忘れる訳がない

ついにやって来ましたこの時期が。憂鬱で仕方ないけど学校に通う以上仕方のないこと。誰だ、テストなんて制度作ったの……

中間テストでは赤点をギリギリ免れたものの、次はどうかわからない。そのくらい崖っぷちである。補習があったりするのは面倒だし、成績はいいに越したことはない。

こうなったらやはりあの人を頼るしかないか……

とは言ったものの、征十郎くんとは中間テストの順位発表の時に話したっきり顔を合わせていない。正確に言えば見かけることはあったけど話し掛けるには至らない程度だった。

もしあれが社交辞令だったら、のこのこと「勉強教えてくれ」と頼みに行くの、鬱陶しがられるかな。きっと忙しい人なんだろうしなぁ……


なんて、俺はうじうじしない。無理だと言われれば引き下がればいいだけ。当たって砕ける精神も時には必要だろ。よし!乗り込め!俺!


教室の後ろのドアを開け、ぐるりと見回せばすぐに見付けられた凛とした後ろ姿。躊躇ってはいけない。単刀直入に言おうじゃないか!彼の元へ歩みを進めて横顔に話しかけた。


「征十郎くん!」
「……橙田」
「わ、俺の名前覚えててくれたんだ」
「もちろんだよ、忘れる訳がない」


よかった。反応は上々である。もし忘れられていたら自己紹介から始めなくてはいけなかったけど、その必要はないみたいだ。

「勉強の話かい?」
「そう!もし征十郎くんがよかったら、勉強教えてほしいんだ」
「あぁ、もちろんだよ。都合がよければ早速今日の放課後はどうかな?」
「え!俺は大丈夫!」


才色兼備、文武両道、そして優しいのか赤司征十郎は。

「放課後お迎えに上がりまっす」
「じゃあよろしく頼むよ」


やわらかく微笑む征十郎くんに「王子様か」とツッコミを入れそうになった。あっさりと約束を取り付けた俺は、るんるんでスキップしそうになるぐらい軽い足取りで教室を後にした。