく息をしている。
「え?」
きょとんとした顔で織くん上目遣いで見つめ返すと、呆れたようにため息をつかれた。
「確かにお前のことは好きだけど、もうちょっと、落ち着いてくれないと、その…」
「どしたの?」
引き寄せるように抱きしめられる。
「……心がもたないから…」
「じゃあ、れーいくらでも待つよ!」
「そういう意味じゃないんだよ…」
また一つ大きなため息をつかれるが、好きって言われたのと、抱きしめられたので嬉しくて仕方がなかった。
「…大事にしたいから……」
恐らく聴いて欲しくなかったであろう小声を地獄耳で拾って、「やったー」と織くんに甘えた。
やっぱりれーは織くんが好き!
そのままお互い気が済むまで抱きしめあっていたのを、見ている者は誰もいなかった。