主役みたいな人
翔陽の底なしの体力にたじたじだ。まだ試合をしたそうにしていたけど、俺達も東京に帰らなくちゃいけないからって止められてた。
全員で体育館の片付けをしていたら物凄い視線と圧力を感じてびくびく。翔陽が言ってた「ガァーって感じのセッター」って絶対アレのことだ……逃げよう。
「あ、研磨くん」
「……!」
あの頭の良いミドルブロッカーの人に話しかけられた。逃げたはずなのにこっちに捕まるなんて……
「音駒の守備力すごかった。色々参考になったよ」
「……いえ」
「俺、研磨くんみたいなプレー好きなんだよね」
「……どうも」
「なんか主将くんにすごい見られてるから俺もう行くね。あ、翔陽と仲良くしてくれてありがとう、これからもよろしくね」
ふわりと微笑んでから踵を返す背中を見送って、ふぅ、と一息つく。あの人、頭もいいけどきっと人の顔色や感情を読むのが得意なんだと思う。こわい。
「研磨」
「なに、クロ」
「あの赤髪ミドルブロッカー、なんだって?ナンパか?」
「……バカなの?」
またしょうもない冗談ばっか言ってる。適当にあしらって簡単に済みそうな片付けに入ろうとする。なのにクロはまだ話す気みたいで、でも今回は真剣な声色。
「あのミドルブロッカー、あんま出てなかったけど実力は相当だよな?」
「頭いいしそれを活かす技術もあると思う」
「烏野では珍しいタイプだな」
「なんか翔陽とは真逆」
「ちょっと興味あるんだ、珍しい」
「……別に」
派手なプレーをする訳ではないのに、あの人はコートに入った瞬間、まるで主導権を握っているみたいな雰囲気を感じた。単純にすごいな、とは思ったけど別に興味があるかといえばそうではないと思う。それに、
「なんかあの人目立つし、近くにはいたくない」
「言うと思った」
クロの視線の先には椅子を片付けるあの人がいて、多分クロ、何か企んでる顔してる。巻き込まれたら嫌だから話の途中な気もするけどさっさと海くんの所に逃げた。