*小説 info アネモネ


エピローグ

プロローグと対

※ここまでの話のネタバレを含みます

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エピローグ・a

れーは喘息持ちだった。
少し大人になりたくて吸い始めた煙草。
本当にニコチンの中毒性というのは作用するみたいで、イライラした時に吸ったら落ち着く、みたいなのは嘘じゃないらしい。
その感覚もなんとなく理解したが、結局少し肺まで煙を入れるだけでも、元々喘息のれーの気道は狭くなって息が苦しくなるし、そこまでニコチンを吸い込んでいる訳ではなかった。
そうしたくても出来なかった。
だから結果として今もそれほど中毒になっている訳じゃないし、口の中で少し煙を転がして吐き出すぐらいだった。
煙草があると人の本音が知れる。
れーはそう思ってる。
煙草を吸うれーを見た人の反応がいつもと変わるから。
あおが…すぐに死ぬような真似はしないでって泣いてくれたから。
織くんが、だめだって心配して泣いてくれたから。
それだけで十分だった。
それだけ困らせて、我儘を言って、ちょっとだけ楽しかった。
心配してくれて嬉しかった。
だかられーは煙草が好きだ。
ちょっと構って欲しい時とか、誰かの本音が知りたい時とか、煙草を吸う人とこっそり仲良くなりたい時とか。
みよっちに取り上げられても、呆れたように笑われても、それで話題の種になるなら良かった。
れーの大切なお守り代わり。
そんな事を夜のベッドでぼんやり考えていた。
丁度隣でパズルゲームを1ステージ終えたらしいあおがお布団のシーツの音を微かに立てながらこちらを向く。
「どうしたんですか?ぼんやりして。携帯は見ないんですか?」
「んーん、別にれーそんなに携帯中毒な訳じゃないんだよ」
「そう?」
「れーって依存しないから」
「はぁ…」
不思議そうな顔でそう言って、あおは携帯を充電器に差し込んで布団を被った。
「そろそろ電気消そっか。おやすみ、あお」
「おやすみ、れーさん」
そして、暗闇が広がった。



♡♡♡


エピローグ・c

「あのね、れーね、煙草って大好きなの」
微睡むベッドで不意にそんな事を呟いた。
「はぁ?もうやめてるよな?」
隣にいた織くんがほんの少しだけ不機嫌そうにれーを見てくる。
珍しく休みがしっかり合ったので、こうやって2人で夜ベッドで寝られる事が幸せだった。
「もう持ってるだけだよ。…あははは、あははっ」
ちょっと色々思い出してしまって思わずれーは笑ってしまった。
「何がおかしいんだよ」
「ふふ、ちょーウケた」
急に笑い出したれーに困惑した織くんの腕に抱きついて、ぴったりと体を寄せた。
「昔、あおとも同じやり取りしたの」
「あおと?」
今はあおの話を出しても織くんは嫉妬したりしない。
それはれーに1番愛されてるって織くんが自信を持ってくれているという事だ。
「そうそう、その時は、理由、言わなかったんだけど。なんていうか、れーはお守りの意味で好きなんだ」
「お守り?」
織くんがれーの頭を撫でてくる。
その細くて綺麗な指のくすぐったさと温かさが凄く好きだ。
「うん…。例えばさ、ホストしてる時だったら煙草吸う女の子とかキャストにも分けてあげられるし、吸う人とも仲良くなれるでしょ?それにさ、昔の話だけど、心配してくれるじゃん、れー喘息だから」
「ああ…」
昔のことを思い出したのか、織くんがぎゅっと抱きしめてくれた。
抱きしめ返しながられーは続ける。
「もう必要な分の心配は貰ったよ、十分。めちゃくちゃ嬉しかった。困らせてごめんね、織くん。…大好き」
そう言って、れーは織くんに触れるだけのキスをした。
織くんはそれをそのまま受け入れて、身長差のあるれーを両腕で抱き締めてくれる。
「あの時、お前にもっと生きたいって言われて、自分の無力さを思い知ったよ。…どうしようもないことだらけだった俺を、救ってくれたのは零衣だから…」
「なんで?れーも織くんに救われて、織くんのおかげでちょっと自信もてたんだよ。あの時からずっと、織くんのこと好きだったよ」
腕の中で愛しい人を見つめながら、そっとその頭を撫で返した。
俺たちは、お互いにお互いが必要だったんだ。
1人でも生きていけたぐらい自立していた俺たちが、二人揃ってもっと特別で最強になれたから。
時が止まったように、青い瞳とピンクの瞳がじっと見つめ合う。
「織くんの言葉が1番嬉しかった」
本気だった。
本気で心配して泣いてくれたところとか、今だって誰の悩みにでも真剣に向き合ってあげるところ、れーの兄弟にだって丁寧で優しいところ。
あおとれーを一緒にしないところ。
「誰とでも真剣に関わってくれるところ、それが、れーは…っ」
言おうとしたら涙が込み上げてきて、それに自分でもびっくりしてしまって恥ずかしくなって織くんの腕に顔を埋めた。
泣くつもりじゃなかったのに、ほんと、なんか柄じゃないな…。
そう思いながらも織くんの体温は温かかった。
「零衣。…表面上の俺じゃなくて、俺の内面まで踏み込んできてくれたところ、それが嬉しかった」
落ち着いた声で、織くんが話しかけながら頭を撫でてくれる。
こんなところが愛しくて、抱き締め返す腕に力を込めた。
「えへへ」
そのまま抱き締め返して涙をまとったままにっこり笑った。
今どんな顔してるかな?
絶対幸せな顔をしてると思うんだ。
お互いが特別になれて、支えになれているんだと思うと凄く嬉しい。
煙草も控えて喉や体調に気を使うようになってから凄く調子がいい。
このままずっとずっと織くんと生きられるんだろうなって確信を持てるぐらいに。
「明日休みじゃん。いっぱいいちゃいちゃしようね」
「パンケーキ食べに行こうな」
「うん!」
変わらずパンケーキが好きな織くんにクスクス笑って寄り添った。
明日も幸せな日でありますように。
「おやすみ、零衣」
「うん。おやすみ、織」



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ここまでで書籍に入れた内容は終了になります
書籍ではこのあとに蒼音と朱織さんの2万字対談などが入ります(笑)
ほんとは紙面で見てほしいけど対談は蒼音に言ってくれればもしかしたら見せられるかも

今後もれーおり書いてますし、
あおくんとか茜くんの話も書いていますのでぜひ見て下さいね。
あと感想をくれると飛び跳ねて転がって喜ぶよ。