1on1、3本勝負だ

日曜日、部活は休み。
それでも俺の足は自然とバスケしに向かっている。休息も大事だ、なんて言うけど、だってバスケしてぇんだよ、仕方ねぇ。
春の暖かい風が青い髪を揺らして少しくすぐったい。迷うことなくストバスのコートにたどり着いて、どうやら3on3の真っ最中らしい。


「……なんだよ、あれ」


バスケをしてる6人の中で一際強ぇ奴。見たことない、すげぇ奴。「上手い」っていうよりとにかく「早い」。
コートを縦横無尽に走るそいつは、体格差なんてまるで無視で次々に抜いていく。軽やかなそれに思わず見入ってしまう、こんなすげぇ奴、俺が見逃すはずねぇのに。


しばらく見入っちまった。気付けば6人は帰り支度をして、まさに今解散しようとしている。声、かけなくちゃ後悔する。直感でそう思ってそいつの元へ駆け出した。


「おい!俺とバスケしようぜ」
「え、俺もう疲れちゃったよ。散々バスケしたもん」

すげぇ嫌そうな顔。確かに汗だくだけど、それでも俺はお前とやりたい。


「1on1、3本勝負だ」
「話勝手に進めないでよ」
「その割りにやる気じゃねーか」
「売られた勝負は受けて立たなきゃ」


構えると共に始まった俺らの1on1。目の前にくると余計小さいのがわかる。高さの必要なバスケでこの体格。なのに周りを圧倒していたあの動き。実際に対峙するとどう感じるのか。
こいつが先攻。……つかやっぱ早ぇ。
緩急、フェイク、沈み込む上下の動き、そしてまるで身体の一部のようなボール捌き。
それが余りに流れるようで、反応はするものの追いつけない。楽勝、とでも言われてるような気になる余裕な背中。気が付いた時にはシュートは決まっていた。


「よっしゃー!まず1本!」


まるで太陽みたいな顔して笑うこいつ。俺のことを余裕で抜いたくせに曇りない笑顔を見せるから、胸がチクッと痛んだ。


「次は俺だ。ぜってぇ取り返す」


抜いてやる、よく見ろ。必ず隙はある。
フェイクを混ぜるけどそう簡単には引っかからねぇし、そんなことわかってる。一瞬ボールを取られそうになってひやっとしたけど、渡すもんかよ、絶対に。
ボールを強く股下の地面に叩いて、跳びながら少し強引に抜いた、はずなのに。もう前に出ようとしているこいつ。抜いてやるんだ。負けねぇ。
シュートフォームに入り、ブロックに跳んできたところで上体を後ろに倒し、そして、シュート。

「よしっ!」
「すげぇ!もしかしてお前もストバス育ち?」


キラキラと目を輝かせるこいつからは、バスケがすげぇ好きってことが伝わってきて、俺も思わず笑った。強ぇ奴とのバスケはやっぱりこんなにも楽しい。



「あ!いた!もぉ大ちゃん休まなきゃダメだよ!」
「さつき?!」
「お、彼女?可愛い〜」
「違ぇよ!」

いいところなのにさつきが来ちまった。しかも茶化すんじゃねぇよ!


「部活休みなんだから、ちゃんと身体休めなきゃ」
「うっせーな、いいだろ別に」
「ほら、俺ももう疲れてるし、今日はやめよー」
「まだ終わってねぇだろ!」


そそくさと帰り支度を始めるこいつ。もう今日はバスケする気はねぇのかよ。つまんねぇ、さっきまであんな乗り気だったのによ。

「でも、楽しかった!またやろうね、大ちゃん!」
「?!てめぇ、その呼び方やめろ!」
「俺はカケル。さつきちゃんと仲良くねー」


背中を向けて俺らに手を振る。カケルか。また絶対に抜いてやるし、次は抜かせねぇ!