もっと褒めて

「テッちゃん相変わらずそんだけで足りるのー?」

初対面がおっちょこちょい事件だった俺達は、仲良くなるのにもそう時間はかからなくて、今日も一緒に学食を頬張っていた。俺は黒子を「テッちゃん」だなんて愛称で呼んだりして、それでもテッちゃんは俺を「橙田君」って苗字呼びをやめてくれない。


「橙田君はよくそんなに食べられますね」


俺の目の前には空になった定食のお皿と、鮭おにぎりにやきそばパン、メロンパンが並んでいる。


「まぁもっと食べようと思えばいけるけど」
「その羊のような見た目に反していますね」
「羊て」

テッちゃんは俺をよく羊に例える。何故だと問えば髪が天然パーマであることと、「可愛らしい顔立ちです。特にその二重の丸い目が」だそうだ。

所謂女顔らしい俺は、小さい頃はよく女の子に間違えられ、さすがに今はそれはなくなったけど、容姿をかっこいいという表現で褒められた事はあまりない。可愛いとか、癒し系とか、ぬいぐるみみたい、とかそんなことをよく言われる。それも褒め言葉であるからもちろんありがたく受け取るけど、やっぱ俺男だし、かっこいいって言われたいよなぁ。


「でもその見た目でそんなに食べられたりするのは男っぽくて魅力的です。ギャップというやつでしょうか」
「うぉ、もっと褒めて」
「調子に乗りそうなのでやめておきます」

男っぽくて魅力的。その言葉が俺にとって魅力的である。あまりされたことのない褒められ方をして、恥じらいと嬉しさでニヤニヤしているという自覚は大いにある。テッちゃんの「橙田君ってわかりやすいですね」という一言も今の俺には全く気にならない。なんてったって男っぽい魅力がある俺だからね!