地味でもなく派手でもない。私は所謂女子学生Aである。
良くも悪くも「普通」な私は、「目立つ」橙田くんを見ていることしか出来ない。話しかけるなんて当然出来るはずがない。
だからこそ芸能人に対して感じる憧れみたいな気持ちを橙田くんに抱いていて、それは私だけではないこともちゃんと知っている。
そんなある日。私は職員室から教室へ、クラス全員分のノートを運んでいた。重くないといえば嘘になるけど、運べないほどでもない。
教室がある階へと階段を登って、踊り場で折り返す時。バランスを崩してノートが床に散らばった。手には5冊程しか残らず、後は全て拾い上げなければいけなかった。……ついてない。
渋々しゃがみこんでノートを集めていると、
「大丈夫?!」
声のする上を見ると、みんなが噂している橙田くんが丸い目をさらに丸くしてこちらを見ていた。と、思ったら私が声を出すより先にノートを拾ってくれているではないか……!
「あ、大丈夫!ありがとう!本当に大丈夫だから!」
まさかあの橙田くんがハプニングとはいえ私に話しかけてくれて、さらには手伝ってくれるなんて、夢にも思っていなくて。
「わ!あんなとこにも転がってる!」
大きな声を出して私を通り越し、下の階まで滑り落ちてしまった分まで拾ってくれた。
「これで全部かな?」
「うん、多分全部。ありがとう」
集めてくれた分を受け取ろうとすると、逆に私の分を奪われていて、
「何組?」
「え?」
「君、何組?これ持っていくんでしょ?」
咄嗟にクラス名を呟くと、「オッケー」と軽く返事をして、オレンジ色の髪をふわふわと弾ませながら私より先に階段を登っていってしまった。
「あの、え?ノート……」
「早くおいで!置いてっちゃうよー」
いたずらに笑う橙田くんに、「あぁ、これが恋か」と勝手に腑に落ちた。それからはもう教室まで大した距離ではないのに、目を泳がせながらもその後ろ姿をチラチラ見ながら付いていくことしか出来なくて、このまま彼を見ていたいという気持ちと、照れくさいから早く教室に着いてしまいたいという気持ちが混在して心臓がうるさかった。
そして橙田くんはなんの躊躇いもなく私のクラスのドアを開けて、教壇の上にさっき拾い上げたノートを置いてくれた。
「今度は気を付けるんだよ」
ふわりと私に微笑みかけてくれる橙田くんに、これは夢なのかもしれないと思いながらも顔が熱くなるのを抑えられずに「ありがとう」と小さい声で伝えるのが精一杯だった。