きっかけは突然

ある試合で、このセットを取らなくては終わってしまう。という状況のタイムアウト。スコアは忘れもしない、18-23。


試合開始からベンチでずっと頭をフル回転させていた俺は、どうすれば追いつけるのか。誰を使うべきか。どんな動きをするべきか。どう相手を崩すのか。それとも攻撃のパターンを変えるべきなのか。何か奇襲でもするべきか。この危機的状況を抜け出すには……


生意気だとはわかってる。でもここで何も言わずに後悔するのは嫌だ。


「監督、先輩。俺の作戦を聞いてもらえませんか」


急にそんなことを言い出す俺に全員が驚いていたけど、先輩の一人が、「中学んときもお前の作戦のおかげで勝った試合もあるんだろ?」と言ってくれたのがきっかけで、みんなが俺の話に耳を傾けてくれた。


一通り動きと作戦の意図を説明したところで、主将が俺に疑問を投げかけた。


「綾人は出ねぇのか?」
「はい、この戦略でなら俺が入るよりも今出ているメンバーの方が決まる確率が高いと思います」
「作戦っていうもんだから、てっきりお前が入る前提だと思ってた……」
「俺が入った方がいい戦略が浮かべばそれも提案しますが、今のプランでは俺が入ることは最善ではないので」
「やっぱ綾人すげぇわ」
「え……?」
「任せろ、お前の作戦、必ず成功させてみせる」



あぁ、先輩ってすごい。かっこいい。って単純に思った。言葉の力は心に響く。

コートに戻った選手達を見守って、もしもこの作戦が上手くいかなかった時のことを考えてまた頭をまわす。


けど、その心配はなくて。
上手くいったんだ。俺が考えた戦略が、俺が出ずとも実践されて、点が入って、遂には追いついて、追い越した。このセットを取ったのだ。


この時の高揚感は計り知れなかった。鳥肌が立って、心臓がうるさくて、呼吸が浅くなって、でもそれが何故か心地よくて。


大丈夫だ、俺はまだ夢を諦めなくていいんだ。俺は、「日本代表の指導者」になって、俺の戦略で日本を勝利に導きたい。



「っていうことがあってそれからかなぁ、目指そうと思ったのは。てか喋りすぎた、ごめん」
「綾人さんかっけぇー!」
「本当男前がすぎるな綾人」
「まぁ今はあれだよ、それよりも前に目指してる夢はある」
「なに?」
「烏野で、このメンバーで、日本一になる」
「……!」


やべぇ、大盛り上がりだこいつら。あんま騒ぐと怒られるっていうのに。まぁ、今日だけは許して、もらえるかな?