もしかして初めて?

目が覚めた。見慣れない景色。そうか、今日は合宿所にいるんだった。まだ外は暗いしみんな眠っている。中途半端に起きてしまった。さっき綾人さんの「夢」の話を聞いたからか、なんだか興奮してしまって眠りが浅い気がする。喉が渇いてるし、水でも飲みに行くか……

誰かの足を踏んでしまわないように慎重に部屋を出て食堂へ。と思ったら先客がいるのかただの消し忘れか、電気がついてる。

何てこともないんだけどこっそりと静かに扉を開けた。中を覗くとすらっとした後ろ姿があって、扉の音で気付いたのかゆっくりとこちらを振り返った。


「綾人さん、」
「あれ、飛雄、もしかして起こしちゃった?」
「いえ、喉が渇いたので」
「そっかそっか」


手招きをされて中に入れば渡されたコップ。そのまま近くの椅子に座る綾人さん。


「あざす」
「ん、」


座りなよと言わんばかりに隣の椅子をひいてくれたので、ちょっとどぎまぎしながら座った。
数口水を飲んだところで、綾人さんは椅子に膝を立てて足の指をさすっている。


「寒いんすか?それかもしかして、怪我っすか……?」
「いや、さっき部屋出てくる時に、思いっきりドアに小指ぶつけて」
「……大丈夫ですか?」
「今はもう平気。ぶつけた時は折れたかと思ったけど」
「あぁ、わかります。意外と小指って強いっす」
「だよね。ぶつけた音で起きちゃったかと思ったけど、そうじゃないならよかった」
「そんなすごい音したんですか」

くすくすと笑う綾人さんは何だかいつもより幼く見えて不思議な気持ちだった。それからは高校は慣れたか、だとか、教室でも大地さんはお父さんみたいだ、だとかそんな他愛もない話をした。


多分、初めてだ。こんなに綾人さんと話すのは。


苦手意識があってあまり近付こうとしなかったし、話すとしてもバレーのことばっかだったし。普段の綾人さんはもしかしたら俺が思ってるよりもずっと話しやすいのかも……?


「やべ、ごめんこんな時間まで。そろそろ戻ろうか」
「ウッス」
「寝坊したら大地に怒られる」
「それは嫌です」


肩を並べて部屋へ戻って、口パクで「おやすみなさい」と挨拶をして、もう一度目を閉じた。少しの間眠れなかった。