星に問う
雨が降る、なんて、天気予報は告げてはいなかった。それなのに空は濃灰色で、空気はまとわりつくように湿っている。ぽた、と一粒落ちてきた雨が、鳩原未来の頬を濡らした。もう一粒落ちてきた雨はまた鳩原に落ちかかり、犬飼はまだ濡れていない。
「どうしてかな」
彼女はぽつりと声を洩らした。もう一粒、ぽたり。泣いているのかと思ったけれど、予想に反してそれは雨だ。ただしい涙の弱アルカリ性ではなくて、酸性の味がするのだとおもう。
「どうしておとなにならなきゃいけないのかな」
彼女がひとを傷つけられないこと。なにかとたたかうにはやさしすぎること。それは美徳と呼ばれるかもしれないし、こどもじみた忌避感と呼ばれるかもしれない。あるいは弱さゆえの無責任と誹られることもあるだろう。
彼女が求める場所へ行けないこと。
やさしさとよばれるものが、その道を阻むこと。
「はとはら」
安っぽい慰めの言葉も、陳腐な励ましも、たぶんふたりの関係には不似合いだ。ぽたぽたと雫のしたたる鳩原に、まだそれほど濡れていない犬飼はわらってみせる。
「いつまでも甘えてちゃいけないよ」
「……きびしいなあ、犬飼は」
むりやりみたいなつくり笑顔には慣れていた。本心をすこしもうつさない、うわべだけの言葉にも。
けれど、彼女の不在にはまだ慣れない。
濃灰色の空を見上げて、あの日言うべきだった正しい言葉を、今も探している。
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