嫌いになれない

○「なんか綾人さんって、“ 日本代表 ”!とか言っても違和感ないですよね??!」
「日向なんだそれ」
「わからんでもないけど」

GW合宿初日の夜。全員でご飯を食べていたら突然そんなことを言い出した翔陽。本当唐突。


「まぁ日本代表目指してる身からしたらその言葉は嬉しいよ」
「え?!日本代表??!」


そう。俺の将来の夢、というやつだ。


小学生からバレーをはじめて、その時は、強くなりたい。強いといえばテレビで見る日の丸を背負った選手達。というイメージから漠然と将来の夢に「バレーで日本代表になる」と掲げていた。卒業文集にも書いたっけ。


それから北川第一中に進学して、レベルの高い選手に囲まれて、自分自身もそこで腕を磨いてきたと思うしたくさんの経験をして、相手の長所短所、味方の調子、戦況を加味して戦略を立てる。そしてそれをチームで実行する。
色んな出来事の中で葛藤はあったけど、俺はレギュラーとして試合に出させてもらっていたから、ミドルブロッカーとしての仕事をしながら、頭脳でチームを支えることを自分の役割として、いかにこちらに勝ちを引き寄せるか。ということを常に考えていた。その頃には「日本代表」という目標はよりリアルなものになっていた。


だけど高一の時、俺は怪我をした。リハビリのおかげで日常生活に支障はないし、スポーツもある程度なら出来る。けど、一試合フルでは出られなくなったんだ。もちろん練習も足に負担をかけすぎないように一部は別メニューだ。


俺が努力する意味であった「日本代表」の夢は絶望的なものになった。


バレーが生活の大半を占めていたのに、それが満足に出来ず、夢も諦めざるを得ない状況。一度は辞めてやろうとも思ったけど、どうしてもシューズを捨てられなかったし、辞めたところで俺には何も残らない、とも思った。


そんな俺でもありがたいことにベンチ入りさせてもらっていて、ピンチサーバーか、あるいは戦況を変えるための要員として試合に出ていた。試合独特の緊張感と高揚感は、いとも簡単に俺の気持ちをまたバレーに引き戻した。