知らない君

部室で着替えていると続々と集まる部員。無事に入部を果たした1年も今日から一緒にここを使う。

「あれ?綾人さんは一緒じゃないんすか?」
「女子から呼び出しだってさ〜」
「モテる男は違うっすね……!」


俺と大地と綾人は同じクラスだ。大抵一緒に部室へ来るけど、何か当番があったり、綾人が呼び出されたときは別だ。すらりとした体型にさっぱりとした涼しい顔立ち、そして透けるような白い肌。更には冷静沈着とくればこれはもうモテないはずがない。そんな綾人といえば、


「ねぇ影山。綾人って中学の頃どんな先輩だったの?」


俺達は高校での綾人しか知らない。影山は同じ中学に通っていたから、俺達の知らない綾人を見ているかもしれない。という単なる興味本位の質問だった。みんなも気になるみたいで、各々準備をしながらも影山の答えに耳を傾ける。


「どんな……とにかくすごい人です」
「例えば?」
「分析力がすごくて、敵味方関係なく長所短所、相性を分析してそこから作戦や試合を組み立てていて、それで勝てた試合もたくさんありました」
「すげぇ、中学の時からなんだな……」
「それにスパイクのフォームは綾人さんを見て覚えました」
「さすがハイスペック綾人」


この天才影山が真似をするフォーム。確かに綾人はパワーは劣るものの、その美しいフォームから繰り出されるスパイクは打つまでコースがわからない。それを活かした空中でのテクニックに何度も助けられているから、影山の言葉には納得がいった。


「でも、何でもお見通しって感じで俺は正直苦手です」


整った顔立ちにあの吸い込まれそうな瞳。影山の言う事はわからんでもない。そして分析力や洞察力の高さを知っているからこそ、後輩でありコミュニケーション下手な影山からしたら苦手意識を感じるんだろうか。


「確かに綾人の前だとなんかどぎまぎしてたよな」
「なんというか……あの人の前だと緊張するというか、話した後あつくなります」
「あつく?気持ちが?」
「いや、身体が。それに胸が痛くなるし、やっぱり苦手です」
「それって……?」


それってまるで恋だべ?
あえて声に出さなかったけど、大地も縁下も田中でさえもそう思っていそうな顔をしていたが、当の本人もそして日向もよくわからないといった顔をしていた。