俺の出来ること

試合がはじまって、決められた飛雄と翔陽の速攻。改めて思うけど、さすが、使いどころによっては物凄い武器になる。そう確信した。でも、今は敵だ。勝ちたい。


「レフトォ!!」
「田中さん!」


龍のパワーあるスパイク。止めるためにはタイミング重視だ。素早く跳ぶ体勢を作り、構える。そうだ。点をとる方法はスパイクだけではない。ならばこれは俺の仕事。力を込めて、ここぞというタイミングで、跳ぶ。「これは決まった」とわかる掌への刺激。


「どシャット!!!」
「綾人さんすげぇ……!」
「あのイケメン兄ちゃんレベル高ぇな」


俺はエースではない。一試合フルで出ることも出来ない。でも俺は、俺のやり方で点を取る。試合に出られなくてもチームを勝ちに引き寄せる方法を全力で絞り出す。


「今は、何回ブロックにぶつかっても、もう一回打ちたいと思うよ」


旭……
その表情に決意を感じた。あのひげちょこ旭め。そんな言葉聞いたら、こっちまでテンション上がる。


孝支がトスを上げて、旭が打つ渾身のスパイク。しかしまた3枚ブロックに阻まれる。頭をよぎるあの敗北。
そんな時に目に映るのは、ボールの先に飛び込んだ、小さな掌。
夕……!この為にお前は、ブロックフォローを練習してたのか。胸が熱くなった。みんなが、エースを待ってる。みんなが、自分がやれる方法でチームを勝ちに近づけようとしている。



「壁に跳ね返されたボールも、俺が繋いでみせるから、だから、」
「俺の戦略とブロックで、万全の体制で挑める形を作る。だから、」
「だからもう一回、トスを呼んでくれ!!エース!!!」


ほら、みんな待ってるんだ。烏野のエースを。


「スガァーッ!!もう一本!!」


あ、このトスは。
いつも孝支が旭のために上げるトス。高めでネットから少し離した、「旭、これが一番打ちやすいんだよな」って嬉しそうに話す顔が浮かんで。


打ち切ったお前は、やっぱりエースだよ。