「……橙田君!」
体育館を出ていく後ろ姿を見つめて、ふと我に返ったように彼の名前を呼んだ。ボクをかばって勝負を挑んで、あっさりと勝ってしまった。嬉しくもあり少し悔しくもあり、そして疑問もたくさん浮かんだけどまずは彼を追いかけなくては話にならない。
静まり返る体育館をボクは無言で飛び出した。
角を曲がった少し先に彼はしゃがみこんでいる。丸く小さくなった背中に呼びかけた。
「橙田君……、」
「ごめん、余計なことしたよね」
「え?」
小さく丸まったまま、震える声で告げられた謝罪に驚いて彼に声を掛けられない。
「頼まれてもないのに突っかかって、勝負して、いつもテッちゃんからバスケ部の話聞いてるのに、自分がバスケをすることは黙ってたし、バスケに真剣だって知ってるのに俺は何も言わなかった」
彼自身も混乱しているのか、話にまとまりがない。でもなんとなく言いたいことは伝わって、なんて彼は優しい人なのだろうと頬が少し緩んだ。
「ボクは嬉しかったですよ」
「……どうして?黙ってたのに?余計なお世話なのに?」
彼の横にしゃがみ込み、その華奢な背中に手を置くと、そこからじんわりと体温が伝わってくる。
「ボクをかばってくれて嬉しかったです。バスケが上手な友人を持って誇らしいです。黙っていたことに関してはきっと何か理由があるんですよね?橙田くんはいつだってボクを応援してくれて、たくさん話を聞いてくれました。これからもそれを続けていきたいとボクは思うんですけど、橙田君は嫌ですか?」
「……嫌な訳、ない」
「ならそんな泣きそうな声をするのはやめてください」
「泣いてない……」
「それなら良かったです」
顔を上げた橙田君は下唇を噛みながら眉を下げて、ゆっくりとボクと目を合わせた。
「時間があるときでいいから、テッちゃんと話がしたい」
「はい、わかりました。聞かせてください、橙田君の話」