君の表情はわからないけれど

第3セットは、ピンチサーバーとして入った徹に翻弄され、危ないかと思ったが見事飛雄と翔陽のあの速攻が決まり烏野が勝ちをもぎ取った。


「大地、トイレ行くから先に行ってて」

と、バスへ戻る直前にみんなから離れて行動している訳で。遅くなっては迷惑がかかるからさっさと済ませて駆け足でバスへと向かってるんだけどさ、視線のずっと先に烏野と徹の姿が見える。嫌な予感しかしない。足を止めて様子を伺う。どうせ徹のやつはまた引っかき回してんだろうけど。今このタイミングで俺があの場へ行けば、面倒臭さこの上ないことになりそうだ。部員達を巻き込む訳にもいかないので、しれっと気配を消してバスへ戻ろう。今の俺は忍者だ。


早足で、でも足音はたてないように、歩みを進める。青葉城西の生徒もちらほらいるし、よし、この調子で行けるぞ。目を合わせない、顔を見せない。


「ちょっと綾人!」


待って何で気付くの。今すげぇ喋ってたじゃん。


「徹、お疲れ。またね」
「久しぶりに会ったのにひどくない?!」


部員達に何を言ってたのかはわからない。けど、こいつらの表情でわかるよ。きっと余計なことを言ってくれたんだろう。本当、はじめに叱ってもらおうか。


「綾人、たまには連絡ちょうだいよ。練習ない日会おうってずっと言ってるのに会ってくんないし」
「俺も色々忙しいんだよ。ちゃんと会う気はある」


徹とは中学で3年間同じチームで過ごした仲だ。助け合ったし、いろんなことを一緒に乗り越えてきた。大切な仲間。


「でも、」
「ん?」
「俺の“ 仲間 ”をとやかく言ったらいくら徹でも許さないよ」
「……!」
「行こう、みんな」


「またね」と後ろ手にひらりと挨拶をして足早にその場を去れば、少し遅れてばたばたと足音が聞こえる。最後に徹の顔を見ずに歩いてしまった。彼はどんな表情をしているのだろう。驚いた?怒った?悲しんだ?それとも……?


「及川も言っていたけど、確かにインターハイ予選まで時間はない……けど、そろそろ戻って来る頃なんだ」
「?何がですか」
「烏野の守護神」
「楽しみだな」